INTERVIEW

これからの編集者

これからの編集者
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員)2/5|インタビュー連載「これからの編集者」(LINE株式会社 執行役員)

「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第2回は、ライブドアブログを担当するウェブディレクターであり、代々木犬助の名義で作家としても活動されている、LINE株式会社の佐々木大輔さんです。

※下記からの続きです。
第2回:佐々木大輔(LINE株式会社 執行役員) 1/5

セルフ作家 ≒ 地下アイドル?

——そういう気持ちのある人が、セルフパブリッシングをしようとする小説家に「僕、手伝います!」というのはありますか。編集者なのか、プロモーター、プロデューサーなのか、呼び名は別として。

佐々木:そういう人も出てきています。いわゆるKindle本、出版社を経由せずKindleからダイレクトに出ている本だけをレビューする人がいますね。今年の1月時点では「きんどるどうでしょう」や「つんどく速報」ぐらいしかなかったのが、いまでは「燃えよ個人出版」などもっと増えています。個人ブログの1コーナーとしてやっている人たちも増えています。宝探しがしたいと思う人がいるんだなと驚きました。書く側としても面白いし、嬉しいし、物好きだなあと。

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佐々木大輔 さん

——宝探しだけが目的なんでしょうか。アフィリエイトが目的とか。

佐々木:おそらくアフィリエイトで儲けようとは思っていないと思います。

——それは本当に……。

佐々木:物好きですよ(笑)。

——小説の新刊コーナーを回ったほうが、いわゆるいい作品に出会える確率が高いのではないか。そういう考え方がまだ一般的だと思います。「物好き」な人たちはどんな気持ちなんでしょうか。

佐々木:僕も聞いてみたいです。超少数派ながらそういう人がいるというのは、逆説的にいえば、一般の書店で面白い新人を探すことに満足できない人がいることの、1つの証左ではないでしょうか。必ずしも立派な装丁や校正・校閲の有無、作家のキャリアが通用しない世界。一般的ではないにしろ、そういう巡り合わせを求めて本を読む人が出てきたのは面白いと思っています。

——地下アイドルのファンに似ているのかもしれないですね。

佐々木:わかる! 「会いに行けるアイドル」ではないですが、「リプライできる作家」(笑)。プロの作家にはリプライしづらいですよね。みんなすでに面白いと思っているだろうから、自分が「面白い」と言わなくてもいいでしょう、という感覚。

——かたや、いまこの子を応援しているのは自分たちだけ、でもこれから有名になってくれたら嬉しいという感覚。

佐々木:藤井さんの出版パーティでも、林さんが感激してことばをつまらせていました。それこそまさに「わしが育てた」。すごくいい話ですし、そういうこともあるんだなと思いました。

 

作家と読者の新しい関係

——「リプライできる作家」というのも面白いですね。

佐々木:僕はセルフパブリッシングの作家にはすぐに話しかけますし、物書きの側として「面白かったです」と話しかけられることもあります。ただ、どこまで自分の作品を解説していいのか迷うんです。神秘性をまとうべきか、まとわないべきか。

みんながお手本にするような作家さんは、神秘性をまとっていることが多いと思います。自分の作品を解説するのは恥ずかしいこと、読み手が読み取ってくれたものが自分の作品、というスタンス。僕は「ここ面白かったです」「ここはもっとこうしたほうが」と言われると、「本当はもっとこうしようと思っていたんですよ」「実はこれは、この作品のここを見て」と説明したくなるんです。

その振る舞いをどうすべきなのか悩むのも面白い。小説を書くためにいろいろなことを考えるんですが、実際に書けるのはごく一部のコロッとしたものなんですね。そこからこぼれ落ちた部分をつつかれると、たくさんしゃべりたくなってしまいます。

——「そういうつもりでは読んでいなかった」と言われる可能性もありますね。

佐々木:説明することで、かえって作品世界を狭めることになるかもしれません。とはいえ自分でプロモーションまでやらなくてはいけないときに、つい解説、謎解きをやりたくなるんですね。これは面白い、新しい悩みだなと思います。

——作家の環境が変わってきましたよね。「会いに行ける」関係性が生まれたからこその悩みかもしれません。むしろ今後は、解説が必要なタイプの小説も生まれてくるということでしょうか。

佐々木:そういう小説のあり方も出てくると思いますし、そういうことができる環境があってもいいと思います。

——ケータイ小説の時代には、読者のコメントによって筋を変えるということがありましたね。

佐々木:この筋いただき! というのもあると思うんです(笑)。

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イベンター的な存在が求められている

——神秘性に関してどう振る舞うべきかというのも、誰かに教えてもらう手があるかもしれない。そういう戦略も含めてプロデュースしてくれる役割があってもいいですね。

佐々木:ゴールデンウィークにAmazon Kindleで、コミック数千冊が1冊あたり99円というセールがありましたね。その99円の本をタイミングよく紹介したブログやアフィリエイトサイトの売り上げが、すごく上がったそうです。

本が売れるから著者も嬉しいし、ストアも嬉しいし、紹介した人も嬉しいキャンペーンだったわけです。電子書籍でも、たとえば「秋の夜長の〜」「夏休みの読書感想文の〜」と銘打って、一週間99円で売るというキャンペーンはできます。そういう音頭をとる人がいたら、普段300円や400円で売っている僕の本も99円で出そうかな、と思いますよね。

