COLUMN

太田泰友 2031: A BOOK-ART ODYSSEY(2031年ブックアートの旅)

太田泰友 2031: A BOOK-ART ODYSSEY(2031年ブックアートの旅)
第9回 最高学位 マイスターシューラー(その2)

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第9回 最高学位 マイスターシューラー(その2):
マイスターシューラー課程修了試験

◯本連載のバックナンバーはこちら
◯「マイスターシューラー」という学位について詳しくはこちら(第8回)

2017年7月に開催された、僕のマイスターシューラー課程修了試験は、マイスターシューラーとしての活動期間中に生まれたプロジェクトの個展形式での展示と、口頭での発表で構成されました。
発表タイトルである「YASUTOMOGRAFIE」は、プロジェクト名であり、作品の制作手法としても名付けており、そのプロジェクトの中で生まれた作品「Frucht I(フルーツ 1)」「Frucht II(フルーツ 2)」「Frucht III(フルーツ 3)」を発表しました。
今回は特別に、その発表の主要な部分の日本語訳を掲載します。

Photo: Stefan Gunnesch

Photo: Stefan Gunnesch

Photo: Stefan Gunnesch

Photo: Stefan Gunnesch

Yasutomo(男性名詞):
1988年日本生まれ、右利き、ブックアーティスト、ブックアートのマイスターシューラー、175cm、68kg、黒髪、茶色の瞳。
彼は、本が物体としてどのように機能するかとても興味がある。
対象物が本の中に移し替えられたとき、その対象物が本の構成要素によってどのように置き換えられるか、様々なプロジェクトを通して研究している。
彼は本に興味があるが、だからといって本だけを見ているわけではない。本を知るために、本の中に何か違う物体を移し替えて見ている。

-grafie:
「書く、描写する、グラフィカルもしくは写真の表現」という意味を持つ、造語の要素

Tomografie(女性名詞):
人体の構造の描写するイメージング方法(特に、コンピューター・トモグラフィー)

YASUTOMOGRAFIE:
それはメディウムとしての本の中に、あるオブジェクトを移し替えることだ。
それは翻訳のようだ。違う言語によって、違う構造でそのオブジェクトが表現される。同じものが表現されているが、翻訳過程の中で新たな側面を見つけたり、翻訳前後の対比によって、その差異からその対象物への新たな気づきがある。
それは引越のようだ。家の中にある家具やたくさんのものを、新しい部屋に移し替える。大きさや形など、環境の違う空間にそれらを移し替えるために、それまでとは違う配置で家具を置いたり、場合によっては新たに積み上げられたり、分解されるものもあるかもしれない。同じもので構成されていても、異なる空間にそれらが配置されると、新しい生活の価値が生まれる。

Photo: Stefan Gunnesch

Photo: Stefan Gunnesch

複数の折丁が積み重なっているのを見ると、それは私にはもう本に見える。薄い層状のものの積み重なりから、本というオブジェクトを想像する。
一方で、一つのオブジェクトを薄い層状に切ると、たくさんのスライスができあがる。そのスライスをまた積み重ねると元のオブジェクトの形が立ち現れる。スライスとオブジェクトの関係が、私には折丁と本の関係に見える。

Photo: Stefan Gunnesch

Photo: Stefan Gunnesch

また、一つのオブジェクトの詳細を観察する方法であるCTは、物体の断面を見ることによってその目的を達成している。私は、オブジェクトの詳細を観察するために、折丁一枚と同じ厚さにスライスしてみた。

「Frucht I(フルーツ 1)」

「Frucht I(フルーツ 1)」

2mmというのは、私が本づくりにおいて頻繁に使う単位だ。ぺらぺらとした紙を使う時、もっと言うと、紙に印刷をするとき、平面で捉えることが多いが、実際には紙は「厚さ」を持っている。このプロジェクトでは、通常複数枚の紙が重ねられ折られてできている折丁を、ボール紙から作った一枚で構成することによって「厚み」が強く意識させられる。私は2mmという厚みの中に宇宙の広がりを感じる。フルーツのスライスの2mmの中にもたくさんの興味深いことが起きているし、本を作る過程においても、2mmの中に本当にたくさんのドラマがある。2mmともっと付き合いたくて、2mmの可能性をもっと知りたくて、このプロジェクトでは一枚の折丁の厚みの中に文字としての情報を入れた。

「Frucht I(フルーツ 1)」

「Frucht I(フルーツ 1)」

3方向から2mmという単位で捉えたオブジェクトのフォルムは、もともとのオブジェクトの形をより強く意識させる。
本という容器の中にオブジェクトを移し替えるというのは、情報を分解し、それらを整理し、そして改めて一層一層組み立てていくことだ。このようにして私はその対象物に近づくことを試みている。

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「Frucht I(フルーツ 1)」

「Frucht I(フルーツ 1)」

私は植物だ。
ここに、私のもとに成熟した3つの果実が成った。強く根を張り、背を伸ばし、たくさんの光を浴び、美しく花を咲かし、そしてまたたくさんの果実をつけるだろう。

Photo: Stefan Gunnesch

Photo: Stefan Gunnesch

Photo: Stefan Gunnesch

Photo: Stefan Gunnesch

私はブックアーティストだ。
私はこれからもアートとしての本を作り続ける。

Photo: Stefan Gunnesch

Photo: Stefan Gunnesch

第10回 日本に活動拠点を写します に続きます

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Yasutomo Ota’s Works
太田泰友作品紹介
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『Frucht I』

制作年:2017年/寸法:120 × 120 × 135 mm/技法・素材:ハンドオフセット印刷、スキャノグラフィー、麻糸/部数:23

 このブック・オブジェクトは、モチーフとなっているレモンを、本という形の中に移し替えたものである。ページ一枚の厚さと同じ厚さにスライスしたレモンのグラフィックを本の中身として配置し、側面のテキストの中の空白は、その角度から見たレモンのスライスの直径と同じ幅になっており、外観から元のレモンの形を知ることができる。
 「折丁が積み重ねられた状態を見た時、私にはそれが既に本に見える」と本文終盤に記したように、スライスの積み重なりはレモンという一つの物体を想起させ、またスライスの断面を観察することは、CTによって対象物を詳しく観察するようである。このようにグラフィックとテキストを用いて、レモンの持つ要素を本というオブジェの中に移し替え、本の形態を利用したレモンの観察が実現できた。


PROFILEプロフィール (50音順)

太田泰友(おおた・やすとも)

1988年生まれ、山梨県出身。ブックアーティスト。2017年、ブルグ・ギービヒェンシュタイン芸術大学(ドイツ、ハレ)ザビーネ・ゴルデ教授のもと、日本人初のブックアートにおけるドイツの最高学位マイスターシューラー号を取得。これまでに、ドイツをはじめとしたヨーロッパで作品の制作・発表を行い、ヨーロッパやアメリカを中心に多くの作品をパブリックコレクションとして収蔵している。平成28年度ポーラ美術振興財団在外研修員。 www.yasutomoota.com[Photo: Fumiaki Omori (f-me)]