セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングなどで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。第5回は『Pの刺激 – Punk is UnknowN Kicks -』を出版されたセルフパブリッシング作家、ヘリベ マルヲさんです。
作品紹介
『Pの刺激 – Punk is UnknowN Kicks -』は、Amazon Kindleで立ち読みできます。
呪われた言葉が世界を染める。アヴァンポップな黙示録!
州辻郁夫、24歳。カルト教団集団自殺の生き残り。やむにやまれず引き受けた家出少女捜しが、彼を過去の悪夢に引き戻す。
街は謎の断片群、「PCz」に覆い尽くされていた。噂では13年前に失踪した無頼派作家・羅門生之助がその作者だという。その孫娘が忘れられた天才美少女作家、羅門椎奈だ。振りまわされるまま事件の渦中へと巻きこまれる郁夫。大量の断片群に刻まれた魔術的想像力は、やがて現実世界を侵食しはじめ……。
詩的な文体、鮮烈な想像力。識閾下に拡散するダーク・ファンタジー!
Photo : “red winged finch” By `this.is.epic
著者プロフィール
自称インディーズ作家。
1975年6月、仙台に生まれる。筆名は有名な探偵のもじり。
インディーズレーベル「人格OverDrive」から七冊の小説を刊行。代表作に『Pの刺激』など。
アヴァンポップな作風は軽妙とも、「文章に血が染み込んでいるようなリアリティがある」(MMミリオンセラーさん)とも評される。
ダイレクト出版ムーブメントを牽引するオピニオンリーダー、佐々木大輔氏から「注目の”セルフパブリッシング狂”10人」に選ばれた。
コーヒーとショートピースを愛する38歳。独身。
サイト:人格OverDrive「インディーズ小説」で検索!
メールインタビュー
Q01・性別やご年齢、お住まいの場所、ご所属やご職業とそこで何をされているかなど、お話いただける範囲で構いませんので、ヘリベ マルヲさんについてお教えください。
ジェンダーは物心ついたときから一貫して異性愛者の男性です。生まれてこのかた仙台をほとんど出たことがありません。大学の四年間だけはよその街にいました。過激派の残党だけが元気なつまらない大学でした。小学校の先生のヒモを馘になってからは、地下鉄駅と図書館が近い黄色のアパートに住んでいます。どのコミュニティにもクラスタにも所属したことはありません。つねにベストは尽くしているのですが、どんな職業も長つづきしません。いまはコルセンに派遣で勤めています。仙台では震災後にそうした仕事が増えました。税金で優遇される特区か何かになったようです。おかげでまだ生きています。
Q02・そんなヘリベ マルヲさんが、なぜ『Pの刺激 – Punk is UnknowN Kicks -』を執筆されるに至ったのか、その動機をお教えください。
小説家になるつもりでした。
Q03・『Pの刺激 – Punk is UnknowN Kicks -』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。
何度も書きなおしているので正確な執筆期間はわかりません。初稿は2005年。ふたつの新人賞で最終選考に残り、いずれも落選しました。別の原稿募集ではひと言コメント欄の扱いでした。二年前まで手を入れていました。飽きたのでもういじらないと思います。
Q04・『Pの刺激 – Punk is UnknowN Kicks – 』の執筆は、一日のうちのどのような時間に、どのような環境で行われましたか。
書けるときに書いていた、というほか、とりたててお話しできるようなエピソードはありません。当時の生活は思いだしたくないのです。執筆環境はFedora core 1、gnome、gedit、OpenOffice1.1、Atok X。U-BuddieというよくわからないマシンにHHKB Lite2をつないで書きました。モニタは中古のゴミみたいなやつでした。それまでは感熱紙をどうにか手に入れられていたので、富士通のワープロ専用機で書いていました。いまは主にXP、WZ Writing Editorで書いています。マシンはEeePC S101。工場で夜勤をしていて金まわりがよかったときに買いました。
Q05・『Pの刺激 – Punk is UnknowN Kicks -』をセルフパブリッシングするにあたって、参考にされた本やサイトなどがありましたらお教えください。
BCCKSのエディタにテキストを貼りつけただけです。何か参考にしなければいけなかったのでしょうか。
Q06・ヘリベ マルヲさんが作家として、影響を受けていると感じる作家や作品がありましたら、お教えください。
