INTERVIEW

independent publishers

independent publishers:宍道勉さん(曽田文庫応援団理事長)インタビュー
「ただ存続活動で済ませるのでなく『図書館こそ街の文化』だと示したい。」

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形態を問わず、私たちの周りでますます身近なものとして定着しているインディペンデントな出版活動。この「出版活動」という言葉の解釈を拡げることで見えてくる、本に隣接した新しい動きと、それに携わる人々の姿をメールインタビューによって探っていくシリーズとして、このたび連載「independent publishers」をリニューアルし再スタートさせます。
 
仕切り直しての第1回目は、島根県松江市雑賀町にある私設図書館「曽田篤一郎文庫ギャラリー」市民応援団理事長の宍道勉(しんじ・つとむ)さんとその周りのメンバーの方々に注目。年間4000人が利用し、地域の人々に親しまれるこの図書館は、本好きが全国から集まるイベント「ブックス在月」開催の契機を与えた場でもあります。インタビュー後半では、島根県の山村部3箇所への分館新設を目的とした現在進行中のクラウドファンディングプロジェクトについても掘り下げて伺いました。
※クラウドファンディングは2015年7月10日(金)午前11時まで実施予定。詳細は記事末尾をご覧ください

《前編》
地域に愛される松江の私設図書館「曽田文庫」とは?

「曽田文庫は町の誇り」。町内の住民から支援の動きが

――まず最初に、曽田篤一郎文庫ギャラリー(以下、曽田文庫)はどのような経緯で設立された場所なのか、簡単にお聞かせください。

宍道勉さん(曽田文庫応援団理事長/以下、宍道):元島根県職員米田孟弘氏が亡き妻清恵さんの残した「本が宝だ」の遺志を継いで、2003年3月島根県松江市雑賀町に設立した「私設図書館」で、建物は清恵さんの祖父「曽田篤一郎」氏が昭和7年に住居として建てられたものです。
 7年の間、お一人で運営されたが体調を崩されたのを機に「閉館」を決意される報を聞いた利用者の一人から相談を受けたのがプロフィールにある応援団の一員です。すぐさまMLに「存続を訴えた」ところ、十数名の賛同者が集まり「曽田文庫応援団」で存続することとなったのです。

曽田文庫外観(曽田文庫ギャラリーのウェブサイトよりスクリーンショット)

曽田文庫外観(曽田文庫のウェブサイトよりスクリーンショット)

 当初「運営費」を賄うために、市民その他の方々から「古本」をいただき、それを「売買」した収益を充てることとしました。これも応援団に加わっていた「インターネット」古本業の若い経営者の計らいでスタートしたことです。現在は応援団員の会費とインターネットで古書販売を手がける知的障害者のためのNPO法人との共同運営としています。

――曽田文庫には、普段はどのような方々が多く訪れますか。地域の方々にとって、曽田文庫はどのような存在なのでしょうか。

宍道:曽田文庫に近い幼稚園を含めた町内の子どもたち、住民だけでなく「曽田文庫」の評判を聞きつけた市民や近郊からの利用者があります。
 曽田文庫のある雑賀町は「旧い」松江の名残を留めた通りの狭い住宅街であり、「謡」の師匠さんがいたり、昔ながらの「表具屋」さんがあるものの、中心部に近いのに決して活気があるとは言えません。しかし“日本近代スポーツの父”と崇められる岸清一や昭和の宰相若槻礼次郎を生んだ住民がいます。外部から駆けつけた応援団だけでなく、ここでは「曽田文庫」を「町の誇り」として、町内の住民から支援の動きが出てきました。

――曽田文庫に置いている本の選定の流れや、基準などについて詳しく教えてください。

宍道:収納蔵書数が約5,000冊と限られるので、基準よりも「有効に」と考え、応援団の選書グループや松江市内で独特の選書・販売をする書店主が選ぶもの、市民の寄贈書から選びます。「分館」へ移動する資料は決して「本館」の「不要」図書ではなく、十分にスキャンし、相互利用ができるようにします。

曽田文庫内観

曽田文庫内観

分館が、いずれ地域の人たちのコミュニケーションの場となるように

――過去に曽田文庫として行なって特に反響が大きかったり、やりがいのあった催しは何ですか。

宍道:
(1)古本収集と売買と「貸し棚」
 市民から頂いた古本を以下の催しで販売し、曽田文庫の資金としています。
 一方で、「貸し棚」では曽田文庫の一画にある「本棚」を月額300円で貸し出し、古本やCDなどの市場を作っています。売り上げは棚借り人のものとなります。

(2)ブック・カフェ
 「出雲神話」について話す地元の歴史家から、イタリアより『知の広場 ——図書館と自由』(みすず書房、2011年)の著者・図書館人アントネッラ・アンニョリさんを招くなど大勢の方をお迎えしています。ゲストの「トーク」に、聴衆はワンコイン(「一杯のコーヒーと『古本』交換券」)を支払う代わりに、話し手には「謝礼」をしない条件です。

(3)「松江を本の街に(More Books in Matsue)」運動
 市内のホテル、理髪店、喫茶店、電気店、家具屋など約10店舗や近郊の「道の駅」に古本売場コーナーを設けていただいています。
 また、市内のイベントや遠くは広島で開催される「一箱古本市」に出かけたりもしていますが、売り上げよりも「曽田文庫」の名前を広げるのに役立っています。

