鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
【2016年4月26日】 1941年以来続いていた「編集局」の名称をなくし、事業局制に組織改編した講談社の現在の状況について。ノンフィクション系のコンテンツを扱う、第一事業戦略部長 瀬尾傑さんへのインタビューです。紙かWebかというメディアの壁と、編集・広告・販売という旧事業部の垣根を超える、「出版の再定義」を行ったという話が非常に印象的。会員登録(無料)が必要な2ページ以降も、「マネタイズなくしてジャーナリズムの存続はない」「読者の数は、そんなに多くなくてもいい」など、刺激的な話が盛りだくさんです。
【2016年4月26日】 漫画家・赤松健さんが会長を務める、Jコミックテラス「マンガ図書館Z」の新しい動き。ソフトバンクグループのSBイノベンチャーが提供していたiOS向け無料マンガアプリ「ハートコミックス」が、「マンガ図書館Z」用にアップグレード(Android版は新規リリース)されました。「ハートコミックス」は昨年12月1日にJコミックテラスが運営を引き継ぎ、リソースやノウハウを融合していたそうです。当時、プレスリリースに気がついていませんでした……不覚。なお、以前からあった「絶版マンガ図書館」のアプリは、これを期にサービス終了しています。
【2016年4月28日】 いきなり9大学で採用というのが驚き。電子書店「VarsityWave eBooks」は2013年5月のオープンで、開発は大日本印刷株式会社、運営は大学生協事業センターでした。ビューワアプリ「VarsityWave eBooks」はサイトを見る限り2系統あり、一般書と専門書で別のものを利用する形になっています。恐らく専門書側がシャープです。再建に向け、法人向け電子書籍ソリューション事業も頑張ってますね。
【2016年5月6日】 定額制サービスの現状を知る上で有益なリサーチ。「定額制電子書籍読み放題サービス」利用者は、有効回答1725人のうち376人で15.3%。1位のdマガジンは納得貫禄。2位のコミックシーモアは、昨年の国際電子出版EXPOで「2014年4月からの1年間で読み放題の売上が1.5倍になった」と言っていました(動画)ので、フィーチャーフォン時代からの会員資産だけが強さの要因ではない、ということになります。3位のYahoo!ブックストアは、昨年の国際電子出版EXPO開催日に読み放題を始めたばかり(動画)でまだ1年経っていないのですが、もうこのポジションというのが凄い。4位のブックパスは、ずっと以前から読み放題をやっていますが、通信キャリアによって利用者が限定されてしまう点が辛い、ということになるのでしょう。
【2016年5月6日】 思わず「大物キタ━(゚∀゚)━!」と叫んでしまいました。「忘却探偵シリーズ」など最近の作品は電子化されていたので、そろそろだとは思っていましたが、実感としては「やっと」です。公式サイトに西尾維新さん本人のメッセージで「電子化不可能と言われていた西尾維新の小説に、このたび、デジタルプロジェクトが発足しました」とあるのに思わず笑ってしまいました。最近は、村上春樹さんの作品も徐々に電子化されていますから、「売っていないから買えない」という問題は、以前に比べればだいぶ解消されてきたと言えるでしょう。
【2016年5月11日】 標準規格の策定団体が、統合へ向けて動き出しました。W3Cはウェブ、IDPFは電子書籍。「雑誌」と「書籍」が一緒になる、という感覚で捉えればいいのでしょうか。どちらも、営利企業が独自規格によって市場を独占しそうになっていたのを、誰でも利用できるオープンな規格によって乗り越えてきました。この2つの団体が一緒になることで、今後なにが起こるかが楽しみです。例えば、ウェブブラウザへのEPUBビューワ組み込みが、標準仕様として勧告されるかも? そうなると、いまブラウザビューワを商売にしているところはどうなる? 注視しておきたい動きです。
【2016年5月13日】 「ビルの所有者側と賃料交渉がまとまらなかった」とのこと。6フロアある売り場のうち、6階のみ洋書専門店として残るそうです。東洋経済によると、出店初年度だけは売上80億円で黒字だったけど、それ以降は毎年巨額の赤字を計上、近年は売上30億円まで縮小していたそうです。しかも途中解約できない契約だったため、20年間の契約満了まで待つしかなかったとか。こういった事例が起こると他の大型書店の先行きも心配になりますが、「書店としては場所が悪かったのでここは例外」という意見も目にしました。バスタ新宿が開業したので南口側には人が集まりやすくなると思うのですが、それでも難しいという判断なのでしょう。
【2016年5月14日】 「1冊からでもアマゾンが希少本を印刷する」とあるので、ローソンの店舗で「Amazon POD」の書籍が注文できるようになったのかと思ったのですが、そうではありません。普通に大量印刷・製本して、店舗に在庫として並べる形。「オンデマンドってどういう意味だっけ?」と疑問に思ってしまいました。「エスプレッソブックマシン」のようなその場で書籍の印刷製本ができる機材が、コンビニ店舗に置かれるようになると革命的なんですけどね。将来的には、複合機の機能のひとつとして提供されるようになると思うのですが。
【2016年5月16日】 検索用画面(日本ユニシス)とビューワ(ボイジャー)の両方が、PC・タブレットともに音声読み上げに対応。昨年11月の図書館総合展で参考出展だったのが、検証実験の段階に入り、夏から本格サービスインです。公共図書館は障害者差別解消法で合理的配慮が義務付けられているため、この対応によって電子図書館サービスの普及が促進されそうです。
【2016年5月23日】 決算資料によると、社名変更記念の「ニコニコカドカワ祭り」が大きく売上に貢献しているそうです。「めちゃコミック」のインフォコムも決算資料で電子書籍事業の好調ぶりをアピールしており、電子出版市場の周辺は明るいニュースが多い印象です。もうそろそろ「電子書籍でどこが儲かっているかわからない」という意見を目にすることはなくなる、かな?
5月もいろいろ興味深い動きがありました。さて6月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月(=゚ω゚)ノ
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年5月 了]
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