INTERVIEW

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く
『東京フラッパーガール』杉浦絵里衣さん

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セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングなどで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。今回は、もともと個人サイトで発表されていた小説のうちの1作品『東京フラッパーガール』をこの11月に初めてKDPを使ってリリースされた、杉浦絵里衣(すぎうら・えりい)さんにお話を伺いました。

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作品紹介

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東京フラッパーガール』は、
Amazon Kindleで立ち読みできます。

昭和五年、東京。
伯爵令嬢・二宮環は自由な生活を夢見て家を飛び出し、女だてらに探偵事務所を開いているが、依頼といえば猫探しなどのつまらないものばかり。

帝都復興祭の開催に向けて沸き立っていたある日、カフェーの店長から「店の売上金を盗んで失踪した女給を探してほしい」と相談を受け、お目付役である書生の葛葉とともに調査に乗り出す。

やがて女給の行方をつかんだものの、手許にはすでに金はなかった。
彼女はなぜ金を盗んだのか? 大金はどこへ消えたのか?
その背景には、誰もが予想できなかった陰謀が隠されていた──。

暗く不安な昭和初期の空気を、破天荒なお嬢さま探偵が豪快に吹き飛ばす、軽快エンタテイメント!

著者プロフィール

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大阪市在住。
オリジナル小説サイトを運営・作品公開しつつ、電子書籍を自己出版する。スタンスとしては同人作家寄り。
江戸吉原・女刑事・昭和モダン・ヴィクトリア朝などをこよなく愛し、レトロな作風を得意とする。

公式サイト:http://www.magaki.sakura.ne.jp/
Twitter:https://twitter.com/erii_magaki

メールインタビュー

Q01・まずはじめに、性別やご年齢、お住まいの場所、ご職業など、お話しいただける範囲で構いませんので、自己紹介をお願いします。

女性・ネイティブ大阪人です。年齢は秘密。主婦業のかたわら時短パートで働いています。
小説自体は二次創作同人も含めると、10年以上書き続けています。8年前にオリジナル小説サイトを開設して自作小説を発表していましたが、今年に入って一部の長編のみを自己出版する運びになりました。


Q02・杉浦絵里衣さんが、電子書籍でのセルフパブリッシングに注目するようになったきっかけは何でしたか。

きっかけは、2012年末に購入したKindlefire HDです。
当初はもっぱら読書専用として使っていたのですが、Kindleストアで取り扱っている本の中で自己出版物が含まれているのに気付き、こんな発表の場もあるのか、と驚きました。
ちょうど、ファンタジーや学園ものが隆盛なネット小説界における、自作の立ち位置に悩んでいる時期だったので、新しい読者層を開拓すべく参入してみよう! と思い立ち、今に至ります。

Q03・杉浦さんが、『東京フラッパーガール』を執筆されるに至った動機を教えてください。

もともと、昭和モダンと呼ばれる戦前の文化や風俗が大好きで、その時代の小説をよく読んでいました。
けれどプロの本でもネット小説でも、この時代を舞台にした作品って意外と少ないんですよね。中でもモダンガールが主人公というのは、本当に数えるほど。
それで、ないならいっそのこと自分で書いてしまえ、と。そのわりには時代錯誤な書生が相棒だったりしますが、これもまた自分の趣味が高じてということで(笑)。

それまで自分が書いていた作品が、いずれも重い作風の時代ものや刑事ものばかりだったので、たまにはテンポ良く進むライトノベル調に挑戦してみようと書きはじめましたが、あんまりライトノベルっぽくならなかったのが残念です。
完結後しばらくは自サイトで公開していましたが、KDP参入に当たり大幅に加筆訂正を加えて出版しました。

Q04・『東京フラッパーガール』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。

書き上げたのは2011年初頭で、当時の記録を辿ってみると執筆に当てた期間はだいたい一ヶ月程度です。電子書籍化にあたり今年の9月からガッツリ書き直したのですが、そちらは約一ヶ月ほど。
なので全部合わせると二ヶ月ほどになります。
同時進行で表紙もお願いしていて、そちらの方は一週間ほどで完成しました。
執筆に充てる主な時間帯は、平日仕事から帰ってから夕方までの4時間と、子どもを寝かせてから夜中までの3~4時間です。
短気集中型なので、いったんエンジンがかかると早いです。その代わり冷めて飽きるのも早いです。

Q05・『東京フラッパーガール』の制作過程の中で、もっとも苦労した点はどのような点でしたか。

一番気をつけたのは、ストーリーにメリハリを付けることです。
もともと私の作風は、ヨーロッパ映画のような緩急の少ないのんびりした流れが特徴だったのですが、加筆訂正時にハリウッド映画を意識した大きな見せ場をいくつかプラスしました。
舞台が現代ではなく昭和初期ということもあり、どれだけ自然に読者を作品世界に引き込むか、という点も工夫しました。
また、時代考証にも綿密に行いましたが、これは自分の趣味も兼ねているので、それほど苦にはなりませんでした。
あとは、登場キャラクターの個性が乏しく会話も画一的という弱点を、以前から指摘されていたので、その点も気をつけて執筆しました。

