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鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2018年2月「著作権保護期間が国際協定関係なく延長?」など

takano
鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

◇ ◇ ◇

【2018年1月25日】 とくに紙のコミックス販売額が、対前年で約13%減と大きく減少。ただ、電子コミックは17.2%増の1711億円。紙のコミックスは2016年が1940億円なので「13%減」から逆算すると1687億円。紙+電子でコミックス市場を捉えると、2016年が3400億円、2017年は3398億円で、微減ということになります。つまり、出版社はともかく、リアル書店と取次にとってはとても厳しい状況。
 では、紙のコミックスが減っている要因は「海賊版サイトによる被害が急増」しているからなのでしょうか。もちろん海賊版サイトは忌むべき存在で、私も「さっさと潰れろ」と思っているのですが、同じネット上にあって直接影響を受けそうな電子コミック市場は、若干鈍化したとはいえまだ伸び続けています。これはどういうことなのか。新刊中心の紙に対し、既刊中心の電子というあたりに違いがありそうです。
 なお、出版科学研究所の発表では、コミックスの低迷要因として真っ先に「人気作品の完結」が挙げられ、「映像化作品の不振」「新規ヒット不足」ときて、4番目に「電子コミックへの移行」となっています。「違法海賊版サイトの問題が表出しました」というのは、電子出版市場のセクションで触れており、コミックス(紙)の低迷要因とはしていません。

【2018年1月26日】 共同通信がiPS研の論文不正に関連して、山中伸弥所長の“疑惑”を配信。その後、同じURLでタイトルを「山中所長が給与全額寄付」と上書き、内容も完全に書き換えた上で履歴も残していないことに対し、批判が殺到しています。初報をそのまま紙面に反映してしまった地方紙もあるようです。
 BuzzFeedのこの記事が面白いのは、Internet Archive の Wayback Machine にしっかり証拠が残っていたため、修正履歴が時系列で追えるようになっている点。怖いのは、これをきっかけに共同通信が robots.txt で Wayback Machine を弾く設定にして、履歴が残らないようにしてしまうこと(読売新聞オンラインはそういう設定になっています)。
 記事の内容をしれっと書き換えてるメディアはこれまでもいろいろ見てきましたが、ここまで酷いのはウェブメディアでも珍しいように思います。「Welq」問題に端を発したメディアの信頼性問題は、伝統的メディアも決して他人事ではないと思っていたのですが。

【2018年1月27日】 前述の共同通信同様、既存の伝統的メディアに対する不信感がこちらでも噴出しています。私は昨年3月、文春の記事「ベッキー禁断愛」へ雑誌ジャーナリズム賞大賞が授与されたとき、「新聞や雑誌の考えるジャーナリズムがこれ。他の受賞記事もゴシップばかり。ジャーナリズムってなんだっけ?」と批判しました。扇情的なゴシップを追いかける行為は「イエロー・ジャーナリズム」と揶揄される対象であるべきなのに。とくに、不倫というのは当事者間だけの問題で、犯罪でもなんでもありません。だから不倫報道って、心からくだらないと思います。やっと世間がまともな反応をしたのかな。

【2018年1月31日】 興味深い動き。これで部決会議がなくなるかも? 配本の不均衡が減ったり、返本率の改善に繋がったりという効果が期待されているようです。ただ、こういうのって「類書」の売れ行きからの類推だったりするので、類書がない本には適用が難しく、類書がないと出版できない、という状況が加速しそうな気もします。それはそれで怖い。

【2018年1月31日】 所沢にデジタル印刷機を導入する、というのは2016年6月に発表済みですが、「書籍を注文者の自宅などに直接届ける」というのは新たな情報。やはり中抜きか、という感じ。書店にも配送するそうですが、取次は飛ばされる可能性が高そうです。もちろんケースバイケースとは思いますが。なお、デジタル印刷機は講談社・小学館が数年前に導入済み。素人目には、オフセット印刷版と見分けがつかないみたいです。
 なお、1月31日には「ところざわサクラタウン」の地鎮祭や記者会見が行われ、そこでKADOKAWAの松原眞樹社長が、本社所在地を所沢に移す可能性が高いと明らかにしたそうです(読売新聞オンラインに載っていたのですが、すでに記事が消えていました……)。現在飯田橋(富士見)にある本社機能の半分を移す予定とのことですが、所沢は印刷と物流の拠点になるので、恐らく管理部門が中心なのではないかと思われます。編集機能は打ち合わせなどの都合を考えたら、富士見に残すほうが賢明じゃないかな。オンラインだけでは伝わらない場合がありますからね。

【2018年2月1日】 取次飛ばしというか、日経の飛ばし? 記事では文藝春秋の名前が挙がっていますが、即座に「そういう事実はない」と抗議文が送られています。図もなんか変です。ただ、共同通信によると、印刷工場からアマゾンの倉庫へ直接納入するというのは、アマゾンジャパンが発表した新事業なので「大日本印刷・凸版印刷と協力して」という部分に関しては日経も正しいようです。なお、2017年3月には、アマゾンが出版社の倉庫から直接集配する、というニュースもありました。

【2018年2月10日】 著作権保護期間の延長には反対論も多いのに、結局、改めて国内ではろくに議論することなく延長が決まってしまいそうです。TPP協定時の秘密協定で、なし崩し的にアメリカの要求に対し譲歩した路線が、そのまま日欧EPAでも、TPP11(もしくはCPTPP)でも踏襲されてしまいました。こういうやり方するんですねぇ……。なお、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)は、知的財産戦略本部「知的財産推進計画2018」策定に当たっての意見募集に、著作権保護期間延長反対を含めた非常に濃く熱い意見書を提出しています。

【2018年2月11日】 日本漫画家協会の「海賊版サイトについての見解」という声明文に合わせた、海賊版利用実態やブロッキング規制、出版社による削除申請や、捜査機関との連携、セキュリティリスクなど、海賊版にまつわるさまざまな問題を丁寧にまとめた記事です。NHKの取材に対し「海賊版を利用しないように働きかける啓発活動」だけでなく、「今より使いやすい正規版配信サービスの整備」を挙げている出版社、良いですね。どこだろう?

【2018年2月13日】 昨年「コミックDAYS」編集部ブログで“マンガ家を目指す人が知っておくべき「法律」と「お金」の話”という短期集中連載をさせていただいた関係で、かなりおおがかりなプロジェクトが動いているというのは伺っていたのですが、定額読み放題サービスを含む形だったとは。しかも月額720円。私は「月刊アフタヌーン」電子版を毎月買っているのですが、これだけで元がとれちゃいます。ただ、バックナンバーはどうなっているのかな? なお、講談社は2月7日にマンガ投稿サイト「マガジンデビュー」のサービスを開始しています。同時多発的にプロジェクトが動いていたことに。大変だっただろうなあ。関係者の方々、お疲れさまでした。

【2018年2月17日】 アメリカの話ですが、embed が著作権侵害になり得るという裁判所の判断。「リンクは著作権侵害になるか?」というのは、ずいぶん前に決着したはずの議論なのですが、リーチサイト問題などによって再燃している感があります。EUでも以前似たような判決が出たことがありますが、「リンク先が侵害コンテンツと知りながら(または知るべきであったにもかかわらず)リンクを張る行為」に限定されていました。ところが、このアメリカの判決は「著作権法のどこを見ても、画像の表示とみなされるためにはそれを所有する必要があるとは書かれていません」と、かなり踏み込んだ判断です。

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2月もいろいろ興味深い動きがありました。さて3月はどんなことが起こるでしょうか。

ではまた来月( ・ㅂ・)و

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2018年2月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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