INTERVIEW

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く

セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く
『雑文集 III』オドネル・ケビンさん|セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く

セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングなどで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。第4回は『雑文集 III』を出版されたセルフパブリッシング作家、オドネル・ケビンさんです。

作品紹介

雑文集 III

『雑文集 III』は、Amazon Kindleで立ち読みできます。

初めまして、オドネル・ケビンと言います。25歳のアメリカ人です。現在僕はアジアを回りながら日本語で小説を書いています。将来の夢は、日本で作家になることです。アメリカ人初の芥川賞受賞者になることを目指しています。「雑文集 III」は、2012年に書いた文章をまとめたものです。

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-オヤジ・マグネット…[本文より]
「間もなく出発します」
よし。結婚を申し込んでくるアイドルに囲まれてはいないけれど、缶コーヒーと小説、それからきゃりーぱみゅぱみゅと音質の良いイヤホンは持っている。これから一時間ほどガチで勉強に励める。本を再び開く前に、僕は目をつぶって空気を肺一杯吸い込んだ。
「ここいいですか?」
ふと見上げると、いつから相撲やってるんですかと思わず聞いてしまいそうなほど太ったおっさんが、目の前に立っている。僕は辺りを見回す。誰もいない。誰一人いないのだ。
「あの……」
クジラの隣は嫌だよってどうやって丁寧に言えばいいのだろうか。そう頭を巡らせていると、おっさんは後ろから乗り込んでくる客を見やって一瞬にして汗をかき出し、ごめんごめんと言って突如隣に腰を掛けた。腰を掛けたと言っても、腰らしいものはどこにも見当たらなかったけれど。
「よーっこらしょぃ」
横綱が座るとバスはカヌーみたいに左右に揺れ、何か柔らかくて温かいものが僕の太ももに当たった。いや当たったというよりも、太ももを飲み込み始めた。落ち着け、ただの人間だよと唇を噛み、読書に意識を集中する。が、そうしているうちに何だかとても妙な気分になる。あたかもクジラにまじまじと見つめられているかのような気分。
「すごいなぁ……」

-気になる日本語…[本文より]
・セレブ
最近「お金持ち」や「成り金」という意味で使われていますが、英語の「celeb」にはそういうニュアンスはありません。「celeb」は「有名人」です。ですから、「貧しいセレブ」は矛盾した日本語に聞こえますが、英語の「poor celeb」はそうではないのです。「貧乏な有名人」。そう、リンジー・ローハンのことです。

-2035年、ミニストップにて…[本文より]
2030年、国際化していく中国に対抗すべく、日本政府が、外国人が最も発音しにくい「ら行」を「ヴァ行」に変更して以来、コンビニ「ローソン」が全国的に人気を落とし、徐々に姿を消した。そして先週の金曜日、僕が小学時代に愛用していた有楽町駅前の「ローソン」も、ついにミニストップに吸収さヴェた。
「いヴァっしゃいませ」
そっと開いたドアをくぐって照明の眩しい店の中を見回すと、僕の他に客が四人と店員が一人いた。
「スパゲティまん一つ」

この続きは本編でお楽しみください。
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著者プロフィール

オドネル・ケビン。1987年カリフォルニア州生まれ。十四歳の時「童部 WARAWABE」という曲を聞き感銘を受け、日本語を独学し始める。2007年に慶応義塾大学に留学、翌年帰国してワシントン大学を卒業。2009年英語で短編小説『カラハン湖の渡り』を書き、翌年再来日。英語教師のかたわら随筆集『雑文集 I』をiPhoneで出版し、ダウンロード数二万件を超える好評を博する。2013年『マヨネーズ』でKindleエンターテイメント部門一位を獲得。他の著書に『フランス人のソウル』『雑文集 II』『雑文集 III』などがある。iBooks・Amazon・Facebookで「オドネル」を検索。

メールインタビュー

Q01・性別やご年齢、お住まいの場所、ご所属やご職業とそこで何をされているかなど、お話いただける範囲で構いませんので、オドネル・ケビンさんについてお教えください。

カリフォルニア州生まれシアトル育ちの25歳です。2007年に慶応義塾大学に留学しました。現在は別府大学の裏手にある、水道もネットもガスも含めて家賃が三万円もしないゴキブリ地獄に在住。週二三回近所の塾で英語教師のバイトをしながら、執筆活動とビデオ制作に取り組んでいます。

Q02・そんなオドネル・ケビンさんが、なぜ『雑文集 III』を執筆されるに至ったのか、その動機をお教えください。

十三歳の時にネットラジオでSOFTBALLという日本のガールズロックバンドの音楽を聞いてとても感動し、その歌詞の意味を知りたくて日本語を独学し始めました。慶応に留学している間にSOFTBALLのライブに何回か行ったんですが、ステージを見るうちに自分も創造的なことに励んでみたいと思うようになり、最終的に執筆をやってみようと決めました。最初は英語で書いていましたが、そうしているうちに自分の日本語の能力が落ちていくのを痛感し、どうせならここまで頑張って勉強してきた言語で書いてみようと、アメリカの大学を卒業する直前になって、日本語で書き始めました。

