INTERVIEW

マンガは拡張する[対話編]

樹崎聖(マンガ家/漫画元気発動計画主宰)×山内康裕:マンガは拡張する[対話編]
「そもそもが、マンガ家同士のオフ会で盛り上がって始まったことなんです。」

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マンガを取り巻く現況を俯瞰し、マンガと人々がいかにして出会うことができるか。マンガナイト代表・山内康裕さんが連載コラム「マンガは拡張する」全10回の中で描いた構想を、第一線でマンガ界を盛り上げる人々に自らぶつけていく[対話編]の8人目のゲストは、マンガ家自らマンガ業界を盛り上げる活動体「漫画元気発動計画」を主宰する樹崎聖(きさき・たかし)さん。大物マンガ家が続々とゲストに名を連ねるネットラジオの連続配信や、日本のマンガ本来の良さを活かしたモーションコミックレーベル「漫元Domix」の企画・制作など、従来のマンガ家の枠を飛び越えた多様な活動の中から見えてきたものとは?

マンガ家の視点で、もっと電子コミックの可能性を高めたい

山内康裕(以下、山内):今日はよろしくお願いします。樹崎さんはマンガ家でありながら、「漫画元気発動計画」を通じて、マンガ家をゲストにしたネットラジオや動画配信、マンガの舞台化や「漫元Domix」という名称でモーションコミックも発表しています。活動も多彩ですが、「漫画元気発動計画」が始まったきっかけはなんだったんですか。

樹崎聖(以下、樹崎):「漫画元気発動計画」の活動を始めたのは2011年からなんですが、当時はまだ出版社が電子コミックに取り組むのがすごく遅れていた、あるいはやっていてもマンガ家の収入が少ないことが多かったんです。それじゃあ誰もやろうと思わないし、電子コミックの可能性を潰してしまっていると感じて。出版社と掛け合ってみたんですがうまく進まない。そこで仲間のマンガ家と集まって、それなら自分たちで何かできないかと話をしたのがきっかけです。
 携帯電話向けの動画配信サイトだった「BeeTV」がうまくいっていると聞いて、そういうウェブ動画のコンテンツで、もっとマンガの文法を活かしたやり方を作れるんじゃないか、マンガ家の視点でもっとマンガの可能性を高めるものを作れるんじゃないか。そう考えて始めたのが「漫元Domix」でした。マンガに声優の声と音楽、アニメのエフェクトをつけて配信する作品で、視線誘導や見開き効果など、もともとあったマンガ文法の良さを意識して作りました。Domixは今では「モーションコミック」と呼ばれるようになったものの先駆けかな、と思っているんです。声優の声やクリエイターの音楽、いろんなものを「混ぜ合わせる」(Do-mix)という意味も込められていて、単に映像だけじゃなくて「なんでもあり」でいきましょう、と。そこから始まって、マンガを舞台化したり、原画展を開催してみたり。まだ何か違う進化もできれば、と思っています。

樹崎聖さん

樹崎聖さん

山内:漫画元気発動計画の現在のメンバーはどのくらいいるんですか。

樹崎:具体的なメンバーは作っていないんです。漫画元気発動計画を通じてつながっている人は何百人もいるんですが、「メンバー」と呼べるような関わりではなくて。そもそもが、マンガ家同士でオフ会で話が盛り上がって始まったことなんです。それに僕もそんなに人付き合いが得意な方じゃないですから(笑)。

山内:今までの活動を見ていると、中心にいる樹崎さん自身がマンガ家だということで、全体に安心感や推進力が生まれている気がします。マンガ家同士だからできる活動が広がっている印象です。

樹崎:今までも本当にいろんなことをやってきましたが、有名なマンガ家さんでも快く参加していただきましたし、謝礼が多く出せるわけではなかったんですが、それでもラジオやイベントに出演していただいて。

山内:「漫画元気発動計画」が「スローガン」になっているような。

樹崎:そうですね。そういうものだと思います。

マンガの新しい表現として ——モーションコミックの先駆け「Domix」

「漫元Domix」のページより(スクリーンショット)

漫元Domix」のページより(スクリーンショット)

山内:集まってくる方は新しい表現や活動に興味がある方が多いんですか。

樹崎:興味がある人は多いと思います。ただ、だからといって自分からチャレンジする人は少なくて。新しいことをやりたいという気持ちを全面に出してやって欲しいな、と。むしろ漫画元気発動計画をうまく利用する、くらいの気持ちでやってもらえると価値が出てくると思います。例えば外薗昌也先生[★1]なんかはうまく活用してくださっていて、自分の作品を関係のライブで上演してみたり、Domixでも積極的に参加していただいています。そこで僕らもお金なんかとらないですから(笑)。そうやって活用してくれるともっと楽しくなると思うし、作品の宣伝にもなったらいいと思うんです。
★1:ほかぞの・まさや。1961年生まれのマンガ家。1980年、『月刊少年チャンピオン』(秋田書店)にてデビュー。代表作に「犬神」など。

