INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編]

マンガは拡張する[対話編]
竹熊健太郎×山内康裕 1/3「マンガ家は、“食えない商売”になりつつある。」

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マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか、その可能性を綴ったDOTPLACEの連載コラム「マンガは拡張する」。これまでの全10回の更新の中で著者の山内康裕が描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく第2部「マンガは拡張する[対話編]」、しりあがり寿先生に続いて二人目のゲストは、近年オンライン・コミック・マガジン「電脳マヴォ」の運営に精力的に取り組む、編集家の竹熊健太郎さんです。

「電脳マヴォ」の現在

――竹熊先生、今日はお忙しい中ゲストとしてお越しいただきありがとうございます。今回は「マンガは拡張する」の、とりわけ「超・属人的キュレーターの時代」(第4回)あたりの内容を軸に、竹熊先生が運営されている「電脳マヴォ」の現状についても照らし合わせつつ、お話していきたいと思っています。

竹熊健太郎(以下、竹熊):私は過去、マンガ業界についてさまざまな提案をしてきていますが、昨年マンガの縦書き/横書き問題でTwitterで議論になりました。私は今後、世界に日本のマンガを売っていくためには欧米の読字基準に合った「横書き(左開き)」でマンガを作っていくべきではないかと思っています。この議論ではかなり批判的な意見をいただきまして、最後は「炎上」したのですが(笑)、ディテールはともかく、全体的な考え方として私のこの意見は間違っていないと思っています。出版危機は事実上のマンガ危機でありまして、今はベテランマンガ家でも仕事がない。50~60代で実績のあるベテランマンガ家がアルバイトで生計を立てている話も聞こえてくる現状です。マンガ家は「食えない商売」になりつつある。業績不振に歯止めがかかっていません。

山内康裕(以下、山内):マンガは、出版点数が増えている一方で、単行本の販売総額が下がっています。そうすると一作品当たりの売上が落ちているということです。

竹熊:私が運営する「電脳マヴォ」では、3月に往年のベテラン作家、故・上村一夫さんの『完全なる解答用紙』(1970年、少年マガジン)という作品を掲載し、大好評でした。今、ほとんど上村作品を読む機会がなくて、この作品も若い人は誰も知らない。幸い上村プロダクションの上村汀さんのご協力で「電脳マヴォ」に掲載することができました。40年前の作品ですが、「今の作品」として読んでも遜色がない、すごい作品でした。

山内:絶版作品など、紙でほとんど読む機会がない作品を電子で掲載することは、電子コミックの可能性の一つですね。

竹熊:そうです。ただ、電子出版するだけではマンガ家にとってほとんど利益にならないんです。電子書籍ストアに登録はされていても、実際はほとんど誰も読まない。すごい薄利ですから、版元が利益をとったら著者にはいくらも入りません。

山内:まだ電子市場は紙の出版物に比べて規模が小さいですが、それに対して登録されている作品数は相対的に多いと言えますね。

竹熊:多すぎます。ですから山内さんがDOTPLACEの連載(「マンガは拡張する」)で書かれていた「キュレーター」の存在が必要なんです。これはまさに「電脳マヴォ」のことかと思ったんだけど……。山内さんは記事を書いたときに「電脳マヴォ」は意識していましたか。

山内:もちろん意識していました。ただ「電脳マヴォ」だけでなくさまざまな事例も考慮しました。いろんな方向から検討した結果、同じ結論に落ち着いたということだと思います。

竹熊:「電脳マヴォ」へのアクセス数も今年に入ってからどんどん増えているんですよ。

山内:書籍化されて話題になった『同人王』(牛帝著、太田出版、2013年)の影響ですか。

竹熊:それもありますが、それ以上に、1~2年前の作品へのアクセスが上がってきている。たとえば『あたし、時計』(小田桐圭介)という作品。今年の1月8日に突然アクセスが集中してサーバーが落ちてしまったんです。落ちたから、全体の正確なカウントはできていないですが、想定で1日150万回くらいのアクセスがあったはずです。そういうことがあってから、私がTwitterでマヴォについて何を書いても、否定的なコメントが来なくなった(笑)。私のTwitterは業界関係者もかなり読んでいるはずで、その辺りから「電脳マヴォ」に対する風向きが変わった気がしましたね。

山内:僕は少し違う文脈で今のお話を聞きました。やはり『同人王』。この作品が単行本になったことで、書店員さんやマンガ好きの方が作品を勧めやすくなった。今までは電子媒体のみだったから、特にマンガ好きの書店員さんは作品をオススメする方法がなかったんですよね。それが単行本になって勧めやすくなった。

