第1回「日本でのオープン出版の実践①」
こんにちは、ドミニク・チェンといいます。
現在、私は出版業界の仕事に特に従事していませんが、1人の書き手としてはかれこれ10年以上、色々な商業誌に様々な文章を寄稿してきて、単著としては「PDFダウンロード特典付」書籍の執筆とそのダウンロードシステムの構築、日本で電子書籍を扱うほとんどの主要サービスで販売されているマイクロ電子書籍の執筆、そして一番最近では紙版とKindle版を発売している書籍を執筆してきました。これまで関わってきた共著本や編著本では紙のみの場合だけでしたが、単著本では何かしらか電子媒体が関わっています。
今回の連載にあたって、以前に「胡蝶の夢 : 生態映像メディアを巡る創造性」という論文の中で書いた、〈コミュニケーションメディアの電子化の果てには、表現の生成と摂取が限りなく連続化する〉という主張を思い出し、電子書籍時代に生きる1人の著者として、また読者として、感じたり考えたりすることを徒然と書いていきたいと思います。初回となる今回は、最初に挙げた「PDFダウンロード」に関連するオープン出版について書き始めてみたいと思います。
私はこれまでネット上で、作者が自らの作品の著作権をカスタマイズして意思表示するための仕組みである「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」(以下、CCライセンス)の運動に参加してきて、日本でNPO法人を立ち上げて普及活動に携わってきました。CCライセンスは、文章だけではなく楽曲、画像や映像など、創造的な著作物とみなされる作品全般に適用できるもので、現行の著作権法では無断の複製や改変が自動的に禁止されることに対して、作者が希望する条件と範囲での自由な複製や改変を不特定多数の人々に対してあらかじめ宣言できるシステムです。
フリーカルチャー、特にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの歴史と現在については拙著『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック〜クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社、2012年5月25日刊行)に詳しくまとめたのと、30分で読める電子書籍を扱うカドカワ・ミニッツブック・レーベルから『オープン化する創造の時代〜著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論』(カドカワ・ミニッツブック、2013年6月25日刊行)が発売されているので、興味のある読者には参照して頂ければ幸いです。
この本のケーススタディ集の中でも詳説している「オープン出版」という概念があります。オープン出版とは何かを一言でいうと、学術書から一般書籍まで、本の自由な複製と共有を読者に認める取り組み全般を指します。紙版の店頭発売と同時にデジタル版を無償公開する場合もあれば、販売から一定の期間が経過した後にデジタル版を無償公開する場合もあります。
『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』も購入者にCCライセンスの付いたPDFをダウンロードするためのコードを提供するという日本初の取り組みを行いました。最近では『チェーザレ・ボルジアを知っていますか?』(監修:惣領冬実・原基晶・橋本麻里、編集:モーニング編集部、講談社刊、2013年8月28日刊行)という、漫画『チェーザレ〜破壊の創造者』(惣領冬実・著、原基晶・監修)の副読本が刊行された時に、同じ機能を持つシステムを提供しました。
この「紙版の書籍の購入者には無償デジタル版を提供」という取り組みを『フリーカルチャー〜』で行おうとした背景には、せっかくCCライセンスについて書いた本なので、本書自体を「CCライセンスが付された書籍」の一つの模範事例にしたいという考えがありました。オープンライセンスについて書いた本がフルコピーライトで販売されていたら、説得力がないと考えたからです。幸いなことに出版社の理解と同意を得ることができ、実施に至ることができました。
次回は、CCライセンスが付いた書籍『フリーカルチャー〜』の刊行まで、具体的にどのような考えとプロセスで進めていったのかということを、著者、読者、出版社それぞれの立場と絡めて紹介したいと思います。
[読むことは書くこと Reading is Writing:第1回 了]
読むことは書くこと Reading is Writing:第1回「日本でのオープン出版の実践①」 by ドミニク・チェン is licensed under a Creative Commons 表示 2.1 日本 License.
COMMENTSこの記事に対するコメント