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廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら

廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら
第2回「話題になっているから、話題になる」(後編)

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第2回「話題になっているから、話題になる」(後編)
※前編はこちら

さて、ソーシャルメディア上での評判は、お金では買えないということを書きましたが、理解しておかなくてはならないのは、ソーシャルメディアは、「そもそも話題になっているものが、話題になる場所だということです。

例えば、この前テレビドラマ「半沢直樹」が大ヒットしましたが、
「半沢直樹がヒットしたのは、クチコミがあったからだ。」
というのと、
「半沢直樹がヒットしたから、クチコミが生まれたのだ。」
というのが、どっちも同時に起こる場所なのです。

話題になる(くらい面白い)から、話題になる。
最初の一撃としての「面白さ」があって、初めて話題が生まれる。
ただ、それだけなのです。

つまり、ソーシャルメディアという何者かが、コトを起こしているのではなく、コトが起きた結果が、さらにソーシャルメディアを通じて拡散しているという話なのです。
ソーシャルメディアという何か、具体的な「実体」があるわけではなくて、そこには、ただ、人が集まって、つながっている状態があるだけなのです。言い換えれば、「ソーシャルメディアには、人しかいない」のです。

だから、そもそも、ソーシャルメディアという、何かがあると思って、それだけに注目していては、ソーシャルメディアで話題を作ることが出来ないわけです。具体的な「読者」のことを知らなければ、結局は話題を作り、拡散させることは出来ないんです。でも、それってソーシャルメディアが普及する前からやっていたことですよね? だから、基本的には何も変わっていない。簡単に情報発信を出来るようになりましたが、中身が伴っていなければ、クチコミで拡散は起きません。

ソーシャルメディアという何かすごい「仕組み」があって、それが魔法の杖のごとく、全くゼロから評判を作り出しているわけではなく、基本的には、誰かが「いいね!」と言ってくれて、はじめてそれが伝わりはじめるものなのです。

江戸時代の「ええじゃないか騒動」は、別にソーシャルメディアが何か重要な役割を果たしたわけではないですよね?人々が連鎖的に騒動を起こしていって、それがムーブメントになっただけです。

だから、よくソーシャルメディアの影響力を伝える時に、象徴的なエピソードとして引用される、エジプト革命だって基本は同じです。「ソーシャルメディアが革命を起こした」という表現は実は正しくなくて、本来は「革命的なことが、ソーシャルメディアを通して広がった」と表現すべきなんです。

もちろん、話題が拡散する速度を圧倒的に速めたという効果はあったでしょうが、発端は、ソーシャルメディアではなく、人々の熱量がそこにあったということが大事なのです。

本の話に戻して考えてみましょう。例えば、あの村上春樹さんを考えてみれば分かりやすいのですが、村上春樹さんは、決して自ら日々ブログを更新したり、自著の感想をひたすらツイッターでエゴサーチしてRTしたり、そういうマーケティングやPR施策を積極的にやったりするタイプではありません(やっていたら、なんか怖いですね)。むしろ、ひっそりと、寡黙に、秘密主義的に作品を書いていて、新刊が出るタイミングのみ、基本的なトラディショナルな「宣伝」(新聞広告を打つ!)しかやりません。本人も、プロモーションについては、新聞広告を打てればそれで十分と発言していたりします。それでも届く人には届く、ということです。

でも、その「秘密主義的なふるまい」も含めて、そこに作家のオーラ(「作家性」)があるからこそ、ソーシャルメディアでものすごく話題になる。

余談ですが、あのアップルだって、広告の打ち方は、実はものすごくトラディショナルなんですよね。ソーシャルメディアでのバイラル施策(クチコミを広げていく施策)とか、実は全くやっていない。シンプルに、テレビと新聞でアップルの新製品のことを告知するくらいなのです。商品そのものがメッセージになっているから、下手にいろいろする必要がないのです。しかし、結果的には、膨大な共感や感動の声がソーシャルメディア上にはあふれてくる。そこには、「中身」とこれまでに培われてきたファンとの「関係性」があるからなのです。

ソーシャルメディアの戦略どうこうよりも、素晴らしい作品を作り続けてきたという信頼=ブランドがあるからこそ、ソーシャル「でも」話題が広がるのです。

実に、シンプルな話なのです。でも、だからこそとても難しい。何故なら、「中身」と「関係性」つまり、「ブランド」は、そもそも簡単に作れるものではないからです。

昔、ある著名な広告クリエーターが、ゲーム会社の人に向かって、「ゲーム業界にとって重要なのは、良いゲームを作ることだ」というプレゼンをして、全員ずっこけたという話を聞いたことがありますが(そりゃ、そうですよね)、でも、話題にしたければ、結局は良い本を作るしかないんだろうなということです。

なんだか、普通のことを言ってしまってすみません。

でも、結局、良い本を作って、きちんと読者に伝われば、その人はその本を熱心に広げてくれる、というのが現実なんだと思います。もちろん、ソーシャルメディアでも書き込まれやすくしたり、発言を丁寧に拾っていくことは大事ですが、でも、僕たちが、何かを世の中に伝えようと思うのであれば、当然ながらまずは中身にフォーカスすることが一番なんだと思います。

それでは、人に伝えたくなる「良い本」とはどういう本なのでしょうか?次回は、本とレコメンデーションの関係について考えてみたいと思います。

[もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら:第2回 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

廣田周作(ひろた・しゅうさく)

1980年生まれ。2009年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センターを経て、12年からプラットフォーム・ビジネス局開発部。ソーシャルリスニングの知見に基づき、企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。ソーシャルリスニングのソリューションとして「Sora-lis」「リスニングプラス」などの分析メソッド、ツイッター上での話題の拡散度合いを測る指標の開発にも関わる。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。2013年、自著『SHARED VISION』(宣伝会議)を出版。


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『SHARED VISION』

廣田周作
単行本(ソフトカバー): 208ページ
出版社: 宣伝会議
発売日: 2013/6/4