「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第2回は、ライブドアブログを担当するウェブディレクターであり、代々木犬助の名義で作家としても活動されている、LINE株式会社の佐々木大輔さんです。
※下記からの続きです。
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員) 1/5
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員) 2/5
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員) 3/5
セルフ作家同士のマッチング
佐々木:本の売り方のアイデアでいうと、人気作家の小説の付録として、新人作家の小説がセットになっていてもいいのではないか、という話もあります。印刷代もかかりませんし。
——それはすでにある売り方なんですか。
佐々木:いまもあるかどうかわかりませんが、一時期、SFの分野ではあったようです。有名タイトルとそうでないものを組み合わせてバンドルする売り方です。まったく無関係なものがついてきても読者は喜びませんが、ジャンルに固定ファンがついている分野ではありでしょうね。
佐々木大輔 さん
——なんだかライブの前座と似ていますね。メインのミュージシャンのお客さんが喜びそうな前座バンドを探す、そんなマッチングもあるといい。
佐々木:そうですね。そこに編集が介在する余地があると思います。誰も喜ばないものを載せたら不幸ですもんね。ああ、それをやってくれる人がいたらいいなあ。
——それも編集の仕事ですね。
佐々木:注目を独占するセレブリティと読まれないロングテールとで二極化している時代ですが、方法がないわけじゃないですよね。でもその答えがブログとTwitterだけだと言われると、げんなりしてしまう作家もいるはずです。作品こそが命なのに、なんでTwitterまでやらなきゃいけないんだ、と思っている作家は多いと思いますよ。でもそれは、贅沢といえば贅沢。音楽の世界では、自分で作って自分で売るのはあたりまえですし、苦手だからなんて言っていられない。
作家的想像力がニュースを変える?
——本の場合は、流通の身軽さも使えると思います。小説を読むには1時間なり3時間なりかかるから、一部を切り出してTwitterに流すとか。
佐々木:小説みたいにボリュームのあるものを書ききるには、偏った情熱がないとできないんです。セルフでやっている方たちと話してみると、やはり話が面白い。コミュニケーションが上手だという意味ではなくて、特定の分野にものすごい情熱や執念や、知識、復讐心を持っています。それが結晶化されたのが小説なので、その一部だけを切り出してネットにシェアしても通じづらい。むしろ、結晶化する前の話をコンテンツにすると、その人物や作品に興味をもってもらえそうな気がします。藤井太洋さんもすごいんですよ。神秘性をまとっているというか、1回で全部出してくれない(笑)。会うたびに、幅広い知識や考察が聞けて、懐の深い人だなと驚きます。
また昨年WIREDに掲載された神林長平さんのインタビューを読むと、やはりふつうの人が考えていないようなことを考えているんですね。この人やっぱりすごいと思い、立て続けに2冊買いました。
ただし小説は年に何本も書けないので、小説以外のかたちでそれを引き出してあげることができたらいいいですよね。自分でブログを書くのが大変だという人もいるでしょうから。
——作家の書き上げた小説を元にインタビュー記事をつくり、その作家や小説への興味を引きだしてあげる。それも編集の一部だといえそうですね。
佐々木:それから、世の中でなにか事件が起きると、テレビやなんかでは著名人のコメントを取ったりしますよね。ネットでその役割を果たしているのは、投資家とか、フィナンシャルプランナーとか、ITとか、強い専門分野をもったブロガーの方々です。「BLOGOS」なんかはまさにそういうメディアです。でもそういう場面で、作家的想像力でものが言える人も必要だと思うんです。
——そういう切り口のニュースサイトは新しいですね。作家のコメントばかり載っているニュースサイト。小説を書いている人100人くらいに声をかけて、ニュースサイトを立ち上げる。その日のトップニュースについて、100人のうちの30人くらいにコメントしてもらう。
佐々木:ユニークですね。聞いたことがない(笑)。文系の想像力って、ふつうネットのニュースサイトには載らないですから。
一番上と一番下と仲良くなれ
——これから編集者、それも広い意味での編集者になろうとする人に、佐々木さんならどんなアドバイスをしますか。
佐々木:僕も編集者になりたかった学生でしたが、出版社に入れませんでした。それでも、仕事のうえで意識したことが1つあります。『編集者の学校』という分厚い本の冒頭に幻冬舎の見城さんのインタビューが載っているのですが、そこに「大家三人と、新人三人をおさえろ」という言葉があるんですよ。これはわかりやすいと。
会社の枠を超えて、業界で一番有名な人に会ったり話を聞いたりする。そして同世代や若い人の中から、一緒に成長していけるやつを探す。そういうことを心がけました。
アドバイスといえるかわかりませんが、ネットのおかげで声をかけることは自体は簡単になったので、大家にも臆せずどんどんコミュニケーションをはかっていくと、きっといいことが起こるのではないかと思います。そういえばこないだは、いとうせいこうさんにメールしたばかりでした。返事はこなかったんですが、そういうのをめげずにやるってことですね(笑)。
——村上春樹には会えないですよね、いくら一番偉いといっても。
佐々木:手紙は出せるのかな。どうやってコンタクトしたらいいんだろう。まあ返事はこなくてもドアは開いていますから、諦めずに。反応があった人とは仲良く、教えを請いながら。
アイデアの出どころ
——佐々木さんはダイレクトパブリッシング、セルフパブリッシングの世界でさまざまなアイデアを実験されています。そのアイデアはどこから出てくるのですか。
佐々木:仲間同士でしゃべっているときでしょうか。セルフパブリッシングの作家たちとTwitterや何かで、「あんなこともできるね」というふうに。
——お風呂で一人ぼんやり考えるというよりは、人と話しながらという感じですか。
佐々木:一人で思いつくときでも、過去の会話からひっぱり出してきていますね。外からの刺激がなかったら、何もしていなかったと思います。
——普段のお仕事ではダイレクトパブリッシングと直接関係のない、むしろまったく違うことをされていると思います。そのあたりはいかがですか。
佐々木:無関係ではないんですよ。ブログというのも、パブリッシングのひとつですから。なので仕事柄、出版史やメディア史の本が好きで継続的に読んできました。さきほどの『カネと文学』もそうですね。そういうものはストレートなヒントになりますね。何十年も前の人が、状況は違うけれど、同じ出版について考えていることなので、必ずヒントになります。日々やっているのは、そういうことです。
——出版史、メディア史はもともと好きだったんでしょうか。
佐々木:そういう仕事をしたいと思っていたので、意識的に読みました。はじめは印刷技術の本なんかも読んだのですが、さすがにネットだとあまり関係なくて、次第に歴史の方に興味を持ちました。これはネットだろうが紙だろうが、直接的に役に立つと思います。
「第2回:佐々木大輔(LINE株式会社) 5/5」 に続く(2013/06/07公開)
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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成:清水勝(VOYAGER)
編集協力: 隅田由貴子
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