COLUMN

廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら

廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら
第8回「出版の体制とソーシャルメディア」(前編)

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第8回「出版の体制とソーシャルメディア」(前編)

 ソーシャルメディアが生活者に浸透したことによって、ビジネスに与えたインパクトは様々なものがありますが、その中でも大きなインパクトの一つに、「これまでの企業体制を変更させつつある」ということがあります。

 一般には意外にも知られていないかもしれませんが、ソーシャルメディアが出てきたことによって、多くの企業が、既存の体制(ファンクションごとに縦割りになっていて、分業する体制)を変更し、ソーシャルメディア時代に合わせたフラットな体制に変えざるを得なくなっているのです。

 どういうことか?

 ソーシャルメディアが登場する前の時代においては、世の中に広く情報を発信することが出来るのは、基本的にはマスメディアなど、ごく一部の限られたプレイヤーだけでした。企業も、何か流行を作ろうと思ったらマスメディアに取り上げてもらうしかなかった時代です。こうした時代においては、企業は生活者とコミュニケーションをとるためのチャネルは基本的にはマスメディアしかないので、マスコミ対応のための広報や、マスで流す広告を作るための宣伝部を設置して、広く生活者とコミュニケーションをしようと考えます。一方、お客さんから寄せられてくる声というのは、カスタマーサポートセンターが一括で担い、苦情などに対応する、というのが基本的なスタイルでした。この時代には、組織は縦割りになっていても何も不都合はありません。

 一方、ソーシャルメディアが出てきたことによって、個人が自ら世の中に広く情報を発信することが出来るようになりました。マスメディアならぬ、マンメディアの登場です。

 この時代になると、話は結構複雑になります。

 何故かというと、
 1.マスコミだけが話題の発信源ではなくなった
 2.社員のふるまい自体がブランド価値を左右するようになった
 3.お客様の声が企業のあらゆる場所に届くようになってしまった

 ということが起こり始めたからです。

 順番に説明しましょう。

1.マスコミだけが話題の発信源ではなくなった
 これはイメージしやすいと思います。例えば、ちょっと例が古くて申し訳ないのですが「食べるラー油」はもともと広告をしていないにも関わらず、クチコミだけでどんどんと広がっていきました。スターバックスもCMをやらないにも関わらず、一大ブランドになっていますね。また、皆さんも使っているかもしれませんが、DropboxやEvernoteといったサービスも自らのサービスに拡散性が内包されているため、ソーシャルメディア上でも話題になり、どんどんとファンを獲得していきました(ちなみに、こういったウェブサービスのマーケターのことを最近「グロースハッカー」と呼び、注目が集まっています。彼らは、マス広告ありきでマーケティングを考えないのが特徴です)。

 つまり、ブランドを話題にしようとした時、マスメディアがまずありきで考えるのではなくて、ユーザにクチコミしてもらえるかどうか、クチコミされるような戦略をきちんとサービスや商品に内包しているかどうか?ということが問われるようになったのです。

2.社員のふるまい自体がブランド価値を左右するようになった
 これまで、「企業」に関して、生活者から見えていた範囲というのは、商品、サービスそのものか、広告くらいのものしかありませんでした。しかし、現代は、その企業で働いている社員もソーシャルメディアを活用しています。ある社員が「もう、こんなブラック企業で働くのは嫌だ。つらたん」と書いていたら、どんなに感動的なCMをその企業が流していたとしても、「でも、ブラックなんだろうなぁ」という風な印象の方が強くのこってしまう可能性の方が高いですよね。社長など、経営陣の発言もそうです。社長が良いことをつぶやいていれば、好感を持つ人も多いでしょうが、炎上発言をして、その企業価値を一気に損ねてしまうことも多々あります。ブランドは、広報PR活動や宣伝だけではなくて、「社員の振る舞い」自体も含めてトータルで考えなくてはならなくなりました

3.(好むと好まざるとに関わらず)お客様の声が企業のあらゆる場所に届くようになってしまった
 先ほど紹介した通り、ソーシャルメディアが浸透する前には、お客さんと企業が直接接点を持つ場所といったら、カスタマーサポートセンターくらいのものでした。何か商品に不具合があった時の窓口です。よっぽどのことがなければ、企業にお客さん側から連絡をすることはありません。しかし、ソーシャルメディアが浸透してくると、お客さんは、企業に直接言っているつもりはなくとも「この商品はこの辺が使いづらくてダメだ」とか、逆に「この商品は本当に素晴らしい」といったことを発信するようになりました。時に、それらの発言がきっかけで炎上することもあれば、それらの発言の中に、素晴らしい商品開発のアイデアがある場合もあります。

 これらの大きな変化の中で、企業は、「組織の中でもソーシャルメディアをきちんと使いつつ、お客さんの声にもきちんと耳を傾けるチーム」を作る必要が出てきました。社内でソーシャルメディアを上手く使っていくための研修を行ったり、お客さんから寄せられる声を傾聴し、分類し、関係者に共有していくためのチームです。いわば、お客さんと企業との「対話」をスムーズにしていくチームです。

 このチームは、ある部署単体で担えるわけではありません。お客さんの声は、経営レベルから、商品レベル、広報、店頭のオペレーションに関わることまで、いろいろなレイヤーで寄せられてきます。したがって、経営企画、広報、商品開発、情報システム、法務、宣伝、人事など、これまで縦割りでそれぞれ動いていた部署の中から、ソーシャルメディアをきちんと使いこなすためのメンバーを募り、部署をまたいで動くソーシャルメディアチームが作られることになります。

 この辺の考え方や実践の事例は、『エンパワード』(翔泳社、2011年)という本に詳しいので、興味がある人は是非その本を読んでもらいたいのですが、このチームが社内のHUBとなって、お客さんの声を社内の様々な部署に届けていくことになります(ちなみに、僕の仕事の多くは、こういった社内のチームを作り、社内の情報共有をやりやすくするフローを整えるコンサルティングだったりします。興味がある方や、必要性を感じている人は是非お声かけください/笑)。

後編に続きます


PROFILEプロフィール (50音順)

廣田周作(ひろた・しゅうさく)

1980年生まれ。2009年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センターを経て、12年からプラットフォーム・ビジネス局開発部。ソーシャルリスニングの知見に基づき、企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。ソーシャルリスニングのソリューションとして「Sora-lis」「リスニングプラス」などの分析メソッド、ツイッター上での話題の拡散度合いを測る指標の開発にも関わる。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。2013年、自著『SHARED VISION』(宣伝会議)を出版。


PRODUCT関連商品

『エンパワード ソーシャルメディアを最大活用する組織体制』

ジョシュ・バーノフ (著), テッド・シャドラー (著), 黒輪 篤嗣 (翻訳)
単行本: 336ページ
出版社: 翔泳社
発売日: 2011/5/19