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002:旅行ガイドブックにイノベーションを ――電子書籍サービス『たびのたね』2/6

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旅行ガイド『るるぶ』などを発行するJTBパブリッシングが2014年10月、『たびのたね』という新しい電子書籍サービスを始めました。
普段はなかなか手にすることができないご当地出版物が充実しているほか、記事単位で旅行ガイドを購入できたり、購入した本をひとつにまとめて自分だけのオリジナルガイドブックを作ることができたりといったユニークなコンセプトが注目され、「JEPA電子出版アワード2014」では大賞を受賞しました。
『たびのたね』の開発を担当した同社の青木洋高さんと井野口正之さんに、サービスの特徴や誕生秘話、これからの展望を伺いました。

【以下からの続きです】
旅行ガイドブックにイノベーションを ――電子書籍サービス『たびのたね』 1/6

現代の旅行スタイルに合ったガイドブックを作りたい

―――『たびのたね』はどのように生まれたのでしょうか。

青木:僕はこの『たびのたね』を立ち上げることを考える前に、「地域交流ビジネス」という地域活性のお手伝いをする部署にいて、全国の自治体さんにどうやって旅行者を増やすかを提案する仕事をしていたんですよ。「地域のるるぶを作りませんか?」と全国を出張していた時期があったんですが、行くと必ずサボって、……いえ、「空いた時間で」(笑)、本屋さんに行くのが好きだったんです。ご当地の本のコーナーってあるんですよね。それでご当地本の奥深さを感じていて、「これ、『るるぶ』と組めないかな」とずっと思っていたんです。今回、まだ北海道と沖縄でスタートしたばかりですが、実際に出版社さんを回ってみるとやっぱりみなさんさんすごく思い入れが強くて、「自分たちの本を旅行者に出したら絶対に価値がある」ってプライドがあるんですよ。でも、それを流通させる、旅行者に知らせる術を持っていなくて、たとえばネット書店に出しても、まず知らないから検索されないんですよね。結局知られているのは有名なタイトルばかりで、その以外のブランドはなかなか難しい。

―――各地に出張されて、そのように考えていたことが『たびのたね』の出発点だったのですか?

青木:はじめから、「電子書籍のサービスを作りたい」とは思っていませんでした。僕も紙の本派だったので(笑)。旅行のカタチって、この30年位ですごく変わりましたよね。昔ながらの、みんなでバスに乗って旗を持って付いてきて……っていう旅行はほとんどなくなったじゃないですか。旅行が「目的」から「手段」に変わってきて、癒やしのために旅行に行きたいとか、失恋したから旅したいとか、家族サービスしたいからとか、何かをするための手段として旅行を使うようになった。昔みたいに「1年に1回しか行けないから」とかいって、たーくさんおみやげ買ってきて……という時代じゃなくなってきている(笑)。それなのに、旅行ガイドブックってずっと変わっていないなって思っていて。

―――確かにそうですね。

青木:実は『るるぶ』って、もともと月刊誌だったんですよ。『anan』や『non-no』とほとんど同じ時期に創刊した雑誌で、「アンノン族」っていう言葉があった時代なので……1970年代ですね。僕もまだ生まれてないんですけど。その時期に大阪万博(1970年)が開催されて、万博が終わったらバンバン作った電車が余ってしまうということで、国鉄が女性に個人旅行を勧める「ディスカバー・ジャパン」というキャンペーンをやったんですね。そのときに創刊したのが『anan』であり『non-no』であり、少し遅れて『るるぶ』だったんです。そのときの『anan』や『non-no』には旅行の特集が掲載されていて、「ananやnon-noのような旅がしたい!」といって、みんなまねして旅行に行くブームが起こり、そんな女性たちが「アンノン族」と呼ばれたんです。

―――『るるぶ』がそんな位置付けだったとは、知らなかったです……。

青木:『るるぶ』はその後いち早く雑誌型のグラフィックな「旅行ガイドブック」というものをうみ出して、県別の『るるぶ』を作ったんです。ここがターニングポイントで、ムックの『るるぶ』が創刊したのが1984年、昨年がちょうど30周年でした。ですがその30年間、旅行のスタイルはどんどん変わっているのに、ガイドブックは全然変わっていなくて、「旅行ガイドブックに、イノベーションを起こせないかな」っていうのがスタートだったんです。
 旅行の雑誌っていいなと思うのは、旅行の需要を作れるところで、テレビとかもそうですけど、「この本を見たから旅行に行きたいな」と、旅行の動機を起こすサービスだと思うんです。だけど『るるぶ』って、旅行の行き先が決まってから買うんですよね。『るるぶ箱根』を買ったから箱根に行くのではなく、箱根に行こうってなってから『るるぶ』を買うので、もっと旅行の動機とか需要を作れるサービスにしたいなっていう思いがありました。でも、旅行ガイドブックってすごくマスにしか訴えられない。「新しいことしたい!」「イノベーションだ!」とか言っても、やっぱり『るるぶ札幌』には時計台がないと怒られちゃうんですよね(笑)。でも、札幌市時計台って、5回も行く人いないじゃないですか。一人ひとり用途が違うのに、ガイドブックはどうしてもマスになっちゃう。だから、もっとパーソナライズされたメディアにしたいってずっと思ってましたね。そうしたら、電子書籍ってやりたいことができる最適の場じゃないかって。

JTBパブリッシング 情報戦略部 企画課 青木洋高さん

JTBパブリッシング 情報戦略部 企画課 青木洋高さん

3/6へ続きます(2015年1月13日更新)

「たびのたね」にて、内沼晋太郎による特集連載企画「本屋の旅」スタート!
 
DOTPLACE編集長の内沼晋太郎が、全国各地にある本屋を自ら訪ね、その魅力を綴っていく連載企画「本屋の旅」が「たびのたね」内の特集ページで始まります。
現在、「たびのたね」にてプロローグが公開中。今後の更新にもご期待ください!
 
内沼晋太郎「本屋の旅」

インタビュー&テキスト:二ッ屋絢子
(2014年12月26日、JTBパブリッシングにて)

★本コーナー「DOTPLACE TOPICS」では、DOTPLACE編集部が注目する執筆・編集・出版とそのまわりの旬な話題を取り上げていきます。プレスリリースなども随時受付中です


PROFILEプロフィール (50音順)

井野口正之(いのぐち・まさゆき)

1985年、日本交通公社(当時)入社。出版事業局で広告、雑誌編集、企画、Web事業等に携わる。社内一デジタルに精通した男(笑)として、Web事業を推進。2011年から株式会社JTBパブリッシングのデジタルパブリッシング事業統括部長として電子書籍事業を開始。現在、執行役員 情報戦略部長。趣味は電柱&鉄塔。 http://tabitane.com

青木洋高(あおき・ようこう)

2002年、JTB入社。出版事業局(現・JTBパブリッシング)時刻表編集部で『JTB時刻表』シリーズの編集、広告営業を経て、2011年から対地方自治体への地域交流ビジネス、観光振興プロモーションを担当。2013年から現在の情報戦略部企画課。2014年、「自分だけの旅行ガイド」を作る電子書籍サービス『たびのたね』を発案、立ち上げ。趣味はラーメン。 http://tabitane.com