COLUMN

菅俊一(監修) 電子本の売り方がよくわからないDOTPLACE編集部がとりあえず思いついたことから何でもやってみる企画(仮)

菅俊一(監修) 電子本の売り方がよくわからないDOTPLACE編集部がとりあえず思いついたことから何でもやってみる企画(仮)
06: 最新の「まなざし」をライブで書く。

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06: 最新の「まなざし」をライブで書く。

《あらすじ》
オリジナル電子本レーベル「DOTPLACE LABEL」の本をどうにかして売る方法を、『まなざし』著者の菅俊一さんと一緒に考え実践するこのコーナー「電子本の売り方がよくわからないDOTPLACE編集部がとりあえず思いついたことから何でもやってみる企画(仮)」。コンテンツの量がフィジカルに実感できる「紙版の電子本」の設置(※前回参照)に協力してくれた小屋BOOKSのあるリトルトーキョーで2月26日(木)の夜に突如決行された「まなざし」最新回の“ライブ執筆”のレポートを(ネタバレにならない程度に)お届けしていきます。
文:DOTPLACE編集部/撮影:尾中佑里恵、押田健太

■空白の半年間

 菅俊一さんの連載「まなざし」本編の更新は、昨年の9月に掲載された第18回を最後に止まっている。

2015年3月10日現在、暫定で最新の第18回

2015年3月10日現在、現在暫定で最新の第18回

 21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「単位展 ― あれくらい それくらい どれくらい?」の企画・コンセプトリサーチや、動画広告の新たな在り方を考えるプロジェクト「見るだけゲーム in YouTube」の企画制作などでここのところ多忙を極めていたというのだから仕方がない。逆に「大きな仕事を経たこのタイミングで連載陣に復帰してもらえれば、その分電子書籍版『まなざし』やDOTPLACE LABELの存在に気がついてくれる人も増えるんじゃないか」という編集部の仮説は実のところ後付けだが、おそらく「まなざし」の連載再開は、どんな思いつきの販促活動よりも効果的に働くに違いないのである。

■イベント3日前にようやく何をするかが決まる

 そもそも、このイベントは「紙版の電子本」を設置する場所を快く貸してくれた小屋BOOKSへのお礼の意味も込めたミニイベント、という位置付けだった。その時間帯にふらっとお店に来てくれた方に何かしらのささやかな特典があり、偶然その場にエンカウントした方も気楽に傍観できるというような、ゆるくて小規模な催しのイメージである。
 本番の3日前になって初めて、小屋BOOKS店主の松井祐輔さんと菅俊一さん、DOTPLACE編集部の後藤が初めて小屋BOOKSのある虎ノ門・リトルトーキョーで顔を合わせ、「まなざし」の最新の回が執筆されている瞬間が目撃できる“ライブ執筆”はなかなか良さそう、という話になった。執筆作業の画面を会場のスクリーンに投映して、それを必要に応じて実況しながら2時間とにかく書き進めるというものだ。
 「2時間ライブ執筆だけっていうのもアレですかね」「小屋BOOKSで売ってる本を紹介するミニトーク的なやつも途中に挟みますか」「液晶タブレットを最近買ったので、電子サイン会もそれを使ってできる」と、とんとん拍子で充実したプログラムだけが決まり、「なんとかなりそうでよかった」と半ば言い聞かせのような言葉を掛け合いながらその日は解散。漠然とした不安をそれぞれが抱えたままイベント当日を迎えることとなった。

■何を書くかもその場で決まる

来場者を必死に出迎える「紙の電子本」

来場者を必死に出迎える「紙の電子本」

 結果から言うと、このライブ執筆で書き上げることができたのは本題に入る前の“まくら”の部分までである。しかしその書き出しに至るまでの道のりに、菅さんの原稿執筆の方法論が顕著に現れていた。
 執筆作業はGoogle Driveのテキストエディタ上で行われる。菅さんが普段「まなざし」で書けそうなテーマをストックしているフォルダもライブ執筆の冒頭にちらっと披露されていたが、そこには既にアイデアの端緒になりそうな発見がたくさん箇条書きになっていた(ちなみに「まなざし」に限らず日々使っている紙のネタ帳がまた別にあるらしく、1日1つ以上、何かしらその日の気づきを書き込むことを自分に課しているのだそう)。普段はこのストックの中からテーマを選んで書き進めていくところを、この日は「小屋BOOKSで起こったり見聞きしたことについて書く」という縛りを設けていたので、テーマを発見する作業が序盤の主な工程となるようだった。
 普通だったらそんな即興性の高い執筆はプレッシャーで頭が真っ白になりそうなものだけれど、菅さんはライブ執筆に最適化されたポジション(キーボードの手前に置いたマイクスタンドを両腕で)を構築し、そのとき頭の中にあることを逐次声に出しつつ淡々と筆を進め始める。

