「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第3回は、ゲームデザイナー/ライター/立命館大学教授の米光一成さんです。
※下記からの続きです。
第3回:米光一成(立命館大学教授) 1/5
第3回:米光一成(立命館大学教授) 2/5
第3回:米光一成(立命館大学教授) 3/5
第3回:米光一成(立命館大学教授) 4/5
電書カプセル
——あらためて、いま手がけられている「電書カプセル」についてお聞かせください。
米光:電書カプセルは簡単にいうと電子書籍販売サイトです。プロセスを見せられるのがポイントです。完成した作品がバンッとあるのではなくて、1章しかできていないものも読むことができます。そのあと著者が2、3、4章を付け加えられるし、1章そのものも書き換えられます。そんな仕組みのものを中心にやろうとしています。開くたびに内容が変わる魔法の本っていうイメージです。
米光一成さん
たとえば、トークイベントをやったときにイベント中に文字を打ち込んで、イベントの帰りにはアップされているというもの。イベントの最中にやっているから原稿は荒いけれど、さっき話をしたものや自分が質問したことが電車の中で読める。翌々日には、「僕はそんなこと言ってないよ」と言われたところを直したやつが上がっていたりする。そういったことを実験的にやっていこうかなと思っています。
Apple Storeの申請がようやく通ったので、もうそろそろスタートできるかんじです。あまり組織的にやってなくて、徐々にやっていこうかなと思っています。
——Apple Storeの申請が通るのに、時間がかかった理由はなぜですか?
米光:ひとつは、流動的な電子書籍っていうのが伝わらなかったんですね。現場では共有していたんだけど、それが外に出ると実感としてわからない。内容が変えられるということは、中身がなくなるってことも理論的にはできちゃう。それはいいの? とか。消費型、非消費型っていう作り方の根本部分で、新しいことをやろうとしたために、たいへんでした。
愛用の仕事道具たち
米光:仕事で使っているものを持ってきてくださいって言われたけど、ろくに道具を使わないので無理やりもってきたかんじです(笑)。
——普段文章を書くのはもちろんPCですよね。
米光:家ではPC、外ではポメラです。ポメラを外にもっていくのは、ノートPCが重いから。いろいろ使ってみたけれどポメラが一番打ちやすいですね。開いたらすぐに打てる。他のものだと打ち出すまでに最短でも5動作はあります。ポメラはほぼ開いて電源を入れるだけでいい。思いついて書くことが結構多いので、たとえば散髪屋に行って散髪している間にずっと考えて、散髪屋から出てポメラをぱっと開いて書きます。立ったままで、わぁっと打ったりもします。短文ならiPhone、ちょっと長いときはポメラですね。
——ポメラはネット繋がらないですよね。書いた原稿はどうやって送信しているのですか?
米光:ポメラのQRコードをiPhoneに読み込ませて、テキストをメールしています。ポメラなら3000字くらいのテキストを、200字ずつ毎にQRコードに分割してくれるので、ときどき、現場から原稿を送ってすぐ載せてもらうこともあります。
——ちょっとネットで調べないと書けないこととかもありますよね。
米光:iPhoneもあるし、わりとだいじょうぶ。いろんなものを持たなくてよくなりました。スケジュール帳はもう持ってません。メモ帳は持ってますが、スケジュール帳はiPhoneを使っていて、ようやくこっちの方がようやく便利になりました。
——メモ帳にこだわりはありますか?
米光:ずっとこれを使っています。こだわりとかはないですが、なんでもこれに書きます。分類もしません。時系列にこれを書いて見返しません。
——どれくらいで1冊消費しますか?
