「これからの編集者」をテーマに、さまざまな人にインタビューしていくシリーズ。第2回は、ライブドアブログを担当するウェブディレクターであり、代々木犬助の名義で作家としても活動されている、LINE株式会社の佐々木大輔さんです。
アマチュア作家にも編集者は必要か
——佐々木さんは今年の5月に、『セルフパブリッシング狂実録』という本を出されました。その中で佐渡島庸平さんのことばに触れていましたね。
佐々木:B&Bで行われた「東京編集キュレーターズ」のイベントでのことばです。「一流の人を超一流に導くのが編集者の仕事だ」というようなことを言われていました。面白かったです。
——ただ、アマチュアにも編集者は必要なんじゃないかとも思います。佐々木さんは「ダイレクト文藝」という雑誌の中で、編集的なこともしていますよね。
佐々木:編集長は別にいるんですが、私も編集の手伝いをしています。
佐々木大輔 さん
——同時に、書き手としてセルフパブリッシングもしている。そこで佐々木さんにお聞きしたいのは、セルフパブリッシングに編集者は必要なのか。つまりアマチュアにも編集者は必要かということです。そして、必要ならばどんな編集者が必要なのか。今日はそんなお話ができればと思います。
佐々木:セルフパブリッシングを語るときに必ずテーマになる、ど真ん中、大通りのテーマですね(笑)。でもそこから派生することが、いろいろあると思うんです。
——アマチュアにも編集者が必要だと思いますか。
佐々木:編集という機能がひとりの人として必要かといえば、そうでもないと思います。その機能の一部は著者自身が兼ねることもできる。また特定の人でなく、ネットからの反響も編集者的機能といえると思いますので、クラウド化できる部分もあって、機能別に分解すれば別のものに置き換え得るんじゃないかと思うんです。
関係者の数を増やしていくと、セルフパブリッシングの良さはなくなっていくんですね。作品の精度は上がるかもしれませんが、スピードや尖ったアイデアが失われて、お金もかかります。コスト面からいっても、人を増やせるモデルにはなっていない。だからセルフパブリッシングにおいては、人としての編集者はいらないということになるかもしれません。
これは、そうあってほしいということではなくて、実態としてそうだ、ということです。編集者がいてくれたらいいなと思う人はたくさんいると思います。でもそれって、贅沢なことですよね。
セルフパブリッシングとベータリーダー
——代々木犬助という名前で小説も出されていますね。小説の著者としては、編集者、あるいは読み手は必要だと感じますか。
佐々木:先ほどの佐渡島さんのイベントですごいと思ったのは、人間が何か優れた創作物をつくるときに、人間の心にヒットするものを一緒につくっていくとおっしゃっていたことです。それを「心を微分する」と表現していました。著者として、そんな伴走者がいたらありがたいですよね。なるほどと思ったのは、小説と漫画の違い。漫画はネームの段階から1コマひとコマ編集者がフィードバックできるけれど、小説は書き上がってから見るしかない、と。だから小説は、漫画に比べて編集者が心を微分していくところに入っていきづらいと。
小説って、たとえ編集者がいても、かなりの部分は一人きりで創作するしかありませんよね。セルフパブリッシングと伝統的な紙の出版はよく対比されますが、村上春樹さんだって、最後に奥さんに読んでもらうまでは、かなりの部分がセルフだと思うんです。一人で孤独に書き上げるしかない超長文という点では、KDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)で発表されている小説とほとんど変わらない。
一瞬のおもいつきで書かれたつぶやきもおもしろいけれど、読み終えるのに何時間もかかる超長文にも居場所ができたという意味で、僕はセルフパブリッシングをすごく面白いと思っています。ただ、より広く届けるには誰かの助けが必要だと思います。「こういう書き方をしたら伝わらないよ」「それを伝えるにはもっといい表現のしかたがあるよ」と。思うままに書いて100人に届けばいいというのならそんな必要はないと思うのですが、もっと広く届く作品にしたいと思うのなら、セルフでやる面白さを超えて、他者の助けが必要だと思います。
