「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第3回は、ゲームデザイナー/ライター/立命館大学教授の米光一成さんです。
※下記からの続きです。
第3回:米光一成(立命館大学教授) 1/5
第3回:米光一成(立命館大学教授) 2/5
第3回:米光一成(立命館大学教授) 3/5
バーチャル編集部をつくる
——『電書雑誌よねみつ』の編集会議をSkypeでやっているそうですが、どんな感じで進むのでしょうか。
米光: Skypeで会議している企画は2つあって、1つは「エキサイトレビュー」という平日毎日2〜3記事を上げてるWEBメディア。僕はライターとして寄稿しています。もう1つは『電書雑誌よねみつ』。これは僕が編集長で、1年間予約で購読してもらって、でもいつ出るかは分からない形式です。だいたい集まったら出すというとんでもないルーズなもの(笑)。
僕は編集長だけど、ときどき「どう?」みたいに雑談をしてただけです。最初の企画段階のときだけ、もうちょっとこうしようみたいに打ち合わせるけど、あとは特別何かするわけじゃない。全員が電子書籍のデータに直接、記事をぶちこんで、できてる過程も全員が見れる。制作過程で、それぞれが、今回のこれ面白いね―とか、ここ誤記があるよ、とか、言って、できていく。書き手全員が編集者なんです。
——それはSkypeを使うとそうなるということですか。
米光:Skypeでやると昔の編集部みたいなかんじになるのかもしれません。今、出版社の編集部に入るにはカードキーあって、編集部の人や編集部の人が呼んだ人しか入れないですよね。それが、つまらないなーって。聞いた話なんですが、昔の『ポパイ』(マガジンハウス)は、スニーカーをバッチリ履いている裏原とかにいる子を連れてきて、そういった人が編集部にたむろしていて、「原稿のスペースが空いているから記事を書いて」とか、「最近の流行ってなに?」ってわいわい言いながら、「じゃ、それ書いて」みたいな。
原稿を頼まれた子は、普段文章なんて書かない。文章が上手く書けるかよりも、流行っているもの知っているかどうかが大切だから、そういうやつがどんどん来て、そいつの友だちも来て、「お前、誰?」みたいなのが、編集部に集まっている。そこからライターや、ファッションデザイナーになったりとか。コラムニストのえのきどいちろうさんも、そういう状況を『ユリイカ2009年4月号』で“ライターの楽屋みたいな感じだ”って書いていたり。ライターになりたい人が、用もないのに編集部に行っていると付き合いが生まれて、「お前、こういうのが得意だよね?」となる。そこからライターになっていったという環境がありました。今はそれがなかなか難しいですよね。
Skypeだとそれに近いかんじがします。打ち合わせもするけれど、深夜に音楽の記事を書きたいときに誰かが「“t.A.T.u(タトゥー)”っぽい」とか言い出すと、すぐさまタトゥーのYouTubeをみんなで見る合戦になっちゃう。ほとんど編集会議ではなくて雑談になっていますけどね(笑)。
今、個人情報保護法のせいだと思うんだけど、リアルな編集部にたむろしにくい。だから逆にリアルに集まれる場をつくろうとする人が出てきている。シェアハウス、コワーキングという流れって、ダメな編集部よりよっぽど編集的だと思います。ひとつの方法として、SkypeとかFacebookのグループでバーチャル編集部を作るのはすごく面白いし、やっていけますよ。
——誰かが誰かを連れてくるようなことも起こりますか。
米光:『電書雑誌よねみつ』だと書き手がどんどん増えていった。それが面白いですね。Skypeだから気楽に増やせるし、なんか違うなと思う人は来なくなるだけ。メールでいいと言われるけれど、メールだとリアルタイム性がなくなります。タトゥー見る合戦はできません。それまでの流れは過去ログを辿れば見れますし、見なくてもいい。リアルな雑談とメールの中間くらいの気楽さもいいですし、それくらいの感覚で編集部つくれるのは面白いですね。
——グループチャットに誰と誰を呼んで、何をするかと考えている時点で、やっていることは編集ですね。
米光:話してる途中で、じゃあ何とかさんも参加してもらおうってなって、運が良ければ、即座に、もうチャットしてますからね。エキサイトレビューも、どんどん書き手が増えています。
——とはいえエキサイトレビューはビジネスとしてやっている側面もあるじゃないですか。どんどんライターが増えていくと、1人のライターの書く量や収入が減るので、オープンすぎると嫌がられるというようなことはないですか?