米光:やっていることによって変わります。1項目で見開きの次にいちゃう。両面書くと探しにくいので、乱暴に使ってます。だから今回は3ヶ月くらいもったなとか、長いもの書かなきゃいけないときは1週間で1冊使うこともありますね。
付箋も普段持ち歩いているもので、めちゃめちゃ使います。2種類あって、本を読むときに必ず半透明の付箋を使っています。普通の付箋だとページ単位に貼りますが、これなら行単位に貼れます。100円ショップで大量に買います。面白い本だと1ページに何カ所も付箋を貼ることもあります。もうひとつは大きめの付箋。読みながらメモを書き込みます。その付箋を次の本にもっていって、メモを読みながら別の本を読んだりします。前の本には、こう書いてあったとか。
——自分がプロデュースしている読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」で今度、複写式の読書ノートをつくろうと思っているんです。今のお話のように、メモは本に直接残しておきたいけれど、読んだ順番に読書の履歴を見たいときもあるじゃないですか。だから、1回書いたら2枚できて、1枚はメモとして切り離して本に挟み、1枚はノートに繋がって残ったままになっているというのを作ろうと。メモは本に残したままにしながら、履歴を縦でみたい時はノート側を参照すればいい。
米光:付箋にメモを書いているとなくなるんですよ。僕は付箋を他の本にもっていくから、「このメモどこにいった?」というときに別の本にあったりして、これはなんとかせねばならぬ事項です。複写式いいですね。読書ノートだけだと見なくなりますからね。
——封筒を持ち歩くのはどうしてですか。
米光:何か渡すときに使うかも、と思って……(笑)。あんまり使ったことがないな。
場づくりは踏ん張り
——ここまでのお話で「これからの編集者」は、人を編んで集め、場づくりをしていく人というイメージが浮かび上がってきましたが、最後にあらためて、これから編集者になろうという人に向けて、その場づくりのコツを教えていただけますか。
米光:1つは、好きなことというか「自分、ずっとこれやるな」と思うことでやるといいと思います。思いつきもいいけれど、その思いつきが自分の中でどういうレベルの思いつきかを精査しないといけません。
「今、流行しているからこれ」「売れっ子のこの人と会えたからこれ」でやるんじゃなくて、売れっ子のこの人と会えたから「この人と俺が何をやりたいのか」という根本と結びついていることをやらないといけません。今回だけじゃなくて、ずっと先もあるイメージ。
場づくりは、面倒くさいことや大変なことがあったり、トラブルが起こったりしたときに、どれだけ踏ん張れるかが大きいです。でも今回だけだと思ってやると、「もう、いいや」となって踏ん張れません。これがずっと続いていくこと、自分がずっとやっていくことと根付いている場合は、踏ん張れると思うんです。
失敗したときに失敗したことを謝るとか、フォローするとか、意外とそこが大切。場づくりで、「失敗したから、今のなしで、次」となると、信頼もなくなります。集まった人も「あの人のやっていること、つまらないよね」となっちゃいますからね。失敗しても、その失敗を隠さないで、どう次によくしようか考えられること。1回で終わらないことをセレクションする必要があります。
小手先の技術とかtipsも大切だけれど、その前のずっとやっていくものがあってのtipsです。結果としてtipsが蓄積してくのです。それなしに回していこうとすると、頑張ってはいるけれど何やら浮ついているなってしまします。「これは受ける」と思うとやりたくなっちゃうから、そこに常に立ち返ることが大切だと思いますね。
——簡単にやめられるようなことはダメということですか? そうすると、腰も重くなるかもしれないですよね。
米光:場をつくるって一回性のことが高いので、2時間イベントをやって終わりということも多い。簡単にやめられることだからこそ、底では繋がっていることをやらないと、ただのやりっぱなしになってしまう。それこそ1回1回のイベントはそこで終わって、引きずらなくていいと思います。
ゲームの一番重要なところは、「好きなときにやめられること」なんです。公的な社会ルールをゲーミフィケーションするのは危険と欺瞞があります。ゲーミフィケーションで会社のモチベーション上げましょうというと、「俺、そのゲーム好きじゃない」という社員は、モチベーションが下がって、やりたくないゲームをやらされている状態になっちゃう。ゲームやるのかやらないのか、どのゲームをプレイするのか、それを自分で選べないと、やってられない。
簡単にやめられること、という前提があって、そのうえで、でも真剣に勝つぜ、ねばるぜって当事者意識をもって参加することで楽しくなるんだと思います。
(了)
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プロフィール
米光一成
ゲームデザイナー、ライター、立命館大学映像学部教授
1964年生まれ。広島県出身。広島修道大学英語英文学科卒。1987年コンパイルに入社。人気ゲーム『ぷよぷよ』などを監督。1992年スティングに移籍し『トレジャーハンターG』などの人気ゲームを手がける。2001年からフリーランスとして、ゲーム制作に加えて、サブカルチャーやビジネスをテーマに執筆、カルチャーセンターの講師や大学教授など幅広く活動している。
インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 清水勝(VOYAGER)
編集協力: 宮本夏実
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