自分のデビュー作『雑文集 I』を作り上げる時は「これについて文章を書いたら面白いだろう」という風に計画を立てて結構意識的に書いていましたが、筆を執って四年になる今では、むしろボールを追いかけている犬のような気分です。というのは、今はいつの間にか犬が走り出すように書き始めていて、走っていること自体が楽しいし、目指すボールがまだ先の方にあると感じた時は途中でやめる気にはなれません。そんな本能的な感覚で何度も違う方向に走っては戻ることを繰り返し、推敲に推敲を重ねて、ある日ふと気づくと、『雑文集 III』の原稿をくわえていました。


Q03・『雑文集 III』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。

約一年半がかかりました。最初の一年間は英語教師のかたわら大分で、残りの半年はアジア(主に日本国内と韓国)を回りながら書いていました。

Q04・『雑文集 III』の執筆は、一日のうちのどのような時間に、どのような環境で行われましたか。

基本的に夜自宅で、肩がこっていない時は机で作業をしていましたが、痛くなると布団に寝転がって、立てた膝にノートパソコンを乗せて書いていまた。ソフトはOSXの『Writeroom』というのを使っています。執筆の時は携帯とネットの電源を切るようにしていますが、新しい文章を書く時はどうしてもGoogleが必要になることが多く、いつの間にかAmazonでホウ酸ダンゴや殺虫剤スプレーを見ている、ということもありました。

Q05・『雑文集 III』をセルフパブリッシングするにあたって、参考にされた本やサイトなどがありましたらお教えください。

僕の場合は『昆虫 (小学館の図鑑NEO) 』がかなり役に立ってくれましたね(笑)。サイトは電書ちゃんねるの「でんでんコンバーター」です。あと、佐々木大輔さん藤井太洋さんに頂いたアドバイスも大変ためになりました。

Q06・オドネル・ケビンさんが作家として、影響を受けていると感じる作家や作品がありましたら、お教えください。

最近までは金原ひとみと三島由紀夫でしたが、今はきゃりーぱみゅぱみゅです。周りの歌手がみんな「強くなりたい」とか「友達より大事な人」なんて歌っている中で、「耳からミサイル」と堂々と歌う彼女こそ、本物のアーティストだと思います。中田ヤスタカと組んだことで今海外でもかなり注目を浴びていますが、それは当然のことという気がします。

Q07・オドネル・ケビンさんが、最近注目されているものやことをお教えください。

最近「Jake and Amir」というアメリカのお笑いコンビにハマっています。彼らのオリジナリティにはいつも脱帽しています。例えば、アメリカでは小学校六年生になるとよく「将来の自分への手紙」という課題(自分の小さい頃の夢はこうだったよ。もう叶ったかな?という手紙を書き、それを先生が集めて十何年か後に返してくれる)をやるんですが、Jake and Amirのネタではクラスが全員、未来のAmir宛に嫌がらせの手紙を書くんです。きゃりぱ並と言ってもいいくらい、彼らの発想は面白くてクリエイティブです。

Q08・当サイトでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割について考えています。作家としてのオドネル・ケビンさんにもし、新たにサポートしたいという編集者が現れたとしたら、その人に期待したい役割は何ですか。

一人で自由に創作するのが好きなんですが、一人でボールを追いかけていると視界が狭くなり作品を客観的に読めなくなるケースもありますので、そういう時に感想を言って頂けると助かります。また、犬のように夢中で追いかけていたものがやっと捕まって、さて帰ろうかと、つまり出来上がった作品を広める段階になると、ハイだった気持ちが急に冷めてしまい、突然疲れとダルさに襲われます。ですから、僕の場合は特に販売の戦略などを手伝って頂けると有り難いですね。

Q09・『雑文集 III』がもし、紙の本になって書店に並ぶとしたら、この本の隣に並べて欲しいというような本を、3冊挙げてください。

最近エッチのハウツー本が流行っているようなので本当は『女医が教える』シリーズの隣に並んだら一番売れるのだろうと思いますが、本作と前作『マヨネーズ』が村上龍の『69』と金原ひとみの『トリップ・トラップ』の間に挟まれて並んだら一番嬉しいです。

 

Q10・次の作品の構想がありましたら、お話いただける範囲でお教えください。

去年の夏は韓国のホステルで過ごしたんですが、今はそこで出会ったクリームとマリファナの好きな青年を題材にした短編小説『フランス人のソウル』を書いています。それとは別に、時間がある時は友達と一緒に新しいビデオ制作のプロジェクトをやっています。まだ最初の段階なのですが、作業をやればやるほどのめり込んでいます。

Q11・オドネル・ケビンさんが注目していて、このコーナーで取り上げて欲しい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者がいらっしゃいましたら、教えてください。

代々木犬助さん、藤井太洋さん、それから忌川タツヤさんです。

Q12・最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願い致します。

僕は「作品の特徴やセールスポイントは?」と聞かれた時は「アメリカ人ならではの視点」と答えています。「美しい文章」「美しい日本語」を書く自信はありませんが、「日本の歯医者は何故素晴らしいか」とか、「正常なアメリカ人から見た『おさかな天国』」や、「白人男性が日本人のおっさんにモテる訳」など、日本人がなかなか思いつかないネタが『雑文集 III』にはたくさん盛り込まれているのではないかと思います。ですから、本作には皆さんの知らない日本語は出てこないと思いますが、知らない「日本」は登場するかもしれません。良かったらアメリカの眼鏡を掛けて見慣れた町を歩き回ってみてください。

どうもありがとうございました。

(了)

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