旅行ガイド『るるぶ』などを発行するJTBパブリッシングが2014年10月、『たびのたね』という新しい電子書籍サービスを始めました。
普段はなかなか手にすることができないご当地出版物が充実しているほか、記事単位で旅行ガイドを購入できたり、購入した本をひとつにまとめて自分だけのオリジナルガイドブックを作ることができたりといったユニークなコンセプトが注目され、「JEPA電子出版アワード2014」では大賞を受賞しました。
『たびのたね』の開発を担当した同社の青木洋高さんと井野口正之さんに、サービスの特徴や誕生秘話、これからの展望を伺いました。
【以下からの続きです】
旅行ガイドブックにイノベーションを ――電子書籍サービス『たびのたね』 1/6
旅行ガイドブックにイノベーションを ――電子書籍サービス『たびのたね』 2/6
旅行ガイドブックにイノベーションを ――電子書籍サービス『たびのたね』 3/6
「たね」から「花」を咲かせてほしい
―――ところで、『たびのたね』というネーミングがかわいらしくて、女子ウケしそうだなって思ったんです。
青木:ちょっとクサイんですけど、一人ひとりが自分の「たね」を作って、自分だけの花を咲かせるというか、自分だけの旅行を作ってもらうという想いを込めました。『たびのたね』がメインではなくて、あくまでも旅行者が主役で、旅自体を楽しくしてほしいです。普通のガイドブックではなく『たびのたね』を使ったから知らない地域のコンテンツに出会えて、いつもと違う旅行ができて、旅が楽しくなった、というところまでは持っていけないと意味がないですよね。
―――1冊単位だけでなく、抜粋版も買えるというサービスは、改めてすごく魅力的ですよね。「こういうのがあったらいいのに」という声が届いていたんですか?
青木:あるだろうなとは思っていたんですが、「割って付けちゃえばいい」っていう発想自体は僕自身も途中までなかったんです。むしろそういう声があると、ターゲットを絞った本を出しちゃいがちなんですよね。じゃあ今度は少し年配の方向けの落ち着いた旅の本を作ろうとか、こういう声があるからアラサー女子の何とか本にしようとか。
今回は本当に、「パーソナライズ」したサービスにしたいっていうのが一番考えていたところなんです。正直、今まで『るるぶ』に700円払っていたお客さんが、300円になってもいいと思っているんですよ。その分地域の出版社さんのコンテンツを買ってもらったほうが旅行するにはいいんだろうなって思っていて。一般的な旅行者が『るるぶ札幌』で旅をしたとして、おそらく半分くらいしか使わないんじゃないかな、実際。でもそこには作り手の思いもあって、札幌行く人って大体もう1都市くらい行くんですよね。それが小樽の人もいれば、富良野の人もいれば、旭山動物園の人もいる。そうすると、編集者としてはみんなに満足してほしいから全部入れちゃうわけです。だったらそれを別々にしちゃおうって。
―――形になってしまうとシンプルな話にも聞こえてしまいますが、ここに辿り着くまでに超えてきた壁も多かったのでは?
青木:そうですね。でもすごく会社の皆がすごく応援してくれて。予想外に、なんて言ったら怒られますが(笑)、やらせてもらえたことはすごくありがたかったなと。
今の『るるぶ』では満足できなくなった人たちに向けたサービス
―――紙の『るるぶ』を作られている部署では、インターネットとの競合関係での閉塞感みたいなものはあったのでしょうか?
青木:実は、旅行ガイドも売れなくなってきています。ただ、いわゆる出版不況というよりは、「旅行が売れれば本も売れる」という時代もあったんですよね。旅行ガイドって他の本よりも「めったにないから買うか」っていうのがまだあるんだと思うんですけど、そう思っていたら旅行ガイドも売れなくなってきたんですよ。これは完全にスマホの影響だと思っています。でも、先程も言ったようにネットで情報を得るのはすごく難しくて、旅先で本当にほしい情報をウェブで見つけるのは相当大変だと思います。
実は僕、『たびのたね』のユーザーは、『るるぶ』の読者とはほとんどかぶらないんじゃないかと思っていて。今の『るるぶ』ではもう満足できなくて買わなくなっている人がいっぱいいて、その人たちに向けたサービスなんです。やっぱり1冊のまるごとの『るるぶ』が紙で便利だよっていうのはまだまだあるニーズで、そのような人たちはこれからも大切なお客様だし、もちろんこの先も良い商品を作っていくんですけど、「いや、全部使わないし」とか「紙なんてパッケージ化されて横断できないし」と離れていっている人や「場当たり的なガイドではなくて地域のことを知りたいから、やっぱり私は口コミなのよ」って思っている人に、実は口コミよりも地域の編集者の本のほうがおもしろいよっていうことを伝える、新しいマーケットを作れるんじゃないかと僕は思っています。
―――リリースにこぎつけるまで、苦労されたことってなんですか?
青木:やっぱり、本当に良い、おもしろいコンテンツを見つけることに一番時間をかけました。そう、すごく感動した話があって、あるラーメンの本で北海道の出版社さんの取り扱いが決まったんですよ。そうしたら、その出版社さんがスープカレーの本も出していたので、「あ、これもいいな」と思って、その本も取り扱わせてほしいと言ったら「いやウチは、ラーメンの本なら負けないけど、スープカレーの本はこっちの出版社の方がいいぞ」って、別の出版社さんを紹介されたんですよ(笑)。「え、いいの?」って思ったんですけど、そういう思いで参画してくれている人ときちんと出会えて、すごくおもしろさを感じましたね。
[5/6へ続きます](2014年1月14日更新予定)
「たびのたね」にて、内沼晋太郎による特集連載企画「本屋の旅」スタート!
DOTPLACE編集長の内沼晋太郎が、全国各地にある本屋を自ら訪ね、その魅力を綴っていく連載企画「本屋の旅」が「たびのたね」内の特集ページで始まります。
現在、「たびのたね」にてプロローグが公開中。今後の更新にもご期待ください!
内沼晋太郎「本屋の旅」
インタビュー&テキスト:二ッ屋絢子
(2014年12月26日、JTBパブリッシングにて)
★本コーナー「DOTPLACE TOPICS」では、DOTPLACE編集部が注目する執筆・編集・出版とそのまわりの旬な話題を取り上げていきます。プレスリリースなども随時受付中です!
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