菅さんのライブ執筆ポジション

菅さんのライブ執筆ポジション

■質問と答えの断片をとにかく積み重ねていく

・3日前に打ち合わせをした
・雨が降ってましたよね
・コンビニで傘を買うかどうかチキンレース
・もし傘を買って、すぐに止んだらどうしよう
・なぜどうしようと思うのか
・お金がもったいない
・お金をいっぱい持っていたらどうなのか、傘をすぐ買うのか
 ……という具合に、状況や発見に対する「なぜ」とその答え、さらにそれに対する「なぜ」の細かい連鎖を繋いでいくうちに、スクリーンに投影されたまっさらだった執筆画面はたちまち文字で埋まっていく。

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 頭の中で何度も自分に問いかけることで、「こっちを掘っていくと面白いものが見つかりそう」という鉱脈をいくつか並行して探っていく。その末に、「これでなら1本書けそうだ」というテーマの輪郭が複数、ぼんやりと見え始めるのだった。

■テーマを絞り、ここでようやく執筆らしい執筆に

 最終的にどれについて書いていくかを絞る段階に至るまでは、およそ1時間40分(途中、小屋BOOKS店主・松井さんとの「読んでいない本について堂々と語るコーナー」などのブレイクトークも挟みつつ)。ほぼ即席のような形で始まったこのライブ執筆も、問いと答えとそれに派生する菅さんのトークの積み重ねのうちに、来場者の方々がグイグイ惹きこまれていくのがわかった(直前の告知だったにもかかわらず、予想を上回る数の方にお越しいただいた。ありがたい)。
 今回深堀りしていくテーマにあたりをつけたら不必要な部分は潔く削り、全体の構成をざっくり整理し直すと、あとはこれまでの箇条書きだったテキストを繋げ、自然な書き言葉の形に肉付けしていくのみだ。

ライブ執筆の合間に行われた「読んでいない本について堂々と語るコーナー」。菅さんと松井さんが交互に、1行も読んでいない本の面白さをについて力説し、会場のみなさんにレコメンドする。めちゃくちゃな企画のようで、予想を超えて腑に落ちてしまうトークになり、イベント終了後に本の一部はしっかり売れていった

ライブ執筆の合間に行われた「読んでいない本について堂々と語るコーナー」(元ネタはこの本)。菅さん(左)と松井さん(右)が交互に、1行も読んでいない本の面白さをについて力説し、会場のみなさんにレコメンドする。めちゃくちゃな企画のようで、「この本がなぜ売れ残っているのか」の考察から始まる予想以上に腑に落ちてしまうトークが展開され、イベント終了後に本の一部はしっかり売れていった

ちなみに、「読んでいない本について堂々と語るコーナー」での菅さんの推薦図書は、石黒謙吾『2択思考』(マガジンハウス、2010年)、マルセル・モース『贈与論』(ちくま学芸文庫、2009年)。松井さんの推薦図書は、難波功士『「就活」の社会史』(祥伝社新書、2014年)、ベン・ウェイバー『職場の人間科学』(早川書房、2014年)

ちなみに、「読んでいない本について堂々と語るコーナー」での菅さんの推薦図書は、石黒謙吾『2択思考』(マガジンハウス、2010年)、マルセル・モース『贈与論』(ちくま学芸文庫、2009年)。松井さんの推薦図書は、難波功士『「就活」の社会史』(祥伝社新書、2014年)、ベン・ウェイバー『職場の人間科学』(早川書房、2014年)