竹熊:『同人王』は勝負でした。とはいえ続けて何作も単行本化というわけにはいかない。次はどうしようかなと思っていた矢先の今年の1月後半、またいきなりアクセスが集中しまして。それが2年前の創刊当時に掲載した『家族喧嘩』(水野清香)という作品。少女マンガ的な絵とリアルな絵が混在している実験マンガのような作品なんですが、これがネットで評判になって、またサーバーが落ちたんです。だから、(アクセス数という意味では)「電脳マヴォ」は調子がいいんです。今はまだ一銭にもなってないですが、Webはコンスタントにアクセスさえあれば、広告を貼れますし、マネタイズの手段がいろいろ見えてきます。
 同時に、海外向けのマンガ展開も考えています。あるマンガ原作者の未発表作品があるのですけど、これをフランスのマンガ(BD・バンドデシネ)として売ることができないかというプランも浮上しています。それはだから、初めから横書きでのマンガ化を考えているんです。カラーにしようと思うんですが、Webに掲載するときは一度モノクロ版で掲載して、次回更新の際にカラー版を再掲載するという“時間差カラー連載”をしようかと。「電脳マヴォ」では思いつく限り、可能な限りさまざまなことをやっていこうと思っています。

山内:カラーになると読者層が広がる気がします。有名マンガでも「完全版」としてカラー原稿が収録されると、前に一度買ったことがある人でも買っちゃいますよね。ちょっとした工夫で読者の背中を押すことができるかもしれません。

竹熊:それにフランスでは圧倒的に絵が重要。絵がうまくなかったら話にならないんですよ。なので、作画家は手栗天狗郎さんという、谷口ジローさんのアシスタントをしていたとても絵が上手な方におまかせするつもりです。彼はフランスで自作を発表した経験もある人です。

山内:アート作品としての側面が強いですよね。逆に日本のマンガは大衆文化として誰でもアクセスしやすいという特徴がありますね。日本のマンガは海外から見ると「ハイカルチャー」に位置づけられることがありますが、同じ作品でも日本での受け止められ方は全く違いますよね。

竹熊:違いますね。そもそも「ハイカルチャー」と「サブカルチャー」の意味が欧米とは異なる。ただ私たちは日本で生まれて仕事をやっているわけで、この国からなんとかするしかないわけですよね。

左から、山内康裕、竹熊健太郎(敬称略)

左から、山内康裕、竹熊健太郎(敬称略)


 

才能ある人材は眠っている

——「超・属人的キュレーター」の必要性を山内さんはDOTPLACEの連載の中で書かれています。マンガにおいても「“誰が”選んで」、「“誰が”発信しているか」が問われているのではないでしょうか。竹熊先生はご自身が運営されている「電脳マヴォ」を通じて作家を育てるという立場で活動されていますが、「キュレーター側の育成」に関しては、どのように考えていらっしゃいますか。

竹熊:自分のことで手一杯なので、(キュレーターの)育成までは、まだ考えられませんが、いずれはやる必要があると思います。「電脳マヴォ」は2012年1月24日に立ち上げました。まだ実証できる程の歴史がないですが、このまま続けていけば実力のある作家も輩出できると思います。
 実はいずれマヴォのプログラムの基本版を無償、高機能版を有償公開する計画もあります。これであなたも電脳マヴォが作れます、というサービスです。Pixivなどと連動すればキュレーションの面白さに目覚める人が増えるのではと思います。「電脳マヴォ」が順調に存続して、山内さんも「キュレーター」の必要性を発信していけば、他からもそういった人材やメディアが出てくるんじゃないでしょうか。キュレーション自体は難しいことではないですから。
「電脳マヴォ」には、もちろんプロあるいはプロ志望のマンガ家の作品も掲載していますが、必ずしもプロを目指していない人の作品も載せています。
 そもそも私は2003年から大学でマンガ論を教えていて、その課題として学生にマンガを描かせていたんです。そうすると私が見ても「これだけ描けてプロを目指さないというのはどういうことだ」という作品が出てくることがあるんですね。例えばさっき話題になった『家族喧嘩』という作品。これは僕が多摩美術大学で教え始めた2003年、最初の年に出てきたわけです。それでこの作品は「電脳マヴォ」を立ち上げてすぐの2012年2月に掲載しています。それだけの作品だったということですね。そういう才能が眠っている。

山内:美大生の方の絵のポテンシャルは凄いですよね。作品の雰囲気も美大出身とそうでないマンガ家さんとでは違う印象です。

竹熊:『家族喧嘩』は7ページしかないんですが、作画が完璧なんです。しかも大学1年生で描いたんですよ。だから才能のある人材はいるんですよ。美大生でも特に上位に位置する学生はやっぱりクリエイティビティがあるから、マンガを描いたことがなくても描ける人は描けちゃうわけですよ

山内:今の美大生は子どもの頃からマンガを読んでいる世代だから、いきなり描けちゃうんですよね。

竹熊:今の若い人で美大に行っているような人は、マンガが描けない人の方が少ないんじゃないかな。
 
 