米光:来たけど合わないと言ってやめる人もたくさんいます。収入が減ることに関しては、記事がまだ足りてないし、アクセス数が伸びてきて予算が増えつつあります。メリット、デメリットでもあるけれど、エキサイトレビューは締め切りがないんです。
全員、週に2本書くというルールがありましたが、今は事実上崩壊していて、約50人のライターの中には幽霊ライターもいて、全然書かない人もいます。記事を1本書いて満足する人もいるし、忙しいから今は書けないという人もいます。そこで調整する編集長は大変な作業になってきていますね。だからこそ、本当に書きたいネタがあったときに書いています。
——書きたいときに、面白いと思ったことだけ書けるという状況は、管理する人は大変だけれど、結果的に面白い記事だけが上がっていって、いいメディアになるという循環ができているということですね。
米光:平日1日3、4本アップするとなっているのも、この前に崩れて、昨日は1本。今日は5本。それは単に調整が崩れただけで、でもそれでうまく回ればいいと思います。紙の本だとあり得ませんが、デジタルならある程度の幅があるので可能です。ずっと読んでいる人が「しょぼーん」と悲しくなるような極端なことにはしないけれど。
——世の中で起きている面白いことの数が一定なわけがないですもんね。
米光:たくさんの記事があると、それぞれで食い合うからアクセスが減るとか、ビジネス的にはいろいろ問題がありますが、昔よりはやりやすいです。
広め方・広めない工夫
——コンテンツの広め方についても、多くの人が悩んでいるところです。たとえばiPhoneアプリをつくっても、ランキングに入らないと目に触れる機会がないといった問題です。「新しい編集者」のコンテンツの広め方について、何か考えていることはありますか。
米光:先にコミュニティありきだと思います。場やコミュニティの話に繋がりますが、インコ好きな人がインコの何かを出すと、あっという間に広がります。そこからまたさらに拡散。彼が写真アプリやTo Doアプリをつくっても、それはほとんど広がらないし、つくる必要もありません。彼は「インコTo Do」をつくればいいわけで、そこに特価したコミュニティをもっているいから、「広めるぞ」というより勝手に広まっていくでしょう。
もしそこを戦略的にやる必要が出てきたら、それぞれのコミュニティをもっている人と一緒に組んでやればいいでしょう。もっている人は詳しいし考えをもっているので、それを無視したものをつくっても、認知されても実際には広まりません。コミュニティをもっている人に協力を仰いで何かつくればいい。そういうことは編集がしやすくなったことにも関わってきます。「広める」ということは強引にやることじゃないようになるんじゃないかな。
昔の広告は知らなくてもいい人に知らせていた側面が多くて、これからは違うでしょうね。知らせないということも価値になりえる。知りたくない情報を知らないで済む状況が、人間の欲望として出てくるはず。怖い面もありますけれどね。ここからは情報をどれだけ伝えないか、広めないかということのほうが難しくなってくるでしょう。
それこそ村上春樹が絶賛もされ、ディスられもするのは読まなくていい人が読んでいるからですよね。「知りもしないのにディスらないでよ」と思う人もいるでしょう。そうなってくると広めない工夫が今から課題になりますね。
——それは、傷つかないために知らせないとか、無駄を省くために知らせないということですか。
米光:たとえば、あまり知られていない病気のコミュニティがあるとします。同じ病気同士だから明けすけに語れる場っていうのは、無関係な人がいないからできるわけです。たとえば、それをネット記事にあげると、知らない人が、勘違いというか、同じ温度感や文脈を持たずに立腹してディスるかもしれない。それは不幸です。だから、知られない工夫が必要になる場合もある。
グループの中だけで共有しましょうという考え方はどんどん出てくると思います。適切な数だけ広めるということを制作の段階から考えてやれば、どうプロモーションするかではなくて、自然にプロモーション方法も決まってくるはず。そこからどんどん先に広がっていくと思うんです。
——特定の関心に向かっている人たちであれば集まりやすいと思うのですが、一方で、たとえば中身が小説のような創作だと、そういった仲間ありきのプロモーションというのは難しそうに感じます。
米光:小説でも連載するとか、こういうもの好きな人を集めて先に呼んでもらう方法がいいのかもしれません。もしくは、つくる人はやらなくても、そういうことをする編集がついてやってあげることはできると思います。
「第3回:米光一成(立命館大学教授) 5/5」 に続く(2013/06/14公開)
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プロフィール
インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成: 清水勝(VOYAGER)
編集協力: 宮本夏実
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