INTERVIEW

これからの編集者

これからの編集者
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員)5/5|インタビュー連載「これからの編集者」(LINE株式会社 執行役員)

「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第2回は、ライブドアブログを担当するウェブディレクターであり、代々木犬助の名義で作家としても活動されている、LINE株式会社の佐々木大輔さんです。

※下記からの続きです。
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員) 1/5
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員) 2/5
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員) 3/5
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員) 4/5

大人がやらない大事なこと

——これからの編集では、作品の良し悪しの判断だけでなく、ハンティング能力や、売り出し方やマネタイズの能力など、求められるものが多くなると思います。

佐々木:流通の仕組み、それは物を運ぶということだけじゃなく、コンテンツが世に広がるという広い意味ですけれど、それを知っているからこそできることがあります。雑誌に付録をつけることも、コンビニで商品を企画するのも、流通を知っているからこそできる企画ですよね。

いまは本を書いて売るのも、ソーシャルメディアでプロモーションするのも自分でできるぶん、仕組みに精通するチャンスがあります。そこを知っている人と、そうでない人とでは、おのずと差が出てくるでしょうね。

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佐々木大輔さん

——新卒で出版社の編集者になった人は、実は出版業界の流通をあまり知らないんです。現場で作家先生の担当になり、原稿を取りに行ってという人は、書店の掛け率や新聞広告の値段を知らなかったりしますね。

佐々木:そういう話を聞くし、それが問題だとも言われていますね。編集者の仕事は、つくるところまでだと思い込んでしまう。仕事でお世話になっているAdWordsも、自分の本を売るときに使いましたが、立場が変わると、新しい発見がありました。

仕組みに精通するという意味だと、自分のブログに1,000ページビューあったとして、AdSenseならいくら売り上げがある、Amazonのアフィリエイトならいくら、自分の本を書いたらいくら、ということも興味を持ちさえすれば自分で比較できる。

——だれでもできるところですね。

佐々木:そういうことをやる若い人がどんどん出てきたら面白いですね。ちなみに、はじめてすぐは大したお金になりません。小銭です。でもその小銭に熱中できるかどうか。大人はやらないですもんね(笑)。

——大人はたぶん、面倒くさいことをやらないんです(笑)。

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自分でメディアをつくること、続けること

佐々木:ブログでもホームページでも、ウェブマガジンでもいいのですが、自分でメディアをつくってみるのがいちばんですよ。ページビューを稼ぐって、大変なんですよね。最初はみんな、思ったより伸びないなと思うはずです。思ったより伸びると言う人を聞いたことがない(笑)。必ず予想を下回ります。

でも長く続けていくと、どこかで変わるポイントがあるんです。そこでお金の流れもわかります。会社に入っても、そういう仕事をまかされなければ経験できないことが、自分でメディアをはじめれば絶対にわかる。

——佐々木さんも登壇されたあるイベントで、いしたにまさきさんが「3年ブログ書け」と言い、佐々木さんも「5年か10年はKDPをやる」と言っていました。

佐々木:究極のコツはそれだけじゃないでしょうか。成功の確率って、途中でやめた人も母数に入れるから低くなるだけで、最後までやり続けた人だけを母数にするなら、いい確率になると思うんです。だから、一発当てようとはりきるのもいいけど、コツコツと継続していく仕組みを考えるのが一番の近道かなと。

——少し気になるのは、3年やればだれでもモノになるのかどうか。

佐々木:ちょうど今年は、日本でブログが始まって10年目なんですが、そのタイミングで「ブログ論」が流行りました。つまりブログとはなにか。これに対する自分の答えは数年前から変わっていなくて、「自己達成予言を繰り返す知的生産のツール」というものです。こうありたいという自分を予言して、その達成度を常に自分と他人に確認させる道具だ、ということです。

というのも、ブログには等身大の自分が書かれてあるわけではなく、5センチくらい背伸びした自分のことが書かれてあるんですね。こうありたいな、未来はこうなったらいいなと。すると普段からそこに向かって考えるし、動くようになります。書き続けるうちに目標と現実が合わなくなれば、どちらかを修正する。目標を変えるか、自分がそれに合わせて大きくなるか、そのどちらかです。背伸びのしすぎはダメで、ちょっとだけ、5センチくらいの背伸びを3年とか5年とか続けていくと、それが実現していったりするんです。

——同じ3年でも、無自覚にやるなら意味がない。

 

シーン全体を盛り上げたい

佐々木:2008年に、ブログの自己紹介欄に「ロールモデルは菊池寛」と書いたんです。といっても、菊池寛さんのことを詳しく知っているわけではないんですが、事業を起こして、自分の作品も書いて、なおかつ芥川賞や直木賞をつくって作家の地位向上に努めた人です。つまり、経営者でありクリエイターであり指導者であった人です。出版人としてこの3つを行ったというのが、ものすごい格好いいことだなと思って、自分もそうなりたいと思ったんです。

それから5年経って、いま僕がやっていることが、それに近づけてきたと思うんです。ライブドアブログをはじめとする事業責任者として、というのがまず第一にありますが、自分でも小説を書いて、ネットでパブリッシングするというシーン自体をもりあげようという試みもやっています。それがそれぞれ成功しているかというと、もちろんまだまだな部分が多いのですが、とにかくこの3つの鼎立というのを目指して、前には進んでいるかなと。

でも実は今年、菊池寛の看板をおろしました。もうやめたという意味ではなく、出版関係の知り合いが増えてきて、菊池寛の名前を出すことが気恥ずかしくなってきたんです。「弊社の創業者なんです」みたいなこともあるし、『真珠婦人』が好きなわけでもないし、これはちょっと誤解が生まれるぞと(笑)。

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LINE株式会社の休憩フロアでは、
同所だけのLINE限定グッズも発売されている。

——そういえば「セルフパブリッシング狂実録」はブログからEPUBに書き出したそうですね。

佐々木:本の原稿はライブドアブログで書いているんですが、便利ですよ。書いている途中で旬なネタがあれば、そのまま記事として公開できるし、同じデータをそのままEPUBにもできるし。だから自分のなかでは、ブログを書くことと電子書籍を作ることの間に、ほとんど境目がないんですよね。僕はKindleの宣伝マンじゃないので、ライブドアブログのことをしっかり紹介してくださいね(笑)。

——わかりました(笑)。今日はどうもありがとうございました。

佐々木:ありがとうございました。楽しかったです!

(了)

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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。

編集構成:清水勝(VOYAGER)
編集協力: 隅田由貴子


PROFILEプロフィール (50音順)

佐々木大輔

LINE株式会社 執行役員 1980年、岩手県生まれ。ライブドアブログを担当するウェブディレクター、編集者。編著に『セルフパブリッシング狂時代』『女たちの遠野物語』『ダイレクト文藝マガジン』など。筆名・代々木犬助の名では小説『残念な聖戦』ほか。ウェブと電子書籍をつなぐ新世代パブリッシャー。