鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
【2017年12月25日】 ブロックチェーン技術で読者が著者を直接支援できる、という謳い文句。ブロックチェーンとは、分散型台帳技術または分散型ネットワークのこと。発行から現在までのすべての取引を、だれでも使えるP2P方式の台帳で記録している仕組みです。「Publica」はすでにICO(Initial Coin Offering)を実施して仮想通貨取引所である香港「KuCoin」に上場し、PBLトークンを発行して1億米ドルを調達しています。仮想通貨によるクラウドファンディングで、資金調達ができる出版プラットフォームを立ち上げです。READトークンは「転売可能」という点がユニーク。ただ、正直、株式市場のように投資家が保護されない仮想通貨ビジネスには、どうしても疑いの目を向けてしまいたくなります。「2018年はICO詐欺が社会問題に」という予測もあります。まあ、「Publica」がうまくいくかどうかは別として、これから日本の出版にもFinTechの活用事例が出てくるだろうな、と感じさせられるようなニュースではあります。
【2017年12月25日】 出版科学研究所より2017年の実績見込みが発表。コミックス(紙)が前年比約12%減と急ブレーキとのこと。前年実績から逆算すると1713億円。『出版月報』2017年12月号誌面には「電子コミックは20%増見込み」とあるので、前年実績から逆算すると1752億円。予想通りではありますが、ついに逆転です。紙+電子のコミックス市場は2016年3407億円、2017年3465億円となるので、1.7%増。ただし、おそらくコミック誌の売上も激減しているので、コミック市場全体(広告除く)ではやや減くらいに着地するのではないかと思われます。
さて、これがカニバリズムに依るものなのかどうかは、慎重に見極める必要があるように思います。というのは、電子コミック売上の8割くらいが既刊だという話を複数の電子書店から聞いているからです。これぞまさしくロングテール。中小書店の在庫は新刊が中心なので、既刊中心の電子出版市場拡大の影響は小さそう。既刊までラインアップしている大型店もしくはコミックス専門店には、影響が出ているかも? あと、海賊版の影響も無視できません。「旧刊の売上は促進、新刊には悪影響」という研究結果からすると、新刊中心の書店には多大な悪影響を与えてそう。
【2017年12月27日】 幻冬舎とCAMPFIREの協同出資で、出版専門のクラウドファンディング企業を設立。その名も「エクソダス」。イスラエル人の出エジプト記から転じて“外出”や“出国”という意味の単語ですが、記事中には“脱出”とあります。出版専門のクラウドファンディングはすでに「グリーンファンディング」がありますが、他の記事によると仮想通貨でトークン発行する形のビジネスモデルを検討している、という点が新しい。日本における出版のFinTech活用事例となるか? もし今後、ICOというキーワードが出てきたら、中間搾取を疑うオタク向けICOとして「クラウドファンディングを謳っている」ことを挙げている人がいることに留意する必要があるでしょう。しっかりとしたホワイトパーパーが公開されるか、その仮想コインじゃないとできないことがあるかがチェックポイントとのこと。もっとも、こういうのはポジショントークも入るので、見極めが難しいところではあります。
【2018年1月9日】 文化通信社星野渉氏による出版業界2017年総括と2018年展望。雑誌の売上減少に伴う出版輸送危機は、むしろ書籍の流通取引構造の変革を意味する、という指摘は重要。ほかにはアマゾンの取次バックオーダー停止と直接取引拡大、紀伊國屋書店の買切直仕入などを取り上げています。アメリカの独立系書店がちゃんとやっていけているのは、粗利率の高さだという指摘も。
【2018年1月11日】 リクルートの電子書店「ポンパレeブックストア」は2013年11月のオープン。裏方はメディアドゥです。引き継ぎストアの「スマートブックストア」は2012年12月に開設された電子書店で、当初はソフトバンクモバイルとメディアドゥの協業、2015年7月からはメディアドゥ直営になっています。同じシステムだから引き継ぎが比較的容易、ということなのでしょう。PC非対応で「一部会員が難民化」というのは、事実ではあるけどスマートフォンの普及率を考えたらちょっと煽りすぎなのでは。
【2018年1月12日】 「絵本、読み物、学習物といった児童書は、出版業界の厳しい環境の中でも堅調なジャンル」なのは間違いないのですが、「理論社及び国土社は、児童書に特化することで安定的な業績、数多くの優良コンテンツと多くの愛読者を擁している」というのは、どうなのでしょう? 理論社は2010年に民事再生法の適用を申請し、日本BS放送が100%子会社を設立したうえで事業譲渡しています(当時のリリース)。国土社も2015年に会社更生法の適用を申請しています。なお、日本BS放送のプレスリリース「株式会社理論社及び株式会社国土社の株式取得(連結子会社化)について(PDF)」を確認してみましたが、M&A Timesの記事はプレスリリースをちょっとリライトしただけの内容でした。なのでこれは日本BS放送が、そういう主張をしているということになります。
【2018年1月12日】 企業やメディアの投稿を減らし、友人や家族の投稿を優先させるという新方針。少し前からすでに「Facebookページ」の投稿出現度は体感できるレベルで下がっていて、昨年10月には広告を出さないページの投稿をメインフィードから追いやるテストまで始めているという報道もあったので、既定路線ではあります。にも関わらず、この方針発表を受け、Facebookの株価は一時5.5%安と急落しているそうです。
【2018年1月15日】 流出したのはメールアドレス・ユーザーID・氏名・読み仮名までで、クレジットカード番号などクリティカルな情報は無事だったというのが不幸中の幸い。私は、出版社による直販が今後もっと広がるだろうという予想をしているのですが、自社で顧客情報を持つのは大きなメリットがある反面、こういうリスクがあるということも忘れてはならないと思います。
【2018年1月16日】 丸善ジュンク堂書店の店頭端末から、「honto」の通販在庫や電書情報が検索できるように。「honto with」の店頭在庫取り置きと合わせ、どんどん便利になっています。なお、大日本印刷のリリースには「電子書籍で購入」まで選択できるとあるのですが、どうやって実現しているんだろう? プリントアウトして「hontoカード」と一緒にレジで決済? 今度行ったときに試してみます。
【2018年1月17日】 従来の条件は「総再生回数1万回以上」でした。累計ではなく「過去12カ月」に限定された点と、再生回数ではなく「再生時間」が判断基準になった点が大きな違いでしょう。チャンネル登録者数を売っている闇マーケットは存在しますが、総再生時間を伸ばすのは簡単なことではありません。仮に、1時間の動画を毎週1本アップロードしたとして、最後まで再生した人が毎回80人×50回は必要という計算に。うおー、ハードル高い。
1月もいろいろ興味深い動きがありました。さて2月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月( ・ㅂ・)و
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2018年1月 了]
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