——「あなたの本、いま99円で売りましょうよ!」という人がいてくれれば。

佐々木:それで「みんな一緒にやりましょうよ!」という人。編集者の概念を拡大解釈したイベンター的な人がいるのであれば、すごくいいなと思いますね。

——それはいいですね。

佐々木:あとはブクログのアヨハタさんが言っていたことで、ジャンル読みされる本に関しては、ジャンルごとにリストやレビューのまとめを作ってくれる人がいたらいいなと。たとえばラノベやミステリーは、そのジャンルについているファンがいると思います。そういうジャンルに関しては、ジャンル内で横につなげてくれる人がいるといいなと言っていました。僕もそう思います。

セルフパブリッシングも出版社を選ぶ時代

——それで思い浮かぶのは、KDPで出版された本の出版社名です。わりと適当につけられていると感じます。佐々木さんの本もたしか……。

佐々木:焚書刊行会。忌川タツヤさんのアイデアです。

——そう、国書刊行会ならぬ焚書刊行会。KDPでは、どんな出版社名をつけたらいいのか悩むところだと思います。

佐々木:そのアイデアを思いつく人は結構いるんですが、実際には、Amazonに表示される出版社名で得をすることは、あまりなさそうです。

——たとえばフリーの出版社名があって、誰でもその出版社名をつければその出版社のリストにのるとか、ブログで紹介してもらえる、など。

佐々木:実際に1つありますよ。「電明書房」。ここはノンジャンルです。

——誰でも勝手に「電明書房」と名乗っていいんですか。

佐々木:はい。名乗るとリストに入れてくれるんです。ただノンジャンルなので、読者が継続的にそこを見に行くモチベーションにはなりづらいんですね。もしミステリーだけとか、なにかしらササる切り口があれば成立するだろうと思います。

——たとえば「numabooks」ってつけていいですよと、僕が言い始める。

佐々木:そして内沼さんが必ずツイートすると言えば……つけるは人いますよね! 絶対にいます。それ、いいですね。ただ名乗るだけだから簡単ですし、ハッシュタグみたいなものですもんね。

「焚書刊行会」の名前も3、4人が使ってくれているんです。

——クラウド化していますね(笑)。

佐々木:Kindleって、灯す、火をつけるという意味があるんです。穏やかに言えば、ほの暗い明かりの中で本を読むようなイメージですが、過激にいえば、紙の本を燃やして電子書籍で読むという「焚書」のイメージにもなります。焚書を刊行するという矛盾や諧謔がおもしろいなと思って名乗っています。

——案外よく考えられていますね。

 

守られた人たちの行く末

——以前、新潮社の校閲の話題がネットで盛り上がりましたね。校閲の人のプロ意識がすごい! というのが発端でしたが、その後の盛り上がり方について、佐々木さんは『セルフパブリッシング狂実録』の中で違和感があったと書かれていますね。

佐々木:あれは面白かったです。気になる事件でしたね。新潮社の校閲の精度は有名で、校閲の世界をあまり知らない人がそのクオリティに驚くのは当然だと思います。でもそれがこのタイミングで出て、何人かの作家が「ほらみろ! だから紙のほうが優れているんだ」「だから校閲の入らないセルフパブリッシング本は読む気にならない」と言い出した。僕の狭い観測範囲だけで数人いたので、そう思っている人は実際もっといたと思います。

でも校閲って、会社に蓄積されたノウハウであり校閲者の技術力であって作家本人の力量ではない。書き手が誇るべきは、何をどう書くかなんじゃないのかなと、違和感を持ちました。同時に、そういう人たちは守られた立場にいるんだなとも思いました。出版ビジネスがうまく回っていた時期に、人手の校閲という高いコストをかけてもペイすると思われていた人がいたということです。そんな時代ではなくなってきたいま、校閲が入らなくなって困るのは、むしろあなた方のほうでは? と、辛辣な言い方をしました。

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佐々木大輔さん所属のLINE株式会社の受付風景。
ブラウン、ムーン、コニーの巨大キャラがお出迎え。

——作家としてというよりは、ある種出版業界の一員という意識で、セルフパブリッシング的なものと旧来の出版を見比べる向きでしたね。

佐々木:もし校閲者本人が「どうだ!」と言うなら、まだわかるんです。「それはすごい!」で終わったと思います。でも校閲を受けた作家が、「だから俺のほうがすごいんだ!」というのは違うんじゃないか。そういうことに無自覚なんだなと、違和感を感じました。

「第2回:佐々木大輔(LINE株式会社) 3/5」 に続く(2013/06/05公開)

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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。

編集構成:清水勝(VOYAGER)
編集協力: 隅田由貴子


PROFILEプロフィール (50音順)

佐々木大輔

LINE株式会社 執行役員 1980年、岩手県生まれ。ライブドアブログを担当するウェブディレクター、編集者。編著に『セルフパブリッシング狂時代』『女たちの遠野物語』『ダイレクト文藝マガジン』など。筆名・代々木犬助の名では小説『残念な聖戦』ほか。ウェブと電子書籍をつなぐ新世代パブリッシャー。