COLUMN

廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら

廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら
第3回「本とレコメンデーション」(前編)

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第3回「本とレコメンデーション」(前編)

前回は、本をソーシャルメディア上で話題にするためには「良い本」を作るしかない、ということを書きました。ソーシャルメディア自体が何かすごいことを起こすのではなく、あくまでソーシャルメディアは人が集まっている場所であり、読者のことを考えなければ結局は話題にもならないということです。

では、「良い本」とは何なのでしょう?

この問いに正面から答えるのは、とても難しいです。というか、この問いは、僕の守備範囲を大きく超えてしまいます。

本を読む行為とは、どこまでも個人的な体験でありながらも、同時に、歴史や社会的な体験でもあり、芸術的かつ教育的な効果がある一方で、快楽体験や(文脈によっては)反社会的な体験にすらもなりえます。それぞれの作家や編集者は、良かれと思って本を出版しているのでしょうし、一方で、だからと言って、全ての本が良い本だというのも答えになっていません。誰か一人にとってとても良い本かもしれないけれど、他の全ての人にとっては最低ということだってあるでしょう。

また、本は常に、それが読まれる背景や文脈によっても価値は変わってしまいます。古典でさえ、人によっては意味のないただの文字の羅列かもしれませんし、今現在、低俗だと思われている本が、将来立派な古典として崇められることもあるでしょう。文学の価値は、時代背景によって、また時には批評家たちの仕事によっても、ころころと変わるものです(そもそも、批評家は、現在高く評価されている主流の作品の価値を「否定」し、評価の低いマイナーなものを「擁護」することで、現在の価値を転倒させ、ゲームのルールを変えてしまうことを常に企んでいるものです。よって、とても事態は複雑なのです!)。従って「良い本」というのをここで一つに定義することは控えます。

しかし、それでは前に進みませんね(笑)。なので、ここでは、視点を変えて「良い本」を、マーケティングの観点にフォーカスして、「誰かに紹介したくなるもの」「もっと他の作品も読みたくなるもの」だといったん狭く捉えてみることにします。

まず、最初に「誰かに紹介したくなるもの」は、分かりやすいと思います。本を読む行為は、(親と子の読み聞かせなどの行為は別ですが)基本的には、孤独な作業です。一人で活字に向かうのが常です。しかし、魅力的な本は誰かに紹介したくなることも多々あります。「聖書」などはまさにそうでしょう。その本で描かれている考え方を誰かに紹介し、広めていくという行為自体が、聖書の読書体験には組み込まれているわけです。聖書は、自分の心に手をあてて、自ら反省を促されるのと同時に、その素晴らしい考えを他者にこそ、広めるべきだという内容が同時にプログラムされている。

素晴らしい本に出会った時、具体的に誰かに読んで欲しいという場合もあるでしょうし、誰でも良いからこの本の魅力を知って欲しい、世の中に広めたいという人もいるでしょうし、もしくは、「私はこの本を読みました」と広めること自体が、その人の知性を証明するセルフブランディングになることもだってあります(ちなみに、Facebookでは、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト(WBS)」という経済番組のページは、多くの人が「いいね!」をしています。中でも、「スミスの本棚」というコーナーは人気で、投稿にはたくさんの「いいね!」がつきます。つまり、自分が、WBSのスミスの本棚を見て、内容に関心を持っているということを、Facebookの中で、友人・知人にシェアすること自体が、その人の知的ブランディングになっているわけです)。

ソーシャルメディアの存在は、こうした「誰か、他の人にも知ってもらいたい。読んでもらいたい。(そんな自分を知ってもらいたい)」という欲望との相性は非常に良いと言えます。今現在、世の中に普及している読書ログを紹介するサービスや、Amazonのレビュー等は、ほとんどがこの欲望を反映していると思います。読んだ体験を誰かと共有し、またそれが他の誰かにも知ってもらうきっかけになる。これを僕は、「横のレコメンデーション」と呼ぶことにします。ある本(とそれにまつわる情報)が人々の間で転送されていく状態です。

後編に続きます(2013/11/27更新)


PROFILEプロフィール (50音順)

廣田周作(ひろた・しゅうさく)

1980年生まれ。2009年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センターを経て、12年からプラットフォーム・ビジネス局開発部。ソーシャルリスニングの知見に基づき、企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。ソーシャルリスニングのソリューションとして「Sora-lis」「リスニングプラス」などの分析メソッド、ツイッター上での話題の拡散度合いを測る指標の開発にも関わる。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。2013年、自著『SHARED VISION』(宣伝会議)を出版。


PRODUCT関連商品

『SHARED VISION』

廣田周作
単行本(ソフトカバー): 208ページ
出版社: 宣伝会議
発売日: 2013/6/4