INTERVIEW

これからの編集者

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第7回:中川淳一郎(ネット編集者)3/5|インタビュー連載「これからの編集者」(ネット編集者)

「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第7回は、「NEWSポストセブン」など数々のネットニュースの編集を手がける編集者、中川淳一郎さんです。

※下記からの続きです。
第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 1/5
第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 2/5

仕事は全部が偶然にはじまる

――なるほど。そういう形始まったニュースサイトが、結果的にものすごくうまくいったわけじゃないですか。そこからいろんなネットニュースを手がけるようになるのは、他のところから話が来るようになったということでしょうか。

中川:そうですね、それだけです。ネットニュースをやっている人って、あまり世に出る人がいないんですよ。理由はみんな正社員だから。とくに当時、オレみたいなフリーの編集者はいなかったんです。他の人は「なんとか社のなになにさん」になっちゃうんですね。でもオレは「ネットニュース編集者の中川さん」だから。そういった意味で、取材とかがこっちに全部来るわけですね。「なんとか社のなになにさん」だと、「広報通してください」とか、いろいろ面倒くさいんですよ。オレの場合、取材依頼の電話がいきなり携帯に来る。たぶんそのお手軽さが仕事を呼んだんじゃないかと思うんですね。そうしてメディアに取り上げていただき、それを見た人から、あいつできんじゃねえかっていう話が来るとかね。あとは、あのさ、内沼さんも一橋だよね。

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中川淳一郎さん

――そうです。あ、それもメルマガに書かれてましたよね。小学館の人が一橋の人だったのがきっかけで、「NEWSポストセブン」が始まったんでしたっけ。

中川:そうなんです。酒井くんって人が週刊ポストにいて、そいつもプロレス研究会の後輩なんです。「のりピーマン」ってリングネームで、酒井って名字だったってだけで。そいつは元々武藤敬司に似ていて「近藤武藤(こんどうむとう)」っていうリング名だったんですが、恥ずかしいからって言って、自分が会長になったときに「のりピーマン」に変わったんだけども。

――同じくらい恥ずかしい気もするんですが……(笑)。

中川:そいつが「中川さんが最近ネットニュースとかやってるらしい」って聞いて、うちの会社もネットとかいろいろやりたいから1回講演に呼ぶか、みたいな話なんです。それがきっかけ。仕事は全部が偶然なんです。

――雑誌がネットニュースになるっていうのは、これが初めての事例ですよね?

中川:いや、それはね、実は嶋浩一郎さんが元々やってたんです。オレもかかわってるんだけど、2009年から某出版社でやってるんですよ。ただ、自前でサイト持たずに配信だけするって方針だったんです。やっぱりまだ当時は、会社にネットに対するアレルギーがあるからね。編集部のメンツとかを考えると、積極的にできなかった。ただやっぱり、たとえばmixiニュースとかに配信されて、そこではすごく読まれてたんですよ。女性も多いし。でもそれって、mixiって中の閉じられた話ですよね、だからそこまで話題になってなかった。そのあと、Yahoo!でも配信をしているんですけど、雑誌の記事をネットに流すっていうのは、嶋さんの発案。で、それを翌年に小学館に転化したんです。

――そこから小学館の「NEWSポストセブン」は、かなりのメディアになりましたよね。何か、コツみたいなものはあるのでしょうか。

中川:元の記事の質がいいからでしょ。それだけ。オレたちは校閲した状態でデータもらって、切り出し方だけネット向けに考えて、あとはコピペするだけですから。強いですよね。

――あれって雑誌自体の部数にも影響するんですか? ニュースがきっかけで『週刊ポスト』買うようになりました、って人はいないんですかね。

中川:現時点では、たぶんあんまりいないと思います。けれど、そうあってほしいと思ってるんですよ。だから記事の最後に「※週刊ポスト○月○日号」って書いているわけですよね。けれど、その記事が2chとかにあがりまくるわけじゃないですか。その時点ではもう、雑誌と関連づけて見ている人はあんまりいないとは思います。

Twitterで暴言を吐く理由

――少し話は変わるんですけど、さきほどの「Relife」のインタビューで中川さんは、実はいろいろ計算している、と話されています。Twitterで暴言を吐いたりするのも、大丈夫だってわかっている範囲でやっていると。そこでお聞きしたいと思ったのが、大丈夫だとして、そこで暴言を吐くメリットって何なんですかね?

