第9回「みんなのまちづくりはやめにして、自分のまちづくりをする」
みなさん、こんにちは。まちづクリエイティブ、アソシエーションデザイン連載第9回目です。今日のテーマはまちづくりとDIY。「みんなのまちづくりはやめにして、自分のまちづくりをする」です。
欲しいものは自分でつくる。既製品を購入するよりも、自分でつくったほうが俄然、面白い。愛着も湧くし。近年、こうしたDIYは建築分野でも多くみられるようになりました。棚をつくる、床を貼る、壁を塗り替える、以外にも小屋を自分でつくるとか、いろんなDIYシーン *1 が各地に見られています。そうしたDIYを支援する団体 *2 も増えてきました。
MAD Cityでも設立以来、家を原状回復なくDIYで改装できるようにとか、ZINEをつくって友達に配れるようにとか、土手や道路、マンションの屋上などで自由にイベントができるようにとか、そういう個人の「自由」を応援できるようなまちを目指して活動をしてきました。
だけれど、そもそもなぜ、まちづくりを試みる会社が従前どおり、エリアマネジメントをはじめとした公共空間におけるまちづくりの支援でなく、積極的に私的空間におけるDIY支援を行うことになったのか。今日は私たちの考えている、まちづくりとDIYの関係について考えてみたいと思います。
▼閉じ込められた公共空間
寺井が最近、副タイトルでもある「みんなのまちづくりはやめにして、自分のまちづくりをする」とはっきり言うようになりました。言葉だけ聞くとtoo madで、専制君主で身勝手なと思われるかもしれません。結論を急げば、寺井のこの発言の背景には「公共空間(みんなの空間)をよくする取組には、私的空間(自分のための空間)をよくする体験が欠かせない」という考えがあります。以下、具体的にみていきましょう。
公共空間の利活用やエリアマネジメント分野で私たちがしている主な仕事というのは、簡単に言ってしまうと「公園でボールは使ってはいけない」、「寝転んではいけない」など、何事も起こらないようになっている公共空間をどうにか楽しく持続可能にさせようというものです。これは大変、至難の技であります。先達も非常に苦労してきた分野です。ここでは公共空間(サンプルとして公園や通路)がどうなっているのかについて書いてみます。
みなさんがよく目にする公園や通路には大抵、やってはいけないこと、やっていいことのルールが予め、決められています、そして、それを遵守させる警備員が配置されています。例えば、都市部の公共空間で何が起こるかというと、路上生活者がやってきて、住みつきます。違法駐輪が増えます。すると、管理者(行政や管理受託者)は腰を上げて、路上生活者が住みつかないように、駐輪されないように禁止看板と警備員を増やします。公共空間は禁止看板だらけになって、たのしいことや明るいことは何も起こらないようになっていくし、何よりその空間をじっと観察していると、たいそう切ない。
このように一例ではあるけれど、公園や通路といったまちの公共空間は、特定の人たちによる占有で他の人の占有を排除させてしまうか……もしくは、誰も使わない公園や広場など、管理者サイドが企画設計しないとコトが起こらない、極めて排除的に閉じ込められてしまった、さびしい風景になっているのです。
さて、こうした状況下、山崎亮氏等のコミュニティデザイン――こうした課題を抱える公共空間を地域の人たちが自分たちでデザインして、よりよく使っていこうというやり方――が流行りました。公共空間を「みんなのまちづくり」化するという同手法は、間接民主主義下におけるオンブズマン(行政監察官)やパブコメ(意見公募手続き) *3 のような直接民主主義のツールの一つとして有効かもしれません。ただし、そもそも構造改革の困難さを目の前にした地方自治体、デベロッパー、広告代理店、メディアがそのことに自覚的にコミュニティデザインに依存し、流行らせた背景を私たちはつい、見落としがちです。
▼DIYの真面目 自由と自律から得られるもの