チャンドラー。ハメット。スティーヴ・エリクソン。ブコウスキー。ピンチョン。アーヴィング。オースター。ピーター・ケアリー。ダニエル・ペナック。M・M・スミス。グレアム・スウィフト。クリストファー・プリースト。ヴォネガット。開高健。太宰治。ディケンズ。ディック。ルー・リード。
小説の基礎はチャンドラーから学びました。彼の小説の欠点(ぎこちないプロットやおかしな言いまわし)も同時に学んでしまったようです。ハメットの『ガラスの鍵』のような小説を書きたいと願っています。『Pの刺激』はスティーヴ・エリクソン、ピンチョン、M・M・スミスを強く意識しました。クリストファー・プリーストとディックの影響も大きいです。おれ自身は特に好きではありませんが、村上春樹ファンへの目配せも盛り込みましたのでお愉しみください。ルー・リードの詩には十代からずっと影響を受けています(翻訳を通じてですが)。
いま思い浮かんだのはこれくらいです。たぶん、あとで「あの作家を挙げてなかった!」と後悔すると思います。
Q07・ヘリベ マルヲさんが、最近注目されているものやことをお教えください。
美人にはつねに注目するのですが、数日で関心を失うことに最近気づきました。縁がないからです。
Q08・当サイトでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割について考えています。作家としてのヘリベ マルヲさんにもし、新たにサポートしたいという編集者が現れたとしたら、その人に期待したい役割は何ですか。
おれが書いてきたもの、これから書くものを愛してください。おれの言葉を世界に伝え広めてください。……正直なところ、それができるひとがいるとは考えません。
Q09・『Pの刺激 – Punk is UnknowN Kicks -』がもし、紙の本になって書店に並ぶとしたら、この本の隣に並べて欲しいというような本を、3冊挙げてください。
紙の本はつい最近まで書店(BCCKS)に並んでいました。Kindle版に手を入れたとき同期させるのが手間なので、もう売るつもりはありません。だれもほしがらなかったし。関連書籍を3冊に限定して挙げるならピンチョン『LAヴァイス』、ウィリアム・ギブスン『パターン・レコグニション』、スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』です。あるいはブコウスキーの本であればなんでも。某雑貨書店であればビバップの名盤と並べてほしい。というかもうすでに自分でやっています(関連商品:ページ下部。http://heribe-maruo.com/punk.html)。おれは楽天的な夢想家ですが、他人が売ってくれるのを待つほどではありません。自分の本を入口(結節点)として、豊かな読書の世界(ネットワーク)へと案内したい。そのような文脈を提示できたらと願います。
Q10・次の作品の構想がありましたら、お話いただける範囲でお教えください。
『Pの刺激』の続編を書こうとしています。
Q11・ヘリベ マルヲさんが注目していて、このコーナーで取り上げて欲しい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者がいらっしゃいましたら、教えてください。
代々木さんと忌川さんの名前はすでにほかの著者さんが挙げられているので……。『そこここ』の山田佳江さん、『440Hz』の澤 俊之さん、『ゴースト≠ノイズ(リダクション) 上』『ゴースト≠ノイズ(リダクション) 下』の十市 社さん、『コンビニの戦士達 本篇』の幻夜軌跡さん。
残念ながら『そこここ』は現在、読むことができません。『440Hz』『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』の二作は世界文学的な傑作です。『コンビニの戦士達 本篇』はエンターテインメントの傑作。
代々木さん、忌川さんを含めたこの六人は、はっきりいっておれよりずっと巧いです。
Q12・最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願い致します。
このような晴れがましい場に書かせていただいて、本来であればもうすこし居住まいを正すべきなのですが、このような人間であることに嘘はつけませんでした。『Pの刺激』も著者に負けず劣らず偏屈な小説です。戸惑われる読者も多いかと思いますが、どうか結末までお付き合いください。読み終えたら、見慣れた世界がちょっと違って見えるかもしれませんよ……。
どうもありがとうございました。
(了)
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