第12回 本と建築について ――新アトリエ作り(2)
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前回は、日本に帰国してからの新しいアトリエ探しをしているところでしたが、あれから数週間が経った現在、まだ新しいアトリエでの作品制作は始まっていません。始まってはいないのですが、場所は決まりました。今は、その決まった場所の工事をしています。もう少しというところまで来ました。
本を作る場所を作っているわけですが、少しずつ進んでいく工事を見ながら、本と建築の関わりを改めてリアルに感じました。
▼本と建築の関わり
以前にも触れましたが、僕が「本」を強く意識し始めた頃、ウィリアム・モリスの『理想の書物』にはとても刺激を受けました。「最も美しい芸術を問われたなら美しい家と答えよう。次に美しい本である」というモリスの言葉は、僕にとっても非常に影響力のある言葉です。僕が「本」を意識した当初から、モリスの言葉によって「本」は「家」つまりは「建築」と並べられていたのです。
本にまつわる専門用語には、タイトルが入ったり、区切りの役割をしたりする「扉」と呼ばれるページがあり、各ページの版面の外に記される書籍の情報などを「柱」と呼んだりします。建築と関係のある名称を持っています。また、扉を開いて中に入っていくという動作ももちろんそうですし、本をデザインする上で視線の動き(動線)を計算することも、建築を設計することととても似ているように感じます。
そういうことも関係してか、僕のこれまでの作品にも建築と関係のありそうなものがあります。
『Book-Composition』のシリーズは、本とぴったりの大きさの穴が空いた壁に、本を差し込んだように見えるようになっています。
空間の中に本を配置していく行為を通して、物体としての本の存在を改めて認識します。
2015年には、《造本見本帳》(太田泰友+加藤亮介)の作品として、『ここに置くための本』を発表しました。
このプロジェクトでは、ある廃ビルの中のいろいろな形に合わせて、その場所にしか置くことのできない本を作りました。本が物体として持つ形を、限定された場所に合わせるという方法を通して、本の物質性に迫ってみようという試みです。
実際の制作は想像していたよりも非常に難しいものでした。建物の中の凸凹は、ただ凸凹しているだけではなく微妙な角度や丸みが存在していて、少し調整しては現場で確認してという作業が延々と続きました。本が完成した後も、例えば30kgを超える本や約1mの大きさの本などは、設置するのも危険を伴い、一苦労でした。もしかしたら完成した作品の展示を見ていただいた方々よりも、身体をもった体験として僕が一番〈本の物質性〉を感じたのかもしれません。展示のコンセプトを理解して、まるで宝探しのように「私は全部で○冊発見しましたが、正解ですか?」というようなコメントをいただいたりしたのも面白かったです。
建物の形のディテールから発生した本の形は、その特定の場所から取り外してみても、その形がどのようなものから生まれてきたのか想像させられる興味深いものでした。展覧会の会期終了後に全ての本を搬出し、初めて一緒に並べてみたところ、いつにも増して本が建築のように、そしてその集まりが一つの街のように見えてきました。
こうして、建築とつながりのある作品を振り返ってみると、僕はどこか建築物を作ってみたいような気持ちがあるのかもしれません。ところが実際には、僕は建築物は作れない。その代わりに本を作れます。
建築は、その空間の内部で人間が身体を伴った活動ができる一つの世界ですが、一方で本は、(多くの場合は)手に収まるスケール感です。それ故に、身体を伴って本の中に入り込むことはできませんが、場合によっては建築を超える大きさの世界観が内側に存在し得るとも言えるでしょう。
今後、本を作りながら建築にどうやって近づいていけるのか、本と建築のどんな新しい接点を見つけられるのか。楽しみにしながら、新しいアトリエも作っていきたいと思います。
[第12回 本と建築について ――新アトリエ作り(2) 了]
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