さて、冒頭、寺井の「みんなのまちづくりはやめにして、自分のまちづくりをしよう」発言に戻りましょう。自分のまちづくりとは何でしょうか。
◇公共空間の始原のはなし
一点、その前に、公共空間の始原の話をしておきます。本来、公共空間というものは、それ単体で成り立つ話ではなく、個人が自らの自由な言論や活動の過程において、誰か他者に見られたい、見せたい、共有したいものがあれば、公共空間に自ずと出向き、協働が発露したものです。したがって、公共空間がダメになったので、市民を巻き込んで、公共空間の課題を解決するという上からのベクトルではなく、本来の意味からは私的空間の充足、支えのために公共空間をつくるという下からのベクトルが自然です。
◇MAD Cityにおける公共空間
MAD Cityではこのような考えから、下からのベクトル、すなわち個人の私的空間づくりを応援しようと入居者に対して積極的にDIYやアソシエーション(自律的に自分たちの興味や関心に応じてつくる組織、団体)づくりの支援をしています。具体的には、本連載でも触れた原状回復なしの賃貸住宅の貸出し、まちのコンシェルジュとして地域コミュニティ情報の紹介、弊社事務所のコモン化(ギャラリースペースを併設)、コモンスペースとしてFANCLUBの運用(入居者割引アリ)、DIY資材置き場などの共有スペースの提供、リノベーション支援、メディアでの配信などです。
ところで、先日、このまちにテンポラリーな本屋さん『Good music and books coffee stand』がオープンしました。おいしいコーヒーが飲めます。場所は『古民家スタジオ 旧・原田米店』の松戸探検隊ひみつ堂さんのスペースの一角で、現在、毎週日曜日と月曜日の営業です。
この小さなアソシエーションは、MAD マンションに入居しているフードユニット・Teshigotoの古平賢志さんが始めたもので、古平さんのお家(食堂)の延長のような空間がとても居心地がいいです。みなさんも、日月をねらって、是非、MAD Cityに遊びに来てください。他にも小さな協働やアソシエーションの萌芽に出会えるかもしれません。
「公共空間(みんなの空間)をよくする取組には、私的空間(自分のための空間)をよくする体験が欠かせない」。私たちは家の中でのひとりのDIY活動を開き、誰かと共有して、会話し合うことで、また創作活動へと向かえると思うし、その過程で、公共空間が1日、1日と深く、多様になってくると信じています。MAD Cityのそうした変化が何よりも楽しみで、私たち自身のこうしたまちづくり活動の支えでもあります。
やっと春がやってきました。山笑い、街笑う。次回も元気でお会いしましょう。まちづクリエイティブがお送り致しました。
[アソシエーションデザイン つづく世界のつくり方:第9回 了]
執筆:アップルパイペロリ
注
*1:各地に見られるDIYシーン
もはや、伝説となっている高知の沢田マンション。元牛乳屋さんをセルフリノベーションした「馬喰町ゴールドファーム」。豊島区池袋のメゾン青樹。大槌町吉里吉里にあったcafe APE。吉野元春の「桜井の家」。
*2:DIYを支援する団体
R不動産のtool box(「自分の空間を編集していくための“道具箱”」をテーマとして、リノベーション等に使うツールを販売するウェブショップ)、ハンディハウス、福岡の吉原住宅有限会社、大阪のDIY FACTORY OSAKA、夏水組(賃貸でも使える壁紙を開発)、株式会社フィルの壁紙屋本舗、壁紙屋さんWALPA、株式会社大都(DIY団地リノベーションを実施)など。
*3:パブリックコメント、意見公募手続き
尚、このあたりのアカデミシャンの議論を詳しく知りたい方は、真渕勝『行政学』(有斐閣、2009年)がわかりやすい。深めたい方は、村松岐夫『行政学教科書 ――現代行政の政治分析』(第2版、有斐閣、2001年)とともに、どうぞ。
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