COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2017年12月「出版業界気になるニュース2017年回顧」

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 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。今回は年末ということもあり、2017年の出版業界を振り返ってみます。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

年初にはこんな予測をしていた

 まず、私が年初に予測していた2017年の動きについて。簡単にまとめると、以下の5つです。

(1)ウェブの雑誌化が進む
(2)出版者による直販が増える
(3)イーシングルが再び脚光を浴びる
(4)出版物の制作工程が変わる
(5)ローカルメディアが盛り上がる

(1)ウェブの雑誌化は進んだ?

  2016年の「雑誌のウェブ化が進む」という予測は、稼げるほうへ移行するであろう、という意味でした。これに対し、2017年の「ウェブの雑誌化」という予測は、ウェブメディアにも紙の雑誌と同様のクオリティが求められるようになるだろう、という意味です。なかでも「信頼性の向上」と「見た目の美しさ」を、ポイントとして挙げました。

▶信頼性は向上した?
 まず「信頼性の向上」について。2016年にはアメリカと日本でほぼ同時に、ウェブニュースの捏造や剽窃が大きな問題となりました。2017年にはこの問題への対策が、次々と打ち出されました。

 Facebook は、捏造や扇情的でない記事を優先するようアルゴリズムを変更したり、「うっかりクリック」は広告として課金しない方針になったり。Google は、検索結果表示の上位を狙う低品質なコンテンツの順位を下げたり、医療や健康に関する検索結果を改善したり。また、アメリカ当局は「ステルスマーケティング」を防止する目的で、「アゴ(食事代)」と「アシ(交通費)」と「マクラ(宿泊費)」を、記事に明示せよという勧告を行いました。

 日本でも、画像などの盗用で問題となったDeNAの「MERY」が小学館とタッグで復活校閲やダブルチェックといった体制を整えました。投稿者の無断転載が多発しており「お前が言うな」と批判された「NAVERまとめ」は、著作権管理システムとオーサーランクの導入といった対策を行いました。サイバーエージェントは、まとめサイト問題で延焼していた「Spotlight」をブランド統合、「新R25」として看板を付け替え再出発を図っています。

 「保守速報」が名誉毀損で賠償命令を受けたり、ファクトチェックの推進と普及を目的とした団体「ファクトチェック・イニシアティブ」が設立、という話題もありました。マンガのコマを合法的に貼れる「マンガルー」のサービス開始も、信頼性向上のための動きと言っていいでしょう。

 また、巨大違法サイト「フリーブックス」が閉鎖されたり、リーチサイト「はるか夢の址」運営メンバーが逮捕されたり、「ネタバレサイト」の運営者が摘発されたり、マンガ海賊版サイトからの賠償金が作家へ分配されたりと、海賊版対策が成果を上げた1年でもありました。

▶見た目は美しくなった?
 もう1つの予測「見た目の美しさ」は、「たてよこWebアワード」のような取り組みによって、CSS Writing Modes を利用した縦書き横スクロールのニュースメディアがそろそろ登場するのでは、というものでした。残念ながら私の知る限りでは、まだそういう動きはなさそうです。ただ、ウェブフォントを使用したサイトはどんどん増えているように思います。

 関連する技術的なトピックスとしては、デジタル出版物の国際標準規格 EPUB を推進していた団体 IDPF が、ウェブの標準規格を推進する団体 W3C に統合されたこと。そしてその動きに呼応し、慶應義塾大学SFC研究所・KADOKAWA・講談社・集英社・小学館・出版デジタル機構が Advanced Publishing Laboratory を設置したこと。W3C Publishing Working Groupで ウェブ+出版(Web Publication:Web出版物)の標準化仕様の策定が開始されたことなどが挙げられます。ウェブ技術を用いた日本語縦書き組版の本格化はこれから、ということになるのでしょう。また、Windows 10 Creators Update によって、ウェブブラウザ「Edge」で EPUB が開けるようになったのは、ウェブ出版物の普及という意味で大きかったように思います。

(2)出版者による直販は増えた?

 取次・書店という近代出版流通の危機により、流通チャネルは否応なしに多様化しています。大手出版社は以前からアプリで直接作品を届けるやり方に取り組んでおり、いわゆる「中抜き現象」は今後もさらに加速すると思われます。中でも利益率の高い「直販」への取り組みが今後は増えていくのでは、という予測です。

 2017年の動きとしては、講談社がメディアドゥと組んで「じぶん書店」を始めたり、マイナビ出版がソーシャルDRM方式の電子書店「978STORE」をオープンしたりといった事例が挙げられます。逆に、流通大手のCCCが徳間書店主婦の友社を買収し、製造小売業(SPA)の体制を強化するような動きもありました。また、アマゾンが出版社の倉庫へ直接集荷に行くとか、取次非在庫品の取り寄せ発注を終了するといった動きもありました。