協力店舗のうちの一つ、「いまみや工房」での本棚設置の様子

協力店舗のうちの一つ、「いまみや工房」での本棚設置の様子

(4)「ブック在月」(毎年10月)
 ブック・カフェに「一箱古本市」の提唱者である南陀楼綾繁氏を招いた縁で「若手応援団」が2013年10月から始めたイベント。10月は「出雲の国」が「神在月」であることに因んで氏が命名しました。「旧日銀松江支店」や近辺でビブリオ・バトルが行われたり、全国から一箱古本市愛好者が集まります。

「ブックス在月」のウェブサイトより(スクリーンショット)

ブックス在月」のウェブサイトより(スクリーンショット)

(5)「曽田文庫」分館設立
 「道の駅」に古本を置いたのが縁となり、図書館も書店もない、つまり本に触れる機会の少ない島根県内の中山間地域に「分館」を設置する運動が始まりました。2014年8月26日、島根県飯南町谷地区の廃校となった小学校(通称「谷笑楽校」)の図書室であった教室に約500冊を届けることを始点として、この運動は現在同様の状況にある他の3地区への設立活動に続いています(詳細はこちら)。
 この運動は本を届ける援助が狙いではありません。いずれは地域の人たちのコミュニケーションの場として発展を願うものです。
※分館設立プロジェクトの経緯については、本インタビューの後編で詳しくお話いただいています(近日公開予定)

「図書館こそ街の文化」だということを示したい

――他の地域にある民間図書館との交流などはありますか。ある場合は、どのようにそのネットワークを活用されていますか。

宍道:一昨年から開催されている礒井純充氏を中心に展開する「マイクロ・ライブラリーサミット」に参加したことから、小さな図書館を運営する人たちと間接的に訪問交流をしています。

――他の民間図書館と、曽田文庫の大きな違いや特色は何だと考えられますか。

宍道:前問の「マイクロ・ライブラリーサミット」で知り得た範囲で言えば、図書館そのものが「主体」でなく「応援団」が資金調達など経営から日常業務までをこなしていることだと思います。つまり関わって支える人々の正確な数字を把握できないという点です。

――市立や県立の公的な図書館ではなく曽田文庫だからこそできることに、どのようなことがあると考えますか。

宍道:公共図書館は「図書館法」や行政システムの縛りがあり、図書館運動が窮屈な状態にあります。しかし「曽田文庫」は障子の柔らかい光のある「我が家の書斎」の雰囲気で、まるで「自分の本」を読むことができます。本来の図書館のように本を借りるだけでなく、自分で古本・新刊や持ち寄った小物も販売したり、カフェの活動もできます。このように図書館としての機能を広げ、本に親しみがない人々をも巻き込む、いわば「ハイブリッド型図書館」なのです。本は好きだけど、ラベルの貼られた本や貸出が面倒で図書館に足を運ばない人たちにも馴染んでもらえるのです。

曽田文庫外観

曽田文庫外観

――ちなみに、宍道勉さんご自身は、どのようなことがきっかけで市民応援団に携わることになったのでしょうか。また、市民応援団には他に、どのようなメンバーが集まっていますか。

宍道:図書館司書、短大の司書養成教員を終えようとした時期に、知り合いの依頼を受けて曽田文庫の存続を訴えた本人です。上に述べている通り、かつてより現行の図書館と活動に不満と疑問を抱いておりました。そこへ降ってわいたのが「曽田文庫」です。当初から、ただ「存続」活動で済ませるのでなく「図書館こそ街の文化」だということを示したいという考えがありました。
 現在は応援する若い人たちがそれを超えて運動を進めています。
 最初の質問の答えの通りですが、応援団も5年目を迎え「世代交代」を考えています。ただ「活動」を促進する人だけでなく、庭や周囲の掃除、「日曜開館」の当番など日常業務をも務める人材が増えています。

後編「このクラウドファンディングが、一人でも多くの人に図書館や読書の意義を考えるきっかけになればいい。」に続きます(2015年5月7日公開)

★「曽田文庫」分館設立のためのクラウドファンディングプロジェクト
 2015年7月10日(金)午前11時まで実施中。

 
クラウドファンディングサイト「READYFOR」で「島根県の山間地域に、人々が集いつながる図書館をつくりたい」というプロジェクトが現在展開中。島根県雲南市、奥出雲町、邑南町の3カ所に分館を創設するための資金を集めています。
 
[参加方法や現在の達成金額など詳しくは下記から]
https://readyfor.jp/projects/3748


PROFILEプロフィール (50音順)

宍道勉[曽田文庫応援団理事長](しんじ・つとむ)

松江市雑賀町にある私設図書館「曽田篤一郎文庫ギャラリー」(曽田文庫)の市民応援団「曽田文庫応援団」理事長。他の「曽田文庫応援団」メンバーには、曽田文庫を囲む塀や庭の整備など私的援助をする島根県議会・松江市議会議員、マスコミの力によるPR方法の指導をする地方紙記者、補助金申請から報告まで曽田文庫の改善に力を入れる島根県職員たち、曽田文庫のHPを支援するIT企業の社長などがいる。インターネット古本屋社長の多大なる援助により当初の資金調達と運営を実現。自称「本と図書館大好き」人間が曽田文庫の方向性を模索している。


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