山内:外薗先生のホラーマンガは音が入ると相当怖そうですね。

樹崎:かなり怖いですよ。ホラーマンガだと韓国のWebtoons(無料マンガアプリ)の作品で「ポンチョンドンのお化け」が話題なったことがありましたよね(※編集部注:リンク先は閲覧注意)。それを見た人はみんな衝撃を受けたと思うんですよね。「韓国のマンガはここまで来てる、日本のマンガ、ヤバいぞ」、と。今振り返ると、それ以外に衝撃的な作品が続いている印象はないんですけど。
 でも外薗先生のマンガのDomix化はその衝撃をふまえて、日本のマンガのスタイルで同じことができないかと思って作っています。普通のマンガかと思っていたらいきなり動き出す、というようなしかけをやってみたかったんです。絵だけじゃないマンガの魅力を、モーションコミックを通じて極端に表現できるのかな、と思っていました。


Domix作品の2作目として発表された、外薗昌也原作「見上げる子

長寿ネットラジオ番組「漫画元気発動計画!」

山内:漫画元気発動計画は、毎回さまざまなマンガ家をゲストにしたネットラジオ「漫画元気発動計画![★2]の配信も長く続けていて、かなりのバックナンバーがありますよね。ゲストはどういう基準で選んでいるんですか。
★2:2015年3月現在、最新は第134回(ゲスト:松田松緒)。これまでの主なゲストに、横山了一(「魔王ベルフェゴール」)、新條まゆ(「快感♥フレーズ」)、坂本眞一(「孤高の人」)、細野不二彦(「Gu-Guガンモ」)、森田まさのり(「ROOKIES」)、こげどんぼ*(「デ・ジ・キャラット」)、平松伸二(「ドーベルマン刑事」)、赤松健(「魔法先生ネギま!」)など(敬称略)。

樹崎:バラエティに富んだメンバーで、という風にしか考えていないんです。漫画元気発動計画を始めるきっかけになったマンガ家同士のオフ会も、年2回開催なのに毎回150人くらいの人が来てくれるようになっていて。そういう中で、マンガ家さんとのつながりが自分の意図した以上に増えて、どんどん人を呼びやすい状況になっていったんです。それにラジオなら依頼にそこまで苦労しないんですよ。ラジオなら顔を出さないでいいから。逆にニコ生は大変でした(笑)。

山内:昔は声優さんも顔出しNGの方が多かったんですが、今では歌って踊って、アイドルのような状況ですよね。マンガ家さんも徐々に顔出しトークやパフォーマンスに積極的な人が増えてくるんじゃないかと思います。樹崎さんは最初、抵抗はなかったんですか。

樹崎:僕も全然得意じゃなかったんですけど……。これだけやっているとさすがに慣れます(笑)。

山内:始めたときから、こんなに長く続くと思っていましたか。

樹崎:ネットラジオは長く続けたいと思っていましたし、それは今もそうですね。ライフワークというか。配信元が変わったりしながら、流浪状態ですが続けています。

(左から)山内康裕さん、樹崎聖さん

(左から)山内康裕さん、樹崎聖さん

2/7「マンガ表現に『未踏の地』がほとんど残っていないからこそ。」に続きます(2015年3月12日公開)

構成:松井祐輔
(2015年2月4日、レインボーバード合同会社にて)


PROFILEプロフィール (50音順)

山内康裕(やまうち・やすひろ)

マンガナイト/レインボーバード合同会社代表。 1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科修了(MBA in accounting)。 2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成し代表を務める。 また、2010年にはマンガ関連の企画会社「レインボーバード合同会社」を設立し、“マンガ”を軸に施設・展示・販促・商品等のコンテンツプロデュース・キュレーション・プランニング業務等を提供している。 主な実績は「立川まんがぱーく」「東京ワンピースタワー」「池袋シネマチ祭2014」「日本財団これも学習マンガだ!」等。 「さいとう・たかを劇画文化財団」理事、「国際文化都市整備機構」監事も務める。共著に『『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方』(集英社)、『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』(文藝春秋)、『コルクを抜く』(ボイジャー)がある。http://manganight.net/

樹崎聖(きさき・たかし)

1965年生まれ。マンガ家。1987年、『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて「ff(フォルテシモ)」でデビュー。代表作に「交通事故鑑定人 環倫一郎」など。2011年よりマンガ業界の活性化を見据えた有志のマンガ家による活動体「漫画元気発動計画」を主宰し、多様なゲストを迎えたネットラジオの配信やモーションコミックレーベル「漫元Domix」の作品制作などを精力的に行う。その傍ら、現在は新作マンガの執筆を準備中。


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