 取次・書店側も、日販が書店から出版社の在庫を検索できるシステムを構築したり、書店店頭在庫をスマホで検索しそのまま取り置き・取り寄せが可能になったり、ARアプリで来店促進を図るといった対策を打ち出していますが、紙の市場縮小への抜本的な対策にはなり得ていないようです。

 また、電子取次2位のメディアドゥが1位の出版デジタル機構を買収して100%子会社にしたことも、関連トピックスとして挙げられるでしょう。ビットウェイの取次事業を出版デジタル機構が吸収したのは2013年。これで寡占化がさらに進んだわけですが、電子取次市場が電子出版に占める割合は6割程度という報道もあり、実は電子書店と出版者の直接取引比率は結構高いことが推測できます。

(3)イーシングルは再び脚光を浴びた?

 モバイル端末の普及により、スキマ時間を埋める手段として、短い読み物というのは一定のニーズがあるはず、という予測です。残念ながら、イーシングルという言葉が再び脚光を浴びるような状況にまでは至っていませんが、文藝春秋の電子書籍年間ベスト10にボーンデジタルの『「ユニクロ帝国の光と影」著者の渾身レポート ユニクロ潜入一年』と『アメリカの壁』が入っていることは注目すべき事象だと思います。話題になったとき、そのタイミングを逃さず即座に売り出すことができれば、ちゃんと売れるという実例です。

 また、次の予測とも関連しますが、電通の電子雑誌業務支援システム「Magaport(マガポート)」に富士山マガジンサービスの「fujisan 記事抽出システム」が搭載され、自動でマイクロコンテンツに変換する「マガポート記事サービス」が提供開始されました。今後はウェブ・電子書店に、雑誌由来のコンテンツがもっと増えていきそうです。

(4)出版物の制作工程が変わった?

 まず紙を制作するという体制からの脱却が進み、出版デジタル機構の「Picassol(ピカソル)」や「TOPPAN Editorial Navi」など、紙と電子を同時に制作するシステムが普及していく、という予測です。残念ながらまだ「成功事例」が喧伝されるような状況には至っておらず、上流工程からの根本的な見直しはまだ遅々として進んでいないようです。

(5)ローカルメディアは盛り上がった?

 流通が変わることで、東京一極集中から地方分散が進む、という予測です。これは正直、あとから「失敗した」と思ってしまいました。というのは、ローカルメディアの動きをマスメディアが取り上げることはほとんどなく、ニュースをウォッチしているだけでは状況が掴めないのです。個人が作る「ZINE(小冊子)」を紹介するショップが紹介されたり、『ローカルメディアのつくりかた』の編集者・影山裕樹氏の取り組みや、雑誌『Re:S』の編集者・藤本智士氏地元メディア「ジモコロ」など、動きを挙げることはできるのですが、「盛り上がった」と言えるかどうかは判別できず。私にとって課題の残る予測となりました。

その他大きな動き

 その他、2017年の重要なトピックスとして、以下のニュースを挙げておきます。

電子書籍(デバイス/コンテンツ)
講談社、ミリオンセラー無き増益 デジタルで稼ぐ
– 日本経済新聞(2017/2/21)

発売前の本の“ゲラ”を読んで評価できる「NetGalley」ベータ版を使ってみた
– INTERNET Watch(2017/06/26)

アマゾン、電子書籍でも最安値保証撤廃 公取委に報告
– 日本経済新聞(2017/8/15)

Amazonプライム会員が電子書籍を無料で読み放題になる「Prime Reading」提供開始
– INTERNET Watch(2017/10/05)

図書館
「図書館で文庫本貸さないで」文芸春秋社長が訴え 「文庫は借りずに買ってください!」 
– ITmedia NEWS(2017/10/12)

著作権
著作権者捜し代行、文化庁などが実証実験 埋没させず活用へ
– 日本経済新聞(2017/05/24)

著作権は70年保護 日欧EPA、外務省4カ月遅れの公表
– 日本経済新聞(2017/11/21)

書店(ネット書店含む)
ヤマト、アマゾン向け値上げ合意 4割超で
– 日本経済新聞(2017/09/28)

ブックオフオンライン、アマゾン「マーケットプレイス」に出店
– 新文化(2017/10/30)

その他出版社の動きなど
新潮社、すごすぎてコピーが書けない「すごい小説」を発売前に異例の全文公開 Twitter等でのキャッチコピー案募集へ
– ねとらぼ(2017/07/15)

 2017年もいろいろ興味深い動きがありました。さて2018年はどんなことが起こるでしょうか。

 ではまた来年٩( ‘ω’ )و

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2017年12月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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