INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編+]

北本かおり×ドミニク・チェン×山内康裕:二次創作とライセンス
「非親告罪化には、著者の『許可したいです』という意思を発露する手段が奪われていく感じがします。」

マンガは拡張する対話編プラス_2

マンガナイト代表・山内康裕さんが、業界の内外からマンガを盛り上げる第一線の人々と議論を展開する鼎談シリーズ「マンガは拡張する[対話編+]」。
今回のテーマは「二次創作とライセンス」。講談社『モーニング』の副編集長と国際ライツ事業部副部長を兼務し、「チーズスイートホーム」や「チェーザレ 〜破壊の創造者〜」など国境を超えて愛される担当作を持つ北本かおりさんと、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスなどを通して新時代の創作活動について思考し続ける情報学研究者のドミニク・チェンさんのお二人とともに、熱いトークを繰り広げます。
 
●連載「マンガは拡張する[対話編]」バックナンバー(全11回)はこちら

【以下からの続きです】
前編:「ただコンテンツを眺めるだけじゃなく、自由に使うことによって文化が成長する。」

[中編] 

チーのCM出演は海賊版のステッカーがきっかけ

山内:国際ライツ事業部へ配属されたきっかけは何だったのですか。

北本:2013〜2014年にかけて会社の海外研修制度というものに参加しまして、ヨーロッパに研修に行きました。フランスのGlénat(グレナ)社とPIKA(ピカ)社、イタリアのStar Comics社という、日本のマンガ出版では大手の出版社に、インターンとしてトータルで9か月くらいお世話になりました。
 ヨーロッパでは絵本は子どもたちにとって大事なプレゼントで、子どもたちも自分の本をもらえるのをすごく喜ぶんです。児童書のブックフェアにも、学校を休みにして先生が引率してみんなでやってくる。お小遣いをもらって、めいめいが好きな本を買うイベントなんです。
 そんな環境の中で、私の担当していた「チーズスイートホーム」が現地の子どもたちに愛されていることがわかった。そこで、現地の出版社と協力してスイスやフランス・パリ郊外のブックフェアなどに著者を招いてのサイン会を行ったりしました。子ども向けの作品なので、ファンも、ご両親に連れてこられた小学生やもっと小さい子たちが中心で。現地の出版社の人たちがどういうふうにイベントの企画・運営をしているのかを、一緒に働かせてもらいながら勉強してきました。

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 で、研修が終わって戻ってきて、国際ライツ事業部と編集部との兼務になりました。おそらく海外に行ったからだと思います(笑)。
 国際ライツ事業部での一番最初の仕事が、チーの海外広告使用のライセンス契約でした。たまたまApple社から「TVCMにチーのキャラクターを使いたい」と電話がかかってきたんです。その他は韓国地域へのライセンス営業回りなどを行っていました。
 チーにAppleのTVCMのオファーが来たそもそものきっかけというのが、アメリカで出回っていた海賊版のステッカーなんですよ。チーの海賊版は全世界で作られていました。そのうちの一つとして、アメリカでもチーを勝手にステッカーにした人がいた。それがきっかけになり「この猫可愛いね」「これ誰が描いたの」ということになって、問い合わせが来たんです。もし「違法コピーが出てます」と連絡が来て、そのときすぐに「違法なので止めさせました」と迅速に対応できていたら、かえってその後の広がりはなかった可能性がある。正規品へのオファーが来るためにどう認知を高めるか。これは日本のコンテンツが海外進出をする上でけっこう大きい問題だと思っています。もちろん、著者から管理を委託されている立場としてきちんと対応していかなくてはならないのは前提で、一方で現実としてはビジネスのスピードよりファンのつながりの方が速いという現実があります。

世界展開の鍵は、創作行為へのリスペクト

山内:最近は海外の出版社との新しい展開を企画されているそうですね。

北本:はい。ヴェルサイユ宮殿と、研修先だったフランスのGlénat社と講談社で、3社合同プロジェクトを行っています。「チェーザレ」の著者である惣領冬実さんがヴェルサイユ宮殿を舞台にしてマンガを作るんです。

ドミニク:それは面白そうですね。歴史上の人物で、ヴェルサイユというと……

山内:あの有名な……

北本:まさにあの辺りです。マリー・アントワネットとか。

ドミニク:じゃあ世界同時発売とか!

