COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2016年2月「中堅取次の太洋社が自主廃業へ」など

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

◇ ◇ ◇

【2016年1月25日】 アメリカの話ですがピックアップ。Amazonによる、リアル店舗で電子書籍を販売する試み。数年前、まったく同じような仕組みが日本で登場したときには「店頭で買う電子書籍という矛盾!」などと強く批判されていたのを思い出します。「ジャパゾン」で検索すると、当時どれだけ辛辣なことを言われていたのかがわかります。なぜAmazonが同じようなことをやっても批判されないのか、ちょっと不思議ですね。舶来嗜好?

【2016年1月28日】 インプレスR&DのNextPublishingが、ついに伝統的出版流通にも対応です。まず電子版とオンデマンド印刷版を出し、反響が良い本だけを従来のやり方で出版するという、まさに「次の出版」の名にふさわしい良い取り組みだと思います。現在「書籍」の返本率は40%を超えており、それが出版危機を象徴しているかのような意見も散見されるのですが、過去一番出版市場が大きかった1997年前後も「書籍」の返本率は40%を超えていた事実を忘れてはならないでしょう。NextPublishingは、返本リスクを劇的に減らす可能性のある取り組みであり、大きな可能性を感じます。なお、「雑誌」の返本率は上昇し続けているため、「雑誌」が危機的な状況であることは間違いありません。

インプレスR&Dによるプレスリリースより(スクリーンショット)

インプレスR&Dによるプレスリリースより(スクリーンショット)

【2016年2月5日】 太洋社が危ないのではという噂は以前からありましたが、ついに。昨年の栗田出版販売は民事再生でしたが、今回は自主廃業ということで、取引出版社はひとまず安堵している様子。対照的に、買掛金の回収対象となる帳合書店側の影響はかなり大きいようで、すでにいくつもの書店が閉店案内をしています。

大洋社ウェブサイト トップページ(スクリーンショット)

大洋社ウェブサイト トップページ(スクリーンショット)

【2016年2月8日】 大きな改善。固定レイアウトの電子雑誌は、やはり大きい画面の方が読みやすいです。残念ながら「記事から探す」はまだ非対応ですが。なお、総務省の「平成27年版 情報通信白書(PDF)」によれば、世帯普及率はパソコン78.0%、スマートフォン64.2%と、実はまだパソコンの方が上です。

【2016年2月10日】 出版科学研究所の2015年出版物発行・販売概況と、電子出版市場規模の推計発表を読み解く記事。「深刻なのは雑誌(コミックスを除く)」であり、コミックスと電子出版を含めた「書籍」はむしろ上昇傾向なので、「出版不況」ではなく「雑低書高」への変化だ、という話です。次は、出版点数の増加傾向(=1点あたりの売上は減っている可能性大)と、電子出版は過去の出版物もすべて含めた数字(=新刊が厳しい可能性大)である点を掘り下げていただきたいところ。

紙書籍・紙雑誌の売上推移(CNETより/スクリーンショット)

紙書籍・紙雑誌の売上推移(CNETより/スクリーンショット)

【2016年2月12日】 こちらもアメリカの話ですがピックアップ。高裁は既に「フェアユース」だという判断を下しており、残るは最高裁のみ。Authors GuildがWSJに「グーグルはいかに作家から収奪しているか」という意見記事を寄稿したり、ビジネス雑誌Fortuneがそれを痛烈に批判したり。Authors Guildの「経歴15年以上の作家の年収は67%減少している」という指摘はただの相関関係で、Googleブックスとの因果関係を説明できていないため、説得力に欠けるように見えます。さてどうなるか。

【2016年2月15日】 孤児著作物の利活用に関して、さらなる緩和措置。過去に誰かが権利者を探し、「相当な努力」をしても見つけられず裁定を受けた著作物であれば、第三者が利活用する場合の要件が低くなるという話です。実は「国立国会図書館デジタルコレクション」には、国立国会図書館が裁定を受けて公開している著作物がかなり存在しているので、その利活用がラクになったというのは大きいです。Orphan Works: the Next Frontier !

【2016年2月17日】 新潮社が主張している貸し出し猶予の根拠には矛盾があると、図書館側が根拠を示して反発しています。長野県塩尻市と大阪府堺市で調査をしたところ、年間1回でも図書館で本を借りた市民がそれぞれ17%・11%と、大半の市民は図書館を利用していない実態がわかったとのこと。つまり「図書館のせいで本が売れてないという主張は根拠が薄い」という反論です。図書館が利用されていない実態は、それはそれで別の問題をはらんでいるような気もしますが。

【2016年2月22日】 記事が高速表示される「Instant Articles」が、以前発表のあった新聞社等だけではなく、すべての媒体社に解放されるそうです。その「すべての媒体社」が、どこまでを含むのかが非常に気になります。もし個人でも自由に参入できるとなると、例えば「Yahoo!個人ニュース」や「note」など、いろんなところが競合になるので強いインパクトがありそうです。

「Instant Article」紹介ページより(スクリーンショット)

Instant Article」紹介ページより(スクリーンショット)

【2016年2月23日】 電通が毎年発表している「日本の広告費」。出版業界に関わる数字としては、雑誌広告費が2443億円(前年比2.3%減)、インターネット広告媒体費が9194億円(同11.5%増)。インターネット広告媒体費は2016年も同じ成長率なら、ついに1兆円を超えることになります。

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 2月もいろいろ興味深い動きがありました。さて3月はどんなことが起こるでしょうか。
 ではまた来月(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年2月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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