マンガの縦書き、横書き問題

山内:美大出身の方が描く、いわゆる“いままでとはちょっと雰囲気の違うマンガ”は日本でも一定の読者がついていて売れています。海外向けに日本のオタク文化を発信している「Tokyo Otaku Mode」の方など、海外展開をされている担当者の方にお話を聞く機会があるんですが、アジアは、ユーザー数は多いんですが、お金を払えるユーザーの規模が大きいとはまだまだ言えない。日本のオタク文化はアジアにはそのまま売り込めるけど、欧米では文化が違うのでウケない。そういうことを考えると、美大出身のマンガ家が描くマンガは欧米でも受け入れられそうなんだけど、まだ販売ルートが定まっていないのでなかなか売り込めないという状況なんだと思います。

竹熊:業界全体を見ると、「欧米でマンガを売りたい」という話がどうしても先行する。アジアは海賊版が多くて儲かりにくいという事情があって、アジア市場にはマンガ家も出版社もなかなか本気にならない。最近になってやっとアジアが注目されているけど、昔から本気で取り組んでいたのはKADOKAWAだけ。KADOKAWAは1999年に「台湾国際角川書店」という現地法人を作って、横書きのマンガ雑誌も出版している。そこで20年がかりで中国人の編集者を育てて、その編集者を中国に派遣して2010年に「広州天聞角川動漫」という中国の現地法人を立ち上げた。あわせて中国で『天漫』というマンガ雑誌を出している。その中では中国人のマンガ家が「ガンダム」や「涼宮ハルヒ」のマンガを描いていて、絵も凄くうまい。中国人と知らされなかったら 日本人のうまい人が描いたマンガにしか見えない。

山内:KADOKAWAはグッズ展開がうまいので、コンテンツだけでなく関連グッズ販売で利益を上げることが可能ですね。とはいえ販売を考えた場合、中国を除くアジア市場はまだ欧米より市場規模が小さいですから、アジアではそんなにグッズが売れない。ただ人口は多いので、チャンスだと思っているところも出てきているようです。

竹熊:日本のマンガは文化的にはアジアで受けるでしょ。

山内:そうですね。特に台湾や中国。

竹熊:それもあってマンガの縦書き、横書きもとても重要な問題だと思っているんですよ。でも誰も真剣に考えない、考えたくないわけです。だって今更70巻も続いている『ワンピース』(尾田栄一郎、集英社)を横書きにはできない。大変な問題になるでしょ。ビジネスが根底から変わっちゃう恐れもある。だから私が横書きにしようと発言したときにみんなが反対したんですよ。

山内:単純に縦書きが横書きに変わると、絵の向きも反対になりますよね。マンガ家さんも縦書きに合わせて描き慣れていない向き顔のキャラクターを描かなきゃいけないという問題があったり……今まで通りの絵を描ける人が減ってくるという意味でも大変になると聞いたことがあります。それに日本のマンガのスタイルで横書きの文字は読みにくいですよね。他にも、iPhoneなどの電子デバイスでマンガが縦スクロールで流れていくことを考えた場合、縦書きの方が読みやすいという意見もあるようです。

竹熊:それはもちろんありますが、努力で克服するしかないですよ(笑)。読みにくいものを読みやすく表現する。私は可能だと思ってます。描く方が慣れていないだけです。中国でも絵がうまいマンガ家がいますが、普通に横書きで描いていますよ。でも絵柄は日本とそっくり。横書きで描いても何の問題もない。単純に慣れの問題です。それを「日本の文化だから変える必要はない」とかたくなに主張する人が少なくないんです。でもそれは日本車を海外に売り出すときに欧米から「ハンドルが逆で運転しづらい」と言われているのに、「日本の文化だから右ハンドルで運転してね」と言っているようなものですよ。そんな状態で売れるわけがない。ところが「そんなことはない」と言う人もいるわけですよ。縦書きのままでフキダシのセリフだけ英語にしてもみんな読んでいる、と。アメリカ国内にいる日本マンガのファンの人数は、20年前でも今でも25万人くらい。変わってない。つまり20年前に日本のアニメやマンガのファンになった人が、40歳や50歳になっても同じアニメやマンガを見ている。でもつまりそれは、作品の新規開拓ができていないということで、この問題にはどこかで業界全体が一丸となって取り組まないと。今では韓国と中国のマンガ家のレベルがどんどん上がっている。ストーリーや企画は未熟だけど、作画レベルでは日本のマンガ家のトップクラスと遜色ない。このままだったら10~20年後に、韓国人や中国人で日本風のマンガを描く人が横書きでマンガを描いて欧米で売れるということが絶対に起こるんです。そのとき縦書きにこだわる日本人作家は取り残される。時間の問題ですよ。

中編に続きます(3週連続更新予定)

構成:松井祐輔
(2014年3月1日、3331 Arts Chiyoda会議室にて)


PROFILEプロフィール (50音順)

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/

竹熊健太郎(たけくま・けんたろう)

1960年生まれ、東京都出身。漫画原作者、ライター、編集者。1989年に『ビッグコミックスピリッツ』に相原コージとの共著『サルでも描けるまんが教室』を連載して大ヒット。2010年より新人マンガ家発掘育成を目的とするWebマガジン「電脳マヴォ」を主宰。多摩美術大学非常勤講師。


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