COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2016年6月「電子コミック11円セールで売上3億円」など

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

◇ ◇ ◇

【2016年5月24日】 高岡市立図書館の「寄贈のお願い」などに対するクレーム。これ、ただ単に広く寄贈を求めているわけではなく、「予約の多い本です」と具体的にタイトル・著者名を挙げて「譲ってください」と呼びかけていたのです。Internet Archiveには2013年からログが残っており、ずっと新刊の寄贈を求め続けている履歴が確認できます。J-CASTの取材によると高岡市立図書館にハードカバーの新刊を寄贈する人はこれまでいなかったそうで、まったく意味がなかった上に作家の悪感情を煽る結果に陥っていたことになります。なお、万城目学さんの呼びかけによって騒ぎが大きくなったためか、現在は当たり障りのない呼びかけ方に変わっています。

高岡市立図書館のウェブサイト「寄贈のお願い」より(スクリーンショット/6月23日時点)

高岡市立図書館のウェブサイト「寄贈のお願い」より(スクリーンショット/6月23日時点)

【2016年5月27日】 まず、3億円というのは作家側にとっての売上(=ロイヤリティ)なので、3億円÷11円(≓約2727万部)ではありません。そして、書店へ卸す側としては、納品後に複製コストが発生しない(限界費用がゼロ)ことと、販売価格11円でもロイヤリティ計算は「率」なので安売りによって赤字になることは絶対にありません。また、売上がここまで巨額になった理由は、佐藤秀峰さんの「電書バト」公式セールが楽天Koboだけで行われKindleストアが勝手にプライスマッチングし、ロイヤリティが希望小売価格から計算された結果、逆ザヤが発生したということが予想されます。Amazonとしては大赤字のはずですが、これは基本戦略「エブリデーロープライス」に沿って行われていること。短期的に損失が発生したとしても、ユーザーに「Kindleストアで買えばいつでも安い!」と思ってもらえる効果の方が大きい、と判断しているのでしょう。体力がある巨大企業じゃないと採れない戦略です。ただ、この手法を真似する出版社が増えてきたとき、Amazonはどう出るでしょうか?

漫画onウェブ「電書バトNEWS」(2016年5月25日)より(スクリーンショット)

漫画onウェブ「電書バトNEWS」(2016年5月25日)より(スクリーンショット)

【2016年5月27日】 出版社が取次を経由せずAmazonと直接取引する「e託」の説明会についての記事。これはAmazonが「巧妙」というよりも、ビジネス的には当然のことを言っているだけ、という気がします。Amazonの立場としては、取次の弱点を突くのは当たり前の戦術です。取次は、自身の弱点を解消する努力をすればいいわけで。それが健全な競争というものです。

Amazon.co.jp「e託販売サービス」紹介ページより(スクリーンショット)

Amazon.co.jp「e託販売サービス」紹介ページより(スクリーンショット)

【2016年5月27日】 「妖怪ウォッチ」関連の反動が大きかったとのこと。そこで、日本雑誌協会のウェブサイトで「コロコロコミック」の印刷証明付き発行部数を調べて推移グラフにしてみました。「妖怪ウォッチ」のニンテンドー3DS用ゲームが出たのが2013年7月11日。その時点では56万部まで減ってたのが、「妖怪ウォッチ」人気により急激に部数が増え、1年でほぼ倍増に。ところが2014年10月~12月をピークとして、また急激に部数を減らしています。ブームって怖いですね……。

小学館『コロコロコミック』の2013年以降の発行部数推移(グラフ作成:筆者)

小学館『コロコロコミック』の2013年以降の発行部数推移(グラフ作成:筆者)

【2016年6月2日】 コンビニの雑誌返品率が51.2%と高く、記者会見した日販の加藤哲朗専務が「この1年でコンビニで雑誌が売れなくなった」と話したとのこと。雑誌はこの20年ほどずっと下落傾向だったはずなのに、わざわざ「この1年で」と言うからには、なにか特別な事象がある(と言いたい)のではないかと感じました。もしかして「dマガジン」?

【2016年6月2日】 Googleアラートにキーワード「電子書籍」などを登録して情報収集していると、クラウドソーシングのサイトに「Amazonで感想を書いてください」「Kindleで特定の本を購入してください」などといった依頼が頻繁に上がっていることに気づきます。こういった有償レビューの依頼やランキング操作を目的とした購入依頼をしている業者や仲介業者に対し、日本でも近いうちに訴訟が起きるのではないでしょうか。滅びろ!

【2016年6月9日】 TSUTAYA×BookLive!の「Airbook」の実績情報。紙の雑誌・本を購入すると、電子版も貰えるというサービスです。利用ユーザー数は非公開ですが、利用者の来店回数が2倍、購入冊数が1.6倍になっているとのこと。こうやってTSUTAYA BOOKの中の人が出てきて実績をアピールするようになったということは、軌道に乗ってきたのでしょうね。すばらしい。

TSUTAYAのウェブサイトより(スクリーンショット)

TSUTAYAのウェブサイトより(スクリーンショット)

【2016年6月9日】 公開買い付け(TOB)で49%を取得し、子会社化するとのこと。現在イーブックイニシアティブジャパンの筆頭株主はクックパッドですが、創業者が「食とは関係のない事業の多角化を進めている」と言いだし内紛が勃発したため動向が気になっていました。ただ、イーブックイニシアティブジャパンからヤフーに資本業務提携の打診があったのは昨年12月中旬とのこと。クックパッドの“お家騒動”が始まったのは今年の1月なので、直接的には関係なさそうです。男性ユーザーが多い「eBookJapan」と、女性ユーザーが多い「Yahoo!ブックストア」は、シナジー効果が大きそう。

【2016年6月16日】 「電子書籍黒字化」について、他の出版社の方々が何人も「ほんとに?」と首を傾げていたのが印象的でした。そこで、子会社であるブックビヨンドのウェブサイトを確認してみたら、「楽天Kobo限定」のセールが複数目につきました。もしかしてと思い過去のリリースをよく見たら、「主要電子書籍ストア」対象セールなのにKindleストアが入っていないという。これは恐らく、佐藤秀峰さんの「電書バト」と同じように、Amazonのプライスマッチングによる勝手セールを狙ったものと思われます。うーん。

【2016年6月16日】 日本のセール情報サイトは大丈夫? という声を複数見かけましたが、ここへ至るまでに「メール上での書籍アフィリエイトリンクを禁止」→「Amazonが買収したGoodreadsでメルマガを開始」という流れがあります。いまのところ日本で「Goodreads」は稼働していないため、ひとまず影響はないものと思われます。他方、Amazonはアフィリエイターによって自社サイトの発信力が相対的に落ちるのを嫌っている、という解説もあります。アフィリエイターはAmazonにとってパートナーであるのと同時に、ライバルでもあるのです。2年前に段階制料率を廃止し、いまはまだデジタル商品を優遇していますが、その方針がいつ変わるかはわかりません。つまりAmazonは、アフィリエイターの生殺与奪権を握っているのです。

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 6月もいろいろ興味深い動きがありました。さて7月はどんなことが起こるでしょうか。
 ではまた来月(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年6月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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