北本:そうなんです! 従来は、日本で出版されたマンガが海外に輸入されるというのが普通だったんですけど、それをぶち壊したいな、という気持ちがすごくありました。単行本を日本で作って、タイトルも決めて、それが日本で発売された後で、そっくりそのまま外国語に翻訳して出版する……ということではなくて、たとえば作家とフランスと日本の出版社が最初から一緒にどういうマンガを作るか、それぞれどういうイラストを表紙にするのがいいか、それぞれの読者を見ながら同時に企画することができたらすごく面白いよね、というところから始まっています。 
 翻訳出版ではなくて、共同製作。作家が海外の読者のことも初めから念頭に置いて描くことでどんな作品が生まれるのか、新しく、かつ文化的にも価値のある取り組みになると思いました。

山内:こういう世界展開のしかたは、業界では特殊なことなんですか?

北本:やはりこういうのは人との出会いなので、ハードルは高いと思います。今回は、同じように著者をリスペクトしてくれたり、制作にかかる苦労をわかってくれたりといった信頼感・安心感がある相手に、偶然巡り会えたからこそ実現できたことです。今回は、ヴェルサイユ宮殿も全面的にバックアップしてくれるんです。7月には惣領さんと現地に行ったのですが、美術館の学芸員がフルアテンドで、休館日の無人の宮殿を普段は公開していない部屋まですべて見せてくれ、資料のデータベースへのアクセス権を提供してくれました。
 「慣れているなぁ、フランスは」と思ったのは、彼らの「資料は提供する。口は出さない」という姿勢で……。たとえば、「これは時代的に合っているか」などの質問には答える。でも、「それをどう取捨選択し、どう創作するかは100%作家の自由」とわきまえている。それを知って、「これなら組めるな」と思いました。このクリエイティブに関するリスペクトがすごく大事だと思っています。これが信頼関係をどこまで結べるかを探る糸口になる。

ドミニク:一応私はフランス国籍なので補足すると、彼らはすごくしたたかなんですよ(笑)。

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北本:そうですね、わかります。

ドミニク:彼らとしては、歴史も外交ツールの一つですから。フランスの財が広く認知されないと英語圏に負けてしまうという危機意識と、世界各地の旧植民地の元・宗主国のプライドがあいまって、なんというか、遺伝子レベルでしたたかなんです(笑)。

北本:でもそのしたたかさって、ある程度根底にここが落としどころとわきまえている部分があると思うんですよ。そうやって生まれた創作物に対して、飛び越えて権利主張をしてくるような「はしたなさ」はないんです。
 この1年、海外営業の担当として世界中のコンテンツ業界の人とビジネスをしてきて、創作に対するリスペクトは社会文化的なものだなと感じました。国によっては「ここまでは言わないんじゃないか」という予想が簡単に外れ、裏切られる場合もある。
 例えばベルヌ条約の加盟国が増えたり、またはTPPだったり、今後コンテンツにまつわる条約レベルでもグローバルに広がっていく中で、心情的に「こういうことはしないよね」「こういうことはするかもしれない」という感覚もプレイヤー間でともにグローバルになっていくのか……今まさに、もう少し飛び込めるかどうかの瀬戸際な感じがします。

創作活動を萎縮させない土壌をつくる

山内:マンガ業界としては、TPPの合意で二次創作はどうなるかっていうのが目下気になるところですよね。

ドミニク:そうですね。先ほど少しお話しましたが、創作活動が萎縮してしまうのは絶対に良くない。実際に検察による査察が行われないにしても、その可能性が常に空中に浮遊している状態は避けたいですよね。問題意識を持った人を少しずつ増やしていかないと。やはり、世論を動かすには数は大事ですから。

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北本:同人マークを使っている人は増えていますか?