中川:正直なキャラでいたいということでしょうか。だいたい人間って嬉しいことより、むかついてることの方が多いと思うんですよ。たとえば、駅を歩いていて、人いっぱいいるでしょ?こいつら全員死ねばさっさと歩けんのにとか思うじゃないですか。行きたい店に行ったら行列ができてて、なんだよこいつら全員死んでくれればいいのにって思うわけですよ。でも、それって本当に死んだ場合は後味が悪いんです。岩手県の「ブログ炎上議員」こと小泉みつお議員みたいにね。彼が炎上している時にTwitterで「死ね」って言っちゃったやつが大勢いるんです。その後彼らは「議員辞職程度でよかった」なんて書いているけど、後味の悪さは残ったでしょう。オレは「うんこ食え」でしょ? これは無害なんですよ。本当に食うバカはいないけど、むかついていることは理解できる。オレは暴言してるって言っても、自制は働かせてるんですよね。

あとメリットとしては、会ってみると意外にいい人だった、とみんなが言う(笑)。これがわりといいんですよ。ちゃんとした人なんですね、って。当たり前の話なんですよ、ちゃんとした人じゃないと仕事は来ないですよ。現実世界でこのTwitterのキャラだったら、絶対仕事なんか来ない。

 

昔ブログで批判したことがあるんだけど、iPhone4が出るときに、表参道softbankショップに徹夜で並ぶ人がいたわけ。オレとしてはね、一番早く買ってテレビのニュースに出て、それを早く自慢したい、自己顕示欲丸出しのバカだとしか思えないわけですよ。それを「みなさん、がんばってください」「寒いからお気をつけて」とかTwitterに書いている人がいたけど、これってつまんねーなと思うわけですよ。建前しか言えない。せっかくこういう発言の場があって、嘘ばっかり言ってもしょうがないと思うんです。あと、メディアの執筆やコメントの仕事を取るには、毒舌のほうがいいんですよ。意見がほしいときって、基本的には編集者が自社の見解として毒舌を吐くよりも、誰かに言わせたほうがいいですからね。そういう需要を取れるんですよ。

――なるほど。『SPA!』に中川さんがたくさん載っているのもそういうことですね。

中川:そういうことです。だから論者として生きたいのだったら、普段からネットで悪口とか、ひどくない範囲で正直に書いたほうがいい。そのほうが仕事来るよってことです。

――それって、中川さんがそう思ってtwitterでつぶやいていることと、編集の仕事が取れていることは、つまり結構つながってるってことですか。

中川:論者としてコメントや執筆する仕事にはつながっているけど、編集者としては別につながってないです。編集者としては、全部知り合いから来る仕事なんで。

――その場合、論者としてはいいかもしれませんが、たとえば知り合い経由で、大きな会社から「この人にネットニュースの編集をお願いしよう」っていう編集者の仕事の話が来たとするじゃないですか。担当者が上司にそれを報告して、上司が中川さんのTwitterを見たときに「こんなやつに頼めるか!」みたいなことは、いままでにないんですか。

中川:実は、最初のA社のニュースがそうだったんですよ。昔、屋号で「ケロジャパン」って名乗っていたのですが、当時kerojapan.comってのがあって、そこに“虚構新聞”みたいなことばっかり書いた時期があったんですね。オレのことを検索したら出てきて、嘘ばっか書いてるわけですよ。あとから直接の担当者「いや正直こんな人に頼んでいいんかとアレ見て思いました」みたいなこと言われましたよ。で、『ウェブはバカと暇人のもの』を書いたときに、これどう考えても炎上するなと思って。A社に迷惑かかるって思ったんで、閉鎖しました。Kerojapan.comに掲載していたニュースはめちゃくちゃで、一橋の職員と一緒にみんなで覆面被って「謎の暴力集団・蛇腹団が某国立大学を占拠」とか言って、一橋の事務棟の法学部研究室かなんかにイエー! とか言ってる写真を撮ってアップしてたんですよ。むちゃくちゃだったわけ。あとは、「国分寺の農業集団ゲロジャパンとケロジャパン抗争開始」とか、そんなのばっかやってたんです。

――なるほど。それ以降、Twitterとかでは、そういうことはないってことですか。

中川:それ以降はないですね。たぶん、もはや「中川さんは意外にまともな人」っていうのが、もう広まってるんだと思うんですよ。Twitterは信じないほうがいいよみたいな(笑)。まあ、そこまで行くのには時間がかかっているので、大変ですけどね。ほどほどに自制を働かせてやっていくのがいいと思います。

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「第7回:中川淳一郎(ネット編集者) 4/5」 に続く(2013/07/11公開)

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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。

編集構成: 内沼晋太郎
編集協力: 片山菜緒子


PROFILEプロフィール (50音順)

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

1997年 博報堂入社。コーポレートコミュニケーション局に配属。2001年に退社後『TV Bros.』編集者を経て、2006年からネットニュース編集者。インターネット論も行う。著書は「ウェブはバカと暇人のもの」(光文社新書)。