マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の8人目のゲストは、マンガ家自らマンガ業界を盛り上げる活動体「漫画元気発動計画」を主宰する樹崎聖(きさき・たかし)さん。大物マンガ家が続々とゲストに名を連ねるネットラジオの連続配信や、日本のマンガ本来の良さを活かしたモーションコミックレーベル「漫元Domix」の企画・制作など、従来のマンガ家の枠を飛び越えた多様な活動の中から見えてきたものとは?
【以下からの続きです】
1/7:「そもそもが、マンガ家同士のオフ会で盛り上がって始まったことなんです。」(2015年3月11日公開)
2/7:「マンガ表現に『未踏の地』がほとんど残っていないからこそ。」(2015年3月12日公開)
3/7:「読む行為/保管する行為は別に考えた方がいいと思うんです。」(2015年3月12日公開)
4/7:「結局、僕はマンガを描くために生きているので。」(2015年3月13日公開)
マンガ家はマンガ編集者にもなれる?
山内:樹崎さんのように、マンガ家でありながら、イベントも企画できて、出演や音楽も作れるという方が増えてくると、今までのようなマンガ家と編集者の関係も変わってくるんでしょうか。そういう時代の編集者の仕事はどうなるのか、あるいは樹崎さん自身、マンガ家としてどういう編集者と仕事がしたいですか。
樹崎:僕は一つの可能性として、編集者はマンガ家の再就職先として有望だと思っているんです。今はマンガ家が増えすぎているということもあるし、マンガ家っていろんなカルチャーに詳しい方が多いんです。そもそも一日中音楽を聞きながら描いていたりしますし、マンガより映画の方が観ているよという人もたくさんいて。映画ってマンガのヒントになるものも多いんです。バブル期のマンガなどは、映画からの影響が見て取れるものもたくさんある。
それとマンガ家って作家性が高ければ高いほど、描けない時期もあるんですよね。描きたいものを描き終わったあと、マンガ家として次に描きたいものがすぐにあるとは限らない。そういう時に他の人のマンガの編集ができるんじゃないかって。描けない時期の影響で消えていってしまうマンガ家もいて、それはすごくもったいない。そこでマンガとの関わりと断ち切らないで、マンガ家として戻れる可能性を残したまま働ければいいんじゃないかと思うんです。僕自身、何人かの作家さんの編集もさせてもらったんですよ。
山内:既に樹崎さんご自身がやっていらっしゃるんですね。
樹崎:マンガ家からの評判もよかったんですよ、自分で言うのもなんですが(笑)。作家の気持ちもわかるし、アイデアも出せる。普通の編集さんでは同じような関わりはできないと思います。普通の出版社の編集さんは、頭はいいけれども創作脳ではないことが多い。その頭の良さが必要な場面はたくさんあるんだけど、マンガ家さんがマンガの編集をすることで、より作品の可能性が広がるかもしれないです。
山内:そうすることで作品の「深度」が深まりそうですね。
樹崎:「マンガボックス」編集長の樹林伸さんもマンガ原作者で、実際に自分で話を作れる人が編集することで面白いマンガが生まれているわけですからね。それは面白い可能性だと思います。
山内:編集者が一人ではなくチーム体制になって、一人は物語が得意、一人はビジネスに強くて……、という形で新しい編集スタイルも生まれそうな気がします。
樹崎:マンガ家もどんどん増えている中で、編集者がちゃんと作家を育てるということも減ってきている気がして。そうするともともと出版社が持っていた編集の良さ、みたいなものが失われてしまうんじゃないかと不安で。
指摘された通りではなく、より自分の方向性が伝わるように直す
山内:樹崎さんご自身の編集者との関わりで印象的なものはありますか。
樹崎:僕は『週刊少年ジャンプ』(集英社)でのデビューなんですが、担当さんが「バクマン。」(原作・大場つぐみ、作画・小畑健)にも出てくる佐々木尚元編集長で、彼が最初に担当した連載作家が僕なんです。その当時は佐々木さんも若くて、僕と年齢も近くて。当然一人目の作家よりも二人目、三人目の作家のほうが経験もあるわけですから、編集者としてそのとき彼が有能だったかというと、知らないことも多かったという状況でした。それで結局、ジャンプでやっても絶対当たらないようなことを僕と佐々木さんはやってしまって(笑)。主人公は前向きじゃないとヒットしない、という法則がある中で、第1回から後ろ向きな主人公を描いて読者アンケートの結果が最悪、とか。
佐々木さんも経験が浅かったこともあって、僕はデビュー作や投稿作からあまり言うことを聞いていなかったですね。言われたことに対しては、自分の伝えたい方向性がしっかり伝わっていなかったからだ、と受け止めて、指摘された通りではなく、より方向性が伝わるように別の部分を直していたりしましたね。
山内:マンガ家としてのプライドとか意地だとか。そういう部分も作家性ですね。
樹崎:そうですね。改めてそれが大事だと実感したのは、『マンガで食えない人の壁』(2012年、トキワ荘プロジェクト編著)を読んだとき。僕のインタビューを載せてもらっていますが、あの本に載っている他のマンガ家さんも同じことを言っていますよね。マンガ家さんはみんな自分の作家性を大切にしているんだな、と。
山内:そうじゃなかったら、マンガじゃなくてもいいと思っちゃいますよね。
樹崎:そこを大切にできない人は生き残れないんじゃないかって。特に人気がないと世間に媚びたくなるときもあると思うんですけど、そこで媚びたら駄目、というか。
それから佐々木さんはだんだんいい編集者になっていって、ジャンプの編集長にまでなったわけなんですが。
[6/7「『食えるマンガ家』じゃなくて『描きたいことを描いて食えるマンガ家』でしょ。」に続きます](2015年3月17日公開)
構成:松井祐輔
(2015年2月4日、レインボーバード合同会社にて)
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