都会に生きる少女たちのリアルな日常や若者たちの閉塞感・渇望感などを、大胆に、そして毅然と描き出し、80〜90年代カルチャーを牽引したマンガ家・岡崎京子さん。男性誌、ファッション誌など媒体にこだわらず活躍の場を広げ、「pink」「リバーズ・エッジ」など次々と話題作を生み出しました。1996年の不慮の事故により活動を休止しながらも、今もその作品はファンから圧倒的な支持を得ています。
そんな岡崎さんの初の大規模な展示が、世田谷文学館にて開催中です。300点を超える原画、映画「へルタースケルター」の衣装、学生時代のイラストやスケッチ、小学校の卒業文集まで! 多彩な資料を通して、「岡崎京子」を形づくってきたバックボーンから見ることができます。
そんな展示の見どころや経緯などを、今回の展示の担当学芸員である庭山さんと宮崎さんのお二人にお伺いしました。
※前編からの続きです。
企画の始まり
――企画は2年前とのことですが、今回の岡崎京子さん初の大規模展示はどういった経緯で企画・実現されたのですか?
庭山:岡崎京子さんは世田谷区の下北沢で生まれ育った方です。地元出身の人気マンガ家で、館内に愛読者も多く、いずれ実現したい企画としてスタッフの間ではずっと暖めていました。
3年ほど前に、当館の小冊子に作品からの引用を掲載させてほしいと連絡を取る機会がありまして、そこで接点ができたので改めて企画展を打診してみたところ、地元世田谷での開催を好意的に受け止めてくださって、了解をいただきました。
――やはりプレッシャーはありましたか?
庭山:1980年代の終わりから90年代半ばの東京のカルチャーを象徴するような方ですし、当時を知る人びとはそれぞれ自分にとっての「岡崎京子」像を大切に持っていると思います。そうしたファンの方々の多くが納得される展覧会にすることはとても難しいですが、個人的なプレッシャーなどを感じるよりはむしろ、とにかく岡崎さんと関わりの深い様々なジャンルの作家、アーティストの方々にできる限りご協力をいただいて、「岡崎京子」の多面的な拡がりを紹介できる体制づくりを進めることが大事なのではないかと思いました。
岡崎京子さんだからこその豪華執筆陣
――図録にもさまざまな方が寄稿されていて、非常に読み応え・見応えのある図録となっていますが、この人選は誰が行われたのですか?
庭山:編集の岸本さんと我々で、ぜひともご寄稿いただきたい方の候補を出し合って、それは錚々たる顔ぶれになったのですが、ご依頼するとほとんどの方がOKしてくださいました。それはやはり、岡崎京子さんだからこそなのだと思います。
宮崎:ご友人のよしもとばななさんや小沢健二さんのエッセイのほか、さまざまなジャンルの方々からエッセイや評論をご寄稿いただきました。執筆陣の豪華さもさることながら、それぞれの方々がお持ちになっている岡崎京子さんへの深い想いが伝わってきます。小沢健二さんは6頁にわたる長い文章をお寄せくださいました。今日マチ子さんにはトリビュート作品としてマンガを描いていただきましたし、詩人の文月悠光さん、歌人の穂村弘さん、写真家の川本史織さん、ミュージシャンのBIKKEさんの作品もカタログでご覧いただけます。岡崎作品でも再録に加え、「平成枯れすすき」などの単行本未収録作品も掲載されていますので、充実した内容の一冊になっているのではないかと思います。
時代を超える岡崎京子の魅力とは
――展示が始まって2週間ほど経っていますが(※取材時)、反響などはいかがですか?
庭山:リアルタイムで岡崎作品を読んでいたファンの方……現在30代〜40代くらいだと思うのですが、それ以下またはそれ以上の人にも来ていただけたら嬉しいと思っていました。
会期が始まってみると、幅広い年代の方にご来館いただけているようです。
会場で10代から20代の女の子が、立ち止まってじーっと原画を見つめている姿などをよく見かけて印象的です。
比率は女性の方が多いとは思いますが、岡崎京子さんは男性向けの雑誌でデビューされてから、音楽雑誌やファッション誌、思想誌など、少女マンガ雑誌以外にも様々なジャンルの媒体で活躍されている方ですし、男性ファンも比較的多いのが特徴ではないかと思います。
宮崎:男性陣の中には、「すごく好きだ!」という熱烈なファンがいらっしゃいます。岡崎さんの作品世界の幅広さと深さを物語っているのではないでしょうか。作品の魅力に惹き付けられるのは女子だけではないのですね。
庭山:現在、展示会場を出たところに岡崎さんへ手紙を書くスペースを設けているのですが、熱い思いが込められた手紙が連日たくさん寄せられています。ファンはもちろんですが、80~90年代当時読んでいなかった方や、10代、20代の若者からの手紙も多いです。もっとも時代と分かちがたい岡崎京子さんの作品が、時代を超えて人びとに届いているような感じがしますし、岡崎さんの作品はいつ読まれても、何か自分のために書かれた特別な手紙のように人びとに受け取られる普遍性があるのだなと思います。
——展示の最後に、あるメッセージがあります。
これは、岡崎京子さん自身が展示来場者に向けて「トビー」と呼ばれる視覚操作型の特別なコンピューターで書いたものだそう。
まだご覧になられていない方は、その言葉を確かめに、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
[DOTPLACE TOPICS 003 了]
岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ
期間:2015年3月31日まで
開館時間:午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)
会場:世田谷文学館 2階展示室
休館日:月曜日
料金:一般=800(640)円/高校・大学生、65歳以上=600(480)円/小・中学生=300(240)円/障害者手帳をお持ちの方=400(320)円
※( )内は20名以上の団体料金/※「せたがやアーツカード」割引あり/※障害者手帳をお持ちの方の介添者(1名まで)は無料
詳しくはこちら:http://www.setabun.or.jp/exhibition/exhibition.html
【今回お話を伺った方】
庭山貴裕さん:世田谷文学館学芸員。「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」では主に企画・構成を担当。
宮崎京子さん:世田谷文学館学芸員。「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」では主に会場展示を担当。
インタビュー&テキスト:石田童子
(2015年2月5日、世田谷文学館にて)
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