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廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら

廣田周作 もしも、あなたの本がソーシャルメディアだったら
第1回「話題になっているから、話題になる」(前編)

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第1回「話題になっているから、話題になる」(前編)

はじめまして。
今回、dotPlaceの執筆メンバーに加えて頂いた電通の廣田周作と申します。本好きの皆さんが多く集まる場所だと伺って、とてもワクワクしています。

本文に入る前に、少し自己紹介をさせてください。

僕は、現在、広告会社の電通で、コミュニケーション・プランナーとして、コミュニケーション・デザインやコミュニティ・デザインの仕事をしています。企業から新商品が出る時のブランド戦略やコンセプトを考えたり、PRのプランニングをしたり、ブランドのコミュニティを作って運営したり、そんな仕事です。
(具体的な話は、連載を続けていく中で、追々していきたいと思います。)

連載では、本とソーシャルメディアを取り囲む状況について、仕事を通して僕なりに考えていることや、いろいろ調べたことなどを紹介しつつ、皆さんと考えを深めていければと思っています。

実際、ここ数年、時代の流れなのか、多くの企業の方から「ソーシャルメディアを使って自社の商品をPRしたい」とか、「自社のファンのコミュニティを作ってお客さんと継続的にコミュニケーションをしていきたい」といった相談をたくさん頂きます。

「なんとなく流行っているから、ソーシャルメディアを使いたい」という方もいれば、「既存の広告手法ではなかなか売り上げが上がらず、成果がなかなか出づらくなってきているので、ソーシャルメディアという新しい武器を使ってみたい」という方もいらっしゃいます。いずれにせよ、何か新しい手段としての期待が大きいのではないかと感じています。

中には、出版社の方もいて「新刊が出るので、クチコミで本を売りたい。とにかくソーシャル上でも話題にさせたいのですがどうすれば良いのですか?」といった相談を頂くこともあります。

確かに、「本と(デジタルメディア上の)クチコミ」を取り巻く環境を見渡してみれば、アマゾンのレビューは、書籍の売り上げには欠かせない一つの重要な指標になっていますし、影響力の強い人がツイッターやブログなどで紹介してくれたことで、本が売れるということも珍しいことではありません。ソーシャルは、今や本のマーケティングを考える上では、なくてはならない場所になりつつあります。

最近では、作家・著者自らがブログで本の中身をほぼ全て読めるようにして(まさに「フリーミアム」的なアプローチで)まずは無料で読めるようにテキストを公開し、広く興味関心、あるいは共感を集めておいて、書籍を出した時に、パッケージとして改めて買ってもらう(マネタイズする)、という戦略も珍しくなくなりました。

例えば、内田樹さんのブログや、ちきりんさんのブログは、その良い例ですよね。内田さんは、ご自身の「贈与論」を、まさにご自身のブログでも展開されているんだなと思います。

では、どうやったら、あなたの売りたい本を(ブランドを、商品を、サービスを)ソーシャルメディア上で話題にすることが出来るのでしょうか?

……実は、(プロとして、いきなり連載の出だしからこんなことを言うのも残念なのですが)話はそんなに簡単ではありません。そんな便利な勝利の方程式など、どこにもないからです。

何故ならば、話題=クチコミは、僕たち(つまり、作家や、編集者やコンサルタント)が人為的に「作る」ことが出来ないものなんです。もっと正確に言えば、クチコミは「お金で買えない」ものなのです。100万円もらって、全然話題に出来ないこともあれば、逆に、かけたお金は0円でも、著者や編集者に、思いがあったり、汗をかくことで、話題になることもあります。しかし、機械的に「操作」は出来ない。努力を伝えるしかない場所なのです。

そこが広告とソーシャルメディアの一番の違いなんです。

広告では、いくらか出せば、ある一定のユーザにリーチすることを「保証」する商品もあるので、少なくとも「誰かに見てもらえる」ところまでは行けます。しかし、その先で、クチコミを生めるかどうかは、受け手に依存します。「話題にしたい<内容>」にならなくてはなりません。

ちなみに、広告のことを、業界用語で「Paidメディア」と呼んだりすることがあります。つまり、お金で買われたメディアという意味です。この場合、買っているものは何かというと、「注目量」です。質はともかく、注目されるだけの「枠」を買うことになります。

一方、ソーシャルメディアのことを、業界用語で「Earnedメディア」と言ったりします。これは、「評判を、努力によって、獲得するメディア」ということを意味しています。つまり、お金では買えないけれど、汗をかいて、「評判を獲得する(Earn)」場所という意味です。

もちろん、クチコミを起こすために、お金を払えば(こっそり渡せば)、一部の人は協力してくれるかもしれませんが、そんなステマなんて、簡単に見破られてしまうのが、ソーシャルメディアの怖い所です。人々は、そういう「違和感」には敏感です。

なんだか、古くさい道徳みたいな言い方になりますが「人からの注目はお金で買えるけど、人の評判まではお金で買えない」わけです。

ある意味で、ソーシャルメディア上の評判は「友達」に似ています。100万円出すから友達になってくれ、といきなり見ず知らずの人に言われたとしたら、(あなたにプライドがあれば)絶対に嫌だと思います。

最初に共通の話題があったり、波長が合うなと思ったり、何かを一緒に苦労して成し遂げたりする体験があったり、様々なプロセスや文脈があって、はじめて「友達」として心を開いてくれるものなのです。いきなりお金で評判を買えるものではないのです。

[後編に続きます]


PROFILEプロフィール (50音順)

廣田周作(ひろた・しゅうさく)

1980年生まれ。2009年電通入社。コミュニケーション・デザイン・センターを経て、12年からプラットフォーム・ビジネス局開発部。ソーシャルリスニングの知見に基づき、企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。ソーシャルリスニングのソリューションとして「Sora-lis」「リスニングプラス」などの分析メソッド、ツイッター上での話題の拡散度合いを測る指標の開発にも関わる。社内横断組織「電通ソーシャルメディアラボ」「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」などに所属。2013年、自著『SHARED VISION』(宣伝会議)を出版。


PRODUCT関連商品

『SHARED VISION』

廣田周作
単行本(ソフトカバー): 208ページ
出版社: 宣伝会議
発売日: 2013/6/4