ドミニク:発案された赤松先生の「UQ HOLDER!」(講談社)の他には、弐瓶勉先生の「シドニアの騎士」(講談社)、ヨゲンメ先生の「キミと死体とボクの解答」(第2巻から/マッグガーデン)、あとはDeNA社のサービス「ハッカドール」でも採用されていますが、その後はあまり増えていないのが現状です。TPP問題のリアリティが迫ってくるにつれて、また議論が活性化するかもしれないですね。

北本:現状(※2015年9月時点)は、たとえばコミケで同人誌を売っている方やコスプレしている方にとっては「捕まるかも」という危機感はない状況ですよね。それに先んじて同人マークをつけるという意思表示の必要性を、あんまり認識されていないのかもしれません。

ドミニク:危機感はまだないですね。

北本:なので、これからですよね。もう少し危機が認識されることによって広がっていくんじゃないかと、わりと楽観視しています。

ドミニク:それはけっこう本質的な気がしています。ニーズがあって、広がっていく。そしてライセンスは通貨みたいなもので、やはり流通量がないと信頼が起こらない。量を貯めることは、どのジャンルでも必要なんですよ。

山内:マンガの場合は、キャラクター自体は他コンテンツとして使いようがあるけども、マンガはストーリーも込みでマンガじゃないですか。そこが難しいところですね。

北本:そうですよね。私自身、実際にこれまで作家さんを担当していて、その方たちの多くは同人誌を許容してきたわけですよ。みんなが楽しんでいるんだから、と。わざわざ一所懸命時間をかけてパロディを描いたり、コスプレの衣装を作ったり。それは愛されているからであり、リスペクトされているからであり、その楽しみ方は受け手の自由だという暗黙の理解、許容のもとに成立していたんです。ある程度の読者との信頼関係のもとに成り立っていたことです。非親告罪化には、著者の「それを許可したいです」という意思を発露する手段が奪われていく感じがします。

※編集部注:2015年11月時点では、TPPで求められるのは著作権侵害の「一部」非親告罪化だとし、同人誌などの二次創作物は非親告罪化の対象から除外するという方針のもと文化庁で議論を進めていくことが合意されたと報じられている(参考:http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20151104_728975.html)。

後編「海賊版を禁止して広がるのを止めてしまうのか、『いいから出しちゃえ』って進んだ人が結局最後に勝つのか。」に続きます

取材・構成・写真:石田童子
編集:後藤知佳(numabooks)
(2015年9月8日、マンガサロン『トリガー』にて)


PROFILEプロフィール (50音順)

ドミニク・チェン(Dominick Chen)

1981年、東京生まれ。フランス国籍。博士(東京大学、学際情報学)。NPO法人コモンスフィア(旧クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)理事。株式会社ディヴィデュアル共同創業者。主な著書に『電脳のレリギオ』(NTT出版、2015年)、『インターネットを生命化する〜プロクロニズムの思想と実践』(青土社、2013年)、『オープン化する創造の時代〜著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論』(カドカワ・ミニッツブック、2013年)、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック〜クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社、2012年)。 [写真:新津保建秀]

北本かおり(きたもと・かおり)

講談社に2003年に入社後、『モーニング』配属。以来マンガ編集に携わる。『モーニング』副編集長。2014年より国際ライツ事業部副部長も兼任。連載の立ち上げに携わった「チーズスイートホーム」(こなみかなた)と「チェーザレ 〜破壊の創造者〜」(惣領冬実)が大ヒット。海外研修経験を活かし、フランスとの合同プロジェクトなど、新しい取り組みに精力的に携わっている。

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了。2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、マンガに関連した施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「日本財団これも学習マンガだ!」「池袋シネマチ祭2014」等。「プレジデントネクスト」にて『仕事に効く[ビタミン]マンガ』を連載中。http://manganight.net/


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