第1回「マンガとの出会いが変わる」
自分のカラーにあうマンガ雑誌を買って隙間時間に読む。その中で気に入った作品があれば単行本を書店で買う――日本を代表する文化の一つとなったマンガはこれまで雑誌を通じて読者のもとに届けられていた。だがこのルートが変わりつつある。娯楽が多様化したことで、コミックス誌の力は相対的に低迷。代わりにウェブ上で新作マンガが発表され、お薦め作品は同じような嗜好の読者の感想から知る。このうねりの中でコンテンツと編集力を持つ出版社の関与が一段と求められている。
まずはデータから確認したい。出版科学研究所などによるとマンガ雑誌(コミック誌)の販売金額のピークは1996年でその後は下落傾向が続いている。従来、マンガ雑誌を読んでいた隙間時間にゲームやネット上のコンテンツなどほかの娯楽が入り込んできたことで、「自分にあうかどうかわからない」作品を雑誌から探して読む余裕がなくなった。
多くの人が雑誌から離れた結果、マンガとの出会いは単行本が中心になった。事実、単行本(コミックス)の販売金額は2004年に雑誌のそれを追い抜き、2010年までは横ばい圏で推移。出版社も「マンガ雑誌の赤字を単行本で回収する」モデルで雑誌を存続させている所も多い。
だがこのモデルも限界に来ている。2011年以降はそのコミックスの販売金額も落ち込み始めた。単行本の発行点数も増加していることを考えると、発行部数は「ONE PIECE」など一部の超人気作品に集中している。
代わりに作品と読者の出会いの場になろうとしているのがウェブだ。
各出版社は雑誌ごとにウェブサイトを立ち上げ、新作を定期的に発表している。例えばスクウェア・エニックスの「ガンガンONLINE」は「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」などを連載し、単行本でも堅調な売れ行きを見せている。「となりのヤングジャンプ」はウェブ連載で人気のあった「ワンパンマン」を取り込んだ。
それではマンガ雑誌の役割は本当に終わったのだろうか。そうではない。そもそも数多くの新刊が発売されるマンガ市場で、玉石混淆の中から「自分にあうマンガ」を選ぶのは困難。そのためPOPなどでおすすめの新刊を紹介する書店や「このマンガがすごい!」などのランキング、「読書メーター」や「NAVERまとめ」などに書かれるウェブ上の個人の感想が力を持ってきている。少しでも差別化をするため、表紙のデザインに工夫を凝らす作品も増え、表紙だけを見て買うかどうかを決める「ジャケ買い」という行動も一部ででてきた。
そもそも私が「マンガナイト」という活動を始めたのも、リアルな場所でみながマンガについて話し、薦めあう場所を作りたかったからだ。
「おもしろいマンガを知りたい」「自分に合うマンガは?」と疑問を持つ読者と作品の出会いの場が求められている今こそ、出版社の出番ではないだろうか。多くのコンテンツと編集能力を持つ出版社こそ、深みのある出会いの場を作り出せると思う。
出版社が関与するとき、その出会いの場はどうなるのだろうか。そこはいわば聖地のようになると考えられる。
オンライン上のコミュニケーションで人と人の心理的な距離がすぐに近くなり、同じ作品や雑誌を好きな者どうしが繋がることができる時代だからこそ、あえてわざわざ出向き、情報を手にしたり、その世界を満喫したりすることになる。
そこでは単行本やグッズを買うだけではなく、読者同士が交流することになるだろう。つまり、読者にとってはオンライン上のコミュニケーションが日常で、オフラインのリアルな場のコミュニケーションは非日常のお祭りのようなものになるのだ。お祭りのような感覚で参加するリアルの場で、読者と作品だけでなく読者同士も自然に出会うことができる。
この大きなうねりは、マンガ単体で成立するものでない。読者が求めているのは、その世界そのものを仲間と共有し、体感すること。
そこで出版社に求められているのは、従来のマンガ雑誌というものの概念の拡大なのだ。
その媒体は「マンガ」と「雑誌」の範疇に収まらず、意味と文脈を含んだレーベルとして存在する必要があるということだ。そのような状況で、マンガ編集者が編集するものは雑誌や単行本だけではない。オンライン・オフラインを横断的に行き来して、レーベルや作品に関わるあらゆるものを「編集」することで、読者が求めている世界を生み出すことが必要である。
[マンガは拡張する:第1回 了]
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