COLUMN

太田泰友 2031: A BOOK-ART ODYSSEY(2031年ブックアートの旅)

太田泰友 2031: A BOOK-ART ODYSSEY(2031年ブックアートの旅)
第7回 ライプツィヒ・ブックフェア2017(その2)

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第7回 ライプツィヒ・ブックフェア2017(その2)

◯第6回 ライプツィヒ・ブックフェア2017(その1)はこちら
◯本連載のバックナンバーはこちら

▼ライプツィヒ・ブックフェアと太田泰友
 ライプツィヒ・ブックフェアは、数あるブックフェアの中でも、僕にとって特に思い入れのあるものです。

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今年(2017年)の太田ブースの様子

今年(2017年)の太田ブースの様子

 僕がドイツでの活動を始めたのは2013年の秋で、2014年3月のライプツィヒ・ブックフェアが僕のドイツでの初展示でした(このときの様子は本連載第2回「ブックアートとの出会い(その2)」にあります)。実はその3年前、2011年に僕のライプツィヒ・ブックフェアとの出会いがありました。当時、ドイツ行きを意識し始めていた僕は、まずは旅行としてドイツを回ってみていて、その時にライプツィヒ・ブックフェアの情報を見かけて会場に行ってみたのです。しかしその日は、会期が終了した翌日で、会場の入り口だけ見て帰りました。「いつかここで展示できる日が来るといいな」と思いながら帰路についた日の3年後、初展示を迎えたときは、「あのライプツィヒ・ブックフェアに出展しているんだ」と感動したのをよく覚えています。そのときは当時在籍していたブルグ・ギービヒェンシュタイン芸術大学からの出展でしたが、初めてドイツの公の場での作品を通したコミュニケーションを交わすという貴重な体験をたくさんして、多くのお客さんや関係者と出会うことができました。

 そしてその1年後の2015年。ライプツィヒ・ブックフェアでの初展示をきっかけに、1年間ドイツ国内の各地でたくさんの展示を経験し、再び戻ってきたライプツィヒでは、1年間の成果を実感することになりました。その年に日本に戻ると決めていた僕は、1年振りに会ったライプツィヒの方々に、「またいつか戻ってくる」と宣言しました。会期を終えた帰り道、「たくさんの貴重な経験をさせてくれたライプツィヒ・ブックフェアに、次はいつ戻ってこられるだろうか」としみじみ噛み締めていたのを今でも本当によく覚えています。

 それから2年経って今年、2017年。1年間の日本での活動を挟んで、思っていたよりも早くライプツィヒ・ブックフェアに戻ってきました。今回は初のソロブースでの出展でしたが、同じブックアート界隈の仲間と出展者同士として再会したり、この2、3年の間に、ドイツ各地で僕の作品を見て覚えていてくれた方々にも再び会うことができ、とても勇気づけられました。
 毎年ブルグのブースで僕の作品を見るのを楽しみにしてくれていた方が、僕が今年はソロで出展していることをブルグのブースで聞きつけ、急いで僕のブースに来てくれたりもしました。継続して出展することの意義を大いに実感する機会となりました。
 「ライプツィヒ・ブックフェアはやっぱり僕にとって特別な存在だな」と改めて感じながら、これからも出展を続けていけたらと考える今年の帰り道でした。

▼ライプツィヒ・ブックフェアとブックアートのこれから
 ブックアートの界隈ではしばらくの間、ライプツィヒ・ブックフェアよりもフランクフルト・ブックフェアのほうが作品販売によりよく繋がったり、どんな人がどれくらいブースを訪れるかなど、出展の成果として優れていると言われてきました。しかしここにきて、フランクフルトが特に良いというわけではなくなってきたという声が聞こえてきました。僕個人の印象としては、販売に関してはそこまで差がないように感じます。ただ開催地の場所の違いで、どちらかにしか来ないお客さんがいるので、どっちが良いとは簡単に言えない感じがあります。しかし、〈Marktplatz Druckgrafik〉(Market place print graphics/印刷とグラフィックの市場)が徐々に根付き始めている今、ブックアートにおいてはライプツィヒ・ブックフェアが今後もっと面白くなっていく可能性があるのではないかと思っています。ブルグの卒業生も、ここに段々と集まってきており、学生時代に大学のブースでの出展を経験し、卒業したらこのグラフィック市場に集まってくるという、面白いサイクルができていっているようにも見えます。

 ブックフェア全体が時代に合わせて進化していっているように、ブックアート部門もまた、ブックアートの新たな時代に向かって進んでいくことができればいいなと感じます。それと同時に、みんながそれぞれの立場で、そして僕はブックアート作家の立場で、ブックフェアを盛り上げていけたらという気持ちの再び強まる今年のライプツィヒ・ブックフェアでした。

毎年この夕陽を見ながら感慨深い気持ちで帰ります

毎年この夕陽を見ながら感慨深い気持ちで帰ります

第8回「最高学位 マイスターシューラー」(その1) へ続きます


PROFILEプロフィール (50音順)

太田泰友(おおた・やすとも)

1988年生まれ、山梨県出身。ブックアーティスト。2017年、ブルグ・ギービヒェンシュタイン芸術大学(ドイツ、ハレ)ザビーネ・ゴルデ教授のもと、日本人初のブックアートにおけるドイツの最高学位マイスターシューラー号を取得。これまでに、ドイツをはじめとしたヨーロッパで作品の制作・発表を行い、ヨーロッパやアメリカを中心に多くの作品をパブリックコレクションとして収蔵している。平成28年度ポーラ美術振興財団在外研修員。 www.yasutomoota.com[Photo: Fumiaki Omori (f-me)]