■リアル「続きはWebで」

 最終的に残しておいた大きな2つのテーマのどちらにも繋げられる状態で第19回の“まくら”がほぼ出来上がり、その日のライブ執筆はいったん終了となった(書き出しが形を成してきたところで「あ、いつもの『まなざし』だ」とほっとするような気持ちにさせられる)。
 しかしここで菅さんが、Google Drive上にある執筆中のファイルのURLを、来場者にのみ共有するという粋なアイデアを思いつく。URLにアクセスすればリアルタイムで執筆の進捗が見られるので、イベント終了直後から原稿の完成までライブ執筆は続くというわけだ(この記事を書いている今も続いている)。

URLの閲覧者にはコメント機能を使って菅さんにエールを送る権限もある

URLの閲覧者にはコメント機能を使って菅さんにエールを送る権限もある

 というわけで、2時間以上にわたって行われたライブ執筆は、執筆にとどまらずあらゆる現場に適用できそうな菅さん流のアイデアの引き出し方・掘り下げ方を垣間見ることができる充実のイベントとなったのだった。
 近日中の「まなざし」第19回の公開を楽しみにしていただきたい。
 お越しいただいたみなさま、どうもありがとうございました!

★追記(2015年3月19日):この日にライブ執筆された原稿の完成版は下記から読むことができます。
 →第19回「突然の雨に遭遇したあなたは、傘を買いますか?」

●この連載について
オリジナル書籍レーベル「DOTPLACE LABEL」の第1弾として、今年7月に無事『まなざし』、『街の本屋の逆襲』、『コルクを抜く』の3冊を同時発売させたDOTPLACE編集部。めでたく発売まで漕ぎ着けたものの、ここにきて電子本を売るためのノウハウが自分たちにまったくないことに気がつきました。電子本としてのクオリティは自負している、だから絶対に売れてほしい、しかしどうしたらいいか素で見当がつかない……目隠しでサバンナに放たれたも等しい状況。そんな中、素人なりの素朴な思いつきを手当たり次第販売促進企画として試してみることにしたのでした。『まなざし』著者の菅俊一氏監修のもと、効果の大小はいったん脇に置いておいて、この連載ではその思いつきの実践の過程を随時報告していきます。


PROFILEプロフィール (50音順)

菅俊一(すげ・しゅんいち)

研究者/映像作家。多摩美術大学美術学部統合デザイン学科専任講師。 1980年東京都生まれ。人間の知覚能力に基づく新しい表現を研究・開発し、さまざまなメディアを用いて社会に提案することを活動の主軸としている。主な仕事に、NHKEテレ「2355/0655」ID映像、21_21 DESIGN SIGHT「単位展」コンセプトリサーチ、21_21 DESIGN SIGHT「アスリート展」展示ディレクター。著書に『差分』(共著・美術出版社、2009年)、『まなざし』(電子書籍・ボイジャー、2014年)、『ヘンテコノミクス』(共著・マガジンハウス、2017年)。主な受賞にD&AD Yellow Pencil など。 http://syunichisuge.com/


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電子版『街の本屋の逆襲』

佐藤雄一 (著), 内沼晋太郎 (著), 嶋浩一郎 (著), 石橋毅史 (著)
出版不況の煽りを受け、苦境に立たされていると言われて久しい“街の本屋”。しかし今だからこそ模索できる、本と人/人と人との出会いを生み出す新たな“街の本屋”の在り方があるのだとしたら…? 新潟市に2010年にオープンした40坪の小さな本屋「北書店」の店長・佐藤雄一と、東京・下北沢で本屋「B&B」を経営するブックコーディネイターの内沼晋太郎/博報堂ケトル代表取締役の嶋浩一郎、『「本屋」は死なない』(新潮社)の著者・石橋毅史らが交わした白熱の“これからの街の本屋”談義を計3本、フルボリュームで収録。ノスタルジーに浸るだけではない、継続可能な“これからの街の本屋”の姿とは。

Index
(1)佐藤雄一×内沼晋太郎「街の本屋の逆襲」
(ウェブサイト「DOTPLACE」2014年3月掲載)
(2)佐藤雄一×内沼晋太郎×石橋毅史「本屋鼎談」
(『HAB』創刊号収録)
(3)佐藤雄一×嶋浩一郎「『無駄なもの』の中にこそ真実があるんです。」
(本書初掲載)
◎それぞれの後日談

フォーマット: Kindle版
ファイルサイズ: 5605 KB
同時に利用できる端末数: 無制限
出版社: 株式会社ボイジャー; 1.1版 (2014/7/16)