表紙にも力を入れています。
イラストやタイトルなど装丁全般は、イラストレーターの宗像久嗣氏へ全面的にお願いしました。
宗像氏は小説をじっくり読み込み、世界観やアピールポイントなどをあますところなく表現してくれました。ウソ予告みたいな、中身と全然関係ない小道具もありますが、それも計算の内です(笑)。
最初にインパクトのある表紙で読者の目を止めさせ、次に表紙とギャップのある本文に引き込む、という狙いでしたが、おおむね成功したと感じています。

Q06・『東京フラッパーガール』の発表から今に至るまで、読者からの反応や、ご自身で感じている手応えなどがあれば教えてください。

発行後すぐに無料キャンペーンを実施したのですが、予想を遙かに上回る部数をダウンロードしてもらえました。
また、一般公開のときから読んでくださっている方々からも温かい応援をいただき、新たにレビューなどもいただきました。
これほどたくさんの方のお手許に届いたのかと思うと、感激もひとしおです。

Q07・『東京フラッパーガール』をセルフパブリッシングするにあたって、参考にされた本やサイトなどがあれば教えてください。

昭和初期が舞台ということで、資料として関連書を読みあさりました。中でも参考になったのは『東京の戦前 昔恋しい散歩地図』という本で、昭和六年当時の東京地図が載っています。
『東京フラッパーガール』と一緒に読むと、よりいっそう楽しんでもらえると思います。
また、『コレクション・モダン都市文化』というモダニズム研究の全集も、古書店で探しまくって資料にしました。当時の雑誌記事や隠れた名作などが載っていて、マニア垂涎の本です。
現在は絶版になっているので、ぜひ復刊してもらいたいです。できれば手に入りやすい文庫版で。

セルフパブリッシングにあたっては、「サクラエディタ」で執筆し、「一太郎 玄」にコピーして調整後、Epub出力機能を使っています。
「一太郎」は高額ですが、今後とも安定して運用できそうなので、思い切って購入しました。ルビ入力がドラッグ一発でできるのがお気に入りです。

セルフパブリッシングの方法に関しては、検索してヒットしたたくさんのサイトを参考にさせていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

最後に、セルフパブリッシング以前からお世話になっていますが、小説の校正や縦書きの雰囲気づかみに利用しているのが「AIR草紙」「えあ草紙」という電子書籍リーダーです。不思議なもので、横書きだと気付かない誤字脱字も縦書きになると、驚くほど発見できます。
公式サイトでも、電子書籍での読書に近いサンプルとして、導入させていただいています。

Q08・杉浦さんが書き手として、影響を受けていると感じる作家や作品などがあれば、教えてください。

「その時代の空気」を読者に届けるという点で、漫画家で江戸時代考証家の杉浦日向子さんを尊敬しています。リスペクトが高じてペンネームの名字もお借りしました。
また、宮部みゆきさんの「映像が目に浮かぶ文章」や、山岸涼子さんの「史実や神話からエピソードを取る作風」なども、影響を受けています。

Q09・DOTPLACEでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割についても考えています。もし、作家としての杉浦さんのことを新たにサポートしたいという編集者が現れたとしたら、その人に期待したい役割は何ですか。

校正やプロット内容の相談なども捨てがたいですが、自分としては販促をお願いしたいです。
不器用が災いしてプロモーションが苦手なので、そのへんをおまかせできればすごく嬉しいです。やっぱり個人での宣伝は限界がありますから……。

Q10・『東京フラッパーガール』が、今後、紙の本として書店に並ぶとして、この本の隣に並べて欲しいというような本を、3冊挙げてください。

恐れ多いのを承知で挙げると、北村薫さんの「ベッキーさんシリーズ」(『街の灯』、『玻璃の天』、『鷺と雪』の三部作)でしょうか。
昭和初期の風俗描写が丁寧で、戦前マニアならにやりとする小ネタも多くて大好きです。もちろん謎解きも超一級。
ベッキーさんもかっこよくて、同性ながら惚れ惚れしますね。ああいう主人公にしたかったのに、どうしてこんなことになったのでしょうか……。

 

Q11・次回作の構想がありましたら、お話しいただける範囲で教えてください。

直近では、2013年12月に女刑事が主人公の『R.I.P. ~rest in peace~』を発行、シリーズ化する予定です。
硬派な刑事ドラマや警察小説は数あれど、恋愛描写を含む女性向けの作品はあまりないので、自分で書いてみました。女刑事萌えの皆様はよろしければぜひ。
年が明けた1月には『東京フラッパーガール』の続編も発行します。これで完結ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
そのあとは、ヴィクトリア朝を舞台にしたミステリー『倫敦の悪魔』も発行予定です。
いずれもサンプルを公式サイトに用意していますので、興味を持たれた方はいらしてください。

Q12・杉浦さんが注目していて、このコーナーで取り上げてほしい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者がいらっしゃいましたら、教えてください。

好きな作家さんはたくさんいらっしゃいますが、まだまだ無名の若輩者でご迷惑がかかってしまうかも知れませんので、紹介は遠慮させていただきます。

Q13・最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願いします。

セルフパブリッシングをはじめて一ヶ月にも満たない未熟者ですが、今後とも楽しんでもらえる作品作りを心がけますので、よろしくお願いいたします。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

(了)

 

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