INTERVIEW

independent publishers

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#002: 『好物』(代表・大江遼太さん)

independent紙/電子を問わず、ますます身近なものとして定着してきているインディペンデントな出版活動。その中でも、とりわけ“紙”メディアに強いこだわりを持って活動をされている方々にメールインタビューを行い、セルフパブリッシングの今後の可能性や、紙の上から派生するさまざまな事柄を探っていくシリーズが「independent publishers(インディペンデントパブリッシャーズ)」です。

第2回目は、およそ月に1度のペースで発行され、2013年11月現在でvol.38まで続いてきたフリーペーパー『好物』について、制作室の大江遼太さんにお話を伺いました。今年で創刊3周年を迎え、記念イベントなども間近に控える『好物』、どのようにして作られているのでしょうか。

『好物』vol.38(「汚い」)

『好物』vol.38(「汚い」)

『好物』vol.36(「信号」)

『好物』vol.36(「信号」)

『好物』(vol.37「水」、vol.32「昼」)

『好物』vol.37(「水」)、vol.32(「昼」)



【『好物』制作室・大江遼太さんプロフィール】
大江 遼太(おおえ・りょうた)
2010年に友人とフリーペーパー『好物』を創刊。
都内に勤めながら発行を続け、今年で創刊3周年目を迎える。

 

メールインタビュー

――まずはじめに、フリーペーパー『好物』のコンセプトについて、簡単なご紹介をお願いします。

大江:「言葉で呼吸する。」をコンセプトに、知らない人の考えていることや感じていることに、読んだ方が自然に触れることのできる紙を目指しています。
手に取りたくなるデザインであること、手短に読める文章量であること、小さな刺激を与える内容であること、を大切にしています。

――『好物』を始められたきっかけや動機を教えてください。

大江:大学の仏文の授業でシュルレアリスムの作家たちが一枚紙に詩や読書会、出版物の告知を一緒に載せて配っていたというのを聴き、同人誌や書籍と別のかたちで、文章をかっこよく読者に届けることができないか考えていました
大学卒業時、周りに文章を書ける友人が何人かいて、運よくデザインをやってくれる友人もいたので始めました。

――制作室内での役割分担など、どのようなプロセスで『好物』を作っていますか。

大江:発行人とデザイン担当、何人かの執筆者で編集会議を行い、数号分のテーマと執筆者を決めます。
テキストが入稿されると校閲担当とデザイン担当が併行して作業を進め、印刷所に入稿し納品されます。
発行人と執筆者が手分けして配布店舗に配りに行きます。東京都外には発行人がメール便で発送しています。

また、毎月新刊発行後にその号に執筆した執筆者が集まって互いに感想を言う場を設けています。
この時に出る意見や雑談を編集上とても大切にしています。前述の編集会議を兼ねることもしばしばあります。

――月に1回という発行ペースをコンスタントに守られている理由や、その秘訣を教えてください。

大江:読む方が一定のリズムで配布店舗に足を運んでくれるように、当初から月1回の発行を考えていました。
原稿を集めてデザインを行う工程に決して余裕はありませんが、コンスタントに発行することで、「発行し続けることでクオリティを上げていく」という雰囲気は当初から共有されています。

――参加作家に声を掛ける際の方針や基準などがあれば教えてください。

大江:基準というほどのものはありませんが、何かに真剣に取り組んでいる人の「考えていること」はたいていとても刺激的なので、そういう方と知り合ったときに声をかけています。
発行人の交友関係の範囲で声をかけることが多いですが、「書きたい」という方がいる場合はお会いして話をうかがって判断させていただいています。

――“フリーペーパー”というメディアを選び、展開されている理由はなんですか。

大江:低予算だったので紙1枚で表現できることをまずやってみたかったこと、読んでくれる方に文章が届くまでのストレスがもっとも少ないこと、を理由にフリーペーパーという形式をとりました。
また、テキストとデザインの存在感が現れやすく、他の素材とくらべても非常に可読性が高い「紙」を使いたいという考えは当初からありました。

ただ、広告をとって運営費をまかなう、いわゆる「フリーペーパー」とは収支構造が全く違うため(というか収入はゼロです)、近く違う呼称にすることも考えています(「無料の紙」という点ではフリーペーパーであることに変わりはありませんが)。

――『好物』の流通ルートとして、現在の形態(配布場所)を選んでいる理由はなんですか。

大江:現在はそれぞれの街で独自の魅力を放っている書店、古書店、カフェ、ギャラリーなどで配布させていただいています。
手に取る場所の雰囲気の力を借りて、『好物』をより好きになってもらえればと思って設置依頼をしています。
今後は現在設置させていただいている「3331 Arts Chiyoda」さんや「まつもと市民芸術館」さんのようなアートスペースなど、公共の場所にさらに展開していきたいと考えています。

無国籍食堂「カルマ」(東京・中野)での配布のようす

無国籍食堂「カルマ」(東京・中野)での配布の様子

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――自分たちの活動を、より多くの人に届けるために行っている工夫はなんですか。

大江:「より多く」という発想は現在とくにありませんが、『好物』のコンテンツである「テキスト+デザイン」に様々なかたちで触れてもらうために、WEB上での展開やイベント参加などはつねに検討しています。
今月WEBサイト(http://ko-butu.com/)をオープンし、過去に発行したデザインのアーカイブが閲覧できるようになりました。

『好物』のアーカイブが閲覧できるサイト(キャプチャ)

サイト上で『好物』のアーカイブが閲覧できる(キャプチャ)

――『好物』は紙面のデザインも見どころの一つですが、その中で特にこだわっている点を教えてください。

大江:デザイン担当に話を聞いたところ「文章の持つ空気を汲み取ろうとすること、そして説明的になりすぎないことを心がけています。また、毎号異なる表現を試みつつも全体として統一感を感じられるような、連続性の中でのビジュアルのバランスには常に意識を置いています」とのことでした。

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――『好物』を、どのような人たちに届けたいと思いますか。

大江:働きながら、生活しながら、「今どんな言葉で考えることができるか」模索している人たちに読んでほしいです。

――最後に、『好物』の今後の展開について、イベントの予定や今後の目標など、可能な範囲で教えてください。

大江:11月18日(月)から24日(日)まで、好物3周年記念展『3』を世田谷区深沢の「SnowShoveling Books & Gallery」さんで行います。
会期中の22日(金)には《セルフ・パブリッシングの狂気》と題して好物3周年トークイベントを行い、ゲストには吉祥寺「ブックスルーエ」書店員の花本武さん、渋谷「Only Free Paper」店長松江健介さん、『好物』からはフリーライター/大学講師のトミヤマユキコが参加します。
いずれも『好物』の3周年を祝って「Only Free Paper」さんに主催して頂いているものです。

今後もゆるやかな月刊発行を続けていこうと考えています。タイミングや予算の許す範囲で、展示や出版なども検討していきたいです。これからも読者の皆さんに小さな刺激を与え続けられればうれしいです。

――今回はありがとうございました!

[independent publishers #002:『好物』 了]