第5回「マンガのある『場』、今はどこに?(前編)」
第4回の最後で、マンガと人が出会う「場」の必要性に触れた。どんなに推薦されても、そのマンガを自分がおもしろいと思うかどうかを知るには、やっぱり実際に読んでみるのがベスト。ネット上でつながったマンガ好きのネットワークが実際に集まってわいわいできる場所としてもリアルな空間は必要だ。
出版社、書店、図書館――その候補となりうるそれぞれのプレーヤーにやってみてほしいことを話す前に、今まであまり触れられなかったマンガとの接点、「マンガ喫茶」について考えてみたい。豊富なコンテンツとインフラを持つマンガ喫茶は、マンガ家や出版社にメリットが生まれるような仕組みができれば、コンシェルジュサービスの展開、電子書籍の限定配信など潜在的な読者にアプローチできる可能性がある。
マンガ喫茶は、読者との出会いの場になりうるのだ。
そもそもマンガは長く、子供のための娯楽で、大人にとっては暇つぶしのコンテンツだった。少し前まで、町中の飲食店や診療所の待合室にはマンガがおいてあったものだ(もちろん今でも置いてある店も多い)。マンガは食事をしながら気軽に読めるし、休憩時間のちょっとした気分転換にもなる。長編マンガなら、長時間待たされても飽きることはない。
そのマンガをより充実させた喫茶店が、マンガ喫茶の原型だ。時間つぶしだけではなく、もう少し積極的に漫画を楽しみたい、マンガが好きだけど家に置ききれない長編作品を読みに行きたいというニーズに対応したもの。ちょっとした軽食とマンガしか置いていないため「漫画純喫茶」ともいう。
2011年9月まで神田神保町にあった「漫楽園」、東京・品川の約2千冊のマンガを置く「喫茶マーブル」などがそうだ。都営大江戸線練馬駅前にある喫茶店「アンデス」もマンガが充実している。漫画純喫茶は、集客のためにマンガを集めたところが多いが、地域密着の喫茶店として、マンガ好きのコミュニティの憩いの場となっている。
私が主催するマンガナイトでも、「漫楽園」を読書会の会場として借りたことがあるが、ほかの場所でやる読書会とは違う層の参加者が多かった。「漫楽園」のようにマンガへの愛があるマンガ喫茶は、読書会以外にも、マンガ家を呼んだイベントが行われ、マンガ好きのコミュニティという意味でマンガ家や編集者ともいい関係を築いていた。
だが現在、チェーン展開するマンガ喫茶の台頭により、勢力図が一気に塗りかえられた。マンガ喫茶業界=チェーン店のインターネット・マンガ喫茶となってしまったのだ。
チェーン展開するマンガ喫茶――個室やブースのなかでマンガを読むタイプ――が1990年代以降急増したのは、隙間時間を過ごすなど暇つぶし空間として投資効率がよかったからだ。不便な場所のビルの一室でも経営はできる。さらにインターネットが普及したことで、暇つぶしの方法にネットサーフィンやオンラインゲームが加わり、マンガ喫茶はいつのまにか、ネットが使えてマンガも読める「インターネットカフェ・マンガ喫茶」へと姿を変えていった。こうした経緯から、チェーン系マンガ喫茶はマンガ文化や作品への敬意が薄いように思える。
また権利処理も難しい。レンタルコミックサービスなら貸与権があり、貸し出し実績に応じて、著作権者の収入になる。だがマンガ喫茶では、何度読まれてもその分を出版社やマンガ家に金銭的に還元するルートがない。そのため出版社やマンガ家からも好まれない存在になっている。
このままでいいのだろうか? そもそもマンガに親しむ人を増やすには、今以上に接点を増やさなければならない。マンガそのものがあるかぎり、マンガ喫茶はマンガと読者の接点である「マンガの場」になりうるのだ。
次回は、このような状況を踏まえ、次回ではそれぞれのプレーヤー――出版社からマンガ喫茶、書店、図書館、レンタルコミック店――にやってほしいことをまとめてみたい。
[マンガは拡張する:第5回 了]
(次回に続きます)
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