セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングなどで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。第3回は『Gene Mapper』を出版されたセルフパブリッシング作家、藤井太洋さんです。
作品紹介
自己出版バージョンの『Gene Mapper -core- (ジーン・マッパー コア) 』は、Amazon Kindleで立ち読みできます。
早川書房より完全改稿を行った『Gene Mapper -full build-(ジーンマッパー フルビルド)』は、Amazon Kindleで立ち読みできます。
“生命すら設計できるその日、何を信じて未来の扉を開けばいいのだろう”
農作物の多くがメーカー製の「蒸留作物」に置き換えられつつある2037年。
作物の遺伝子をマークアップし、外観を設計するスタイルシート・デザイナー、林田のもとへ「ジャパニーズ・サラリーマン」を演じる黒川から調査依頼が入った。
カンボジアへ納品したスーパーライス、SR-06に描いたロゴが崩れ始めたというのだ。原因はコーディングのミス? アップデートの失敗? それとも……
原因を探るため、林田は「キタムラ」と名乗る人物に誘われ、2014年に封鎖されたインターネットが生きている街、ホーチミンへ飛ぶ。
フルスクラッチで作物を作れるほどの遺伝子工学、現実と見分けられないほどの拡張現実が当然のものとなった2037年。
たゆまなく前進する科学技術は人類の繁栄を約束するのか?
ハイスピード・ノベル『Gene Mapper』が問う。
著者プロフィール
1971年、奄美大島生まれ。国際基督教大学を中途退学後、舞台美術やDTP制作、展示グラフィックディレクター、ソフトウェア開発を経て、現在はフリーランス。処女作『Gene Mapper』を公開し、好評を博す。現在は、次回作「Orbital Cloud」の執筆を開始。企画、著作、グラフィックデザイン、イラストレーション、編集、各種フォーマットでの電子書籍制作、Webサイトの制作、販売チャネルおよび広告管理の一切を自身でこなす。
メールインタビュー
Q01・性別やご年齢、お住まいの場所、ご所属やご職業とそこで何をされているかなど、お話いただける範囲で構いませんので、藤井太洋さんについてお教えください。
1971年、奄美大島生まれ。今年の4月に9年間勤務したソフトハウスを退職し、現在は東京都杉並区の自宅で作家、個人出版人として活動しています。『Gene Mapper』は会社員時代に執筆し、自己出版しています。
Q02・そんな藤井太洋さんが、なぜ『Gene Mapper』を執筆されるに至ったのか、その動機をお教えください。
私はマニュアルや解説書などはともかく、小説やシナリオなどのフィクションを執筆した経験はなかったのですが、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故が大きなきっかけとなりました。毎日のように繰り返された報道は、実際の津波で命を落とした方々への十分な哀悼の意を欠いていただけでなく、科学的にも正当なものとは言いがたいものでした。
メッセージを発するメディアとして、フィクションを選んだ次第です。執筆の経緯は http://genemapper.info/about-gene-mapper/gene-mapper-release/ にも記載しています。是非ご一読ください。
Q03・『Gene Mapper』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。
毎日1時間ほど、ほぼ毎日執筆を続けて6ヶ月ほど要しました。
Q04・『Gene Mapper』の執筆は、一日のうちのどのような時間に、どのような環境で行われましたか。
通勤時間の行き帰りを執筆に充てていました。初期はiTextという縦書きが表示できるエディタで書いていましたが、長くなってきてからはManuscript、そして終盤はNotebooksというAppへと執筆環境が変わっていきました。
Q05・『Gene Mapper』をセルフパブリッシングするにあたって、参考にされた本やサイトなどがありましたらお教えください。
執筆中にはnature.comに掲載されている論文を参照することが多くありました。また簡単な調べ物をするときにはWikipediaも活用しています。影響を受けた、またはオマージュの題材として選んだ書籍はいくつもありますが、参考書籍としてクレジットするような書籍はありません。
Q06・藤井太洋さんが作家として、影響を受けていると感じる作家や作品がありましたら、お教えください。
普段はスティーブン・グールド、リチャード・ドーキンス、マット・リドレーなどのポピュラー・サイエンスを読んでいます。フィクションではカール・セーガンやアーサー・クラーク、ジェームス・ホーガンの作品をよく読んでいます。彼らの作品からは大きな影響を受けていることでしょう。
Q07・藤井太洋さんが、最近注目されているものやことをお教えください。
作家としては、人を取り巻く環境に注目していきたいと考えています。
身近なところでは野生動物を食用に供することがいつまで継続可能なのかというテーマや、また無人兵器のありかたや遺伝子工学について。いずれも研究機関だけでなく企業プレイヤーが数多くいるので、とても興味深く感じながら情報を収集しています。
出版人としてはAmazonとApple、そしてこれらに競合するプレイヤーが日本以外で行っているオペレーションと読書体験を可能な限り知りたいと考えています。
Q08・当サイトでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割について考えています。作家としての藤井太洋さんにもし、新たにサポートしたいという編集者が現れたとしたら、その人に期待したい役割は何ですか。
企画段階での相談相手、取材の手配、執筆資料の調達や評価を行うデータエンジニアリング、第一読者としてのレビューと商品化に向けた指摘、プロフェッショナルな校閲など、作品を執筆するために必要な助けが得られるのならばうれしくはありますし、作品を世に出すための国外チャネルも含めた開拓や翻訳、プロモーションなどでもサポートしていただければ大変な助けになることでしょう。
ただ、それら全てをサポートする一人の「編集者」という人物、あるいは兼ね備えた単一の組織というものには期待すべきでないとも考えています。
私は今後、その時々に必要な助けを求めていくことになるでしょうが、ソーシャルメディアで広がるネットワークは、現実のビジネスレイヤーと相まってそれぞれの分野のプロフェッショナルとの協業を可能にできるほどの強さを与えてくれると感じています。
Q09・『Gene Mapper』は既に、紙の本になって書店に並んでいますが、この本の隣に並べて欲しいというような本を、3冊挙げてください。
実際に店頭で並べていただいたときに嬉しかったのが、宮内悠介さんの『ヨハネスブルグの天使たち』です。
また、遺伝子工学と環境に対する警鐘を鳴らすパオロ・バチガルピ『ねじまき少女』や、コンピューターと人間の関係を描くヴァーナー・ヴィンジ『レインボーズ・エンド』など『Gene Mapper』でも採りあげている問題を深く掘り下げている作品と一緒に読んでいただけると嬉しく思います。
Q10・次の作品の構想がありましたら、お話いただける範囲でお教えください。
現在、国際宇宙ステーションへのテロを描くテクノ・スリラー「オービタル・クラウド」を執筆しています。
予想以上に大掛かりな話になってしまったのでまとめるのに苦労していますが、面白い作品になると確信しています。ご期待ください。
Q11・藤井太洋さんが注目していて、このコーナーで取り上げて欲しい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者がいらっしゃいましたら、教えてください。
オドネル・ケビンさん、ヘリベマルヲさんの両氏をぜひとりあげてください。
Q12・最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願い致します。
電子書籍に期待する多くの読者の方々に支持されていただいたことで『Gene Mapper』を早川書房から出版することができました。感謝いたします。
どうもありがとうございました。
(了)
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