——伴走者というのは、かなり高級なものかもしれません。単純に「ちょっと読んでみて、どう?」というのもありますよね。
佐々木:あります!「ベータリーダー」。『マニフェスト 本の未来』という本で知ったことばです。
——佐々木さんの小説にもベータリーダーはいたんでしょうか。
佐々木:いました。僕はブログで小説を連載しているんですが、最初は仲のいい友達一人だけに教えていました。毎日読んでくれて、面白いときだけ連絡をくれるんです。だから自信があったのに返事がないときなんかは、つい催促してしまう。「読んだ?」って(笑)。「ああ、まだ読んでない」ならいいんですが、「読んだけど、別に」というときはもう少し考えてみようと思うし、その人が飽きてきたと感じたら、そろそろ山場をつくろうかなと考えたりします。
そういう意味ではベータリーダーにもいくつか役割があって、コメントや励ましをくれる人というのがひとつ。もうひとつは、著者が「その人を楽しませるために書く」と意識することで、作品のなかに他者性が入ること。ひとりよがりではなく、少なくとも誰かひとりを楽しませようと思って書くようになる。頭に思い浮かべるだけの存在でも、ひとつの役割を果たしているといえますよね。
——ブログもある種のパブリッシュだと思いますが、ブログに上げる前に誰かに読んでもらうんですか。
佐々木:書いたらそのまま上げます。まず上げて、そこにフィードバックをもらいます。
——フィードバックをもらってブログの内容を書き直すこともある?
佐々木:あります。伝わりづらいなと思う点をちょっと補ったり、余計な部分を削ったり、ということはあります。
1回あたりの分量もどのくらいがいいのかわからなくて、毎日2,000字書いていたのを、友人の反応を見ながら調整しました。その友人の反応を意識することがもう編集ですね、いま気づきました(笑)。友人からは感想や励ましをもらってだいぶ助けられましたが、仮に一言もなくても、その友人を想像して書く時点で別の視点が入っていますから、それがよかったのかもしれませんね。
——他の読者からも反応はあったんでしょうか。
佐々木:書き終わってない段階なので、感想をくれる人はそんなにいなかったんですが、文章の一部がTumblrでリブログされる、ということはありました。そうすると、ここの文章はササるんだな、ここはウケるんだなと、参考になりました。
——ブログの小説連載をまとめてKDPで出版するときも、だれかに読んでもらったのですか。
佐々木:電子書籍にまとめたときは、ブログを読んでくれていた友人とは違う人に読んでもらいました。出版前に。
でも、アドバイスをもらっても書き直せませんでした。未完成は未完成で完成している(笑)。技術的な指摘をしてくれた人も、何人もいました。もっともだと思うこともたくさんありましたが、それを反映すると全部直さなくてはいけなかった。そして、自分にはその技術がないわけです。
それで、まぁこれはこういうものだよねと、背中を押してもらいました。それってデカいですよね。こんな作品だけど出版してもいいという承認をもらった気がしました。
直すな、前に進め
——佐々木さんは毎日コツコツ書ける人だと思いますが、「次まだ?」と言ってくれる人がいないと、ブログ記事であっても書き続けられない人は多いのではないでしょうか。
佐々木:僕はわざと、連載中の原稿は推敲しすぎないようにしているんです。原稿を書いたそばからファックスで入稿してしまうようなものです。本当は延々と直したいのですが、直していると進まなくなるので、直すのはアップロードしたその日だけ。次の日にはもう次の2,000字のことしか考えない。すごく狭いスコープで見ているんですね。
書いた原稿が全部見えていると、どんどん遡って直してしまう。でもブログに書いて公開してしまえば、済んでしまったことだと思っているから次が書ける。これはみんなにおススメします。
佐々木大輔さんが所属するLINE株式会社の休憩フロア。
——前の筋を思い返したり、張っておいた伏線を確認したりするためには、もう一度見ないんですか。
佐々木:それはもう見ます! 毎日毎日、読みます。
——読んでみて、気になるところがあっても直さない。
佐々木:ちょっとした直しはします。でもいちど人の目に触れたものなので、根本的には直さないと決めています。連載を追いかけている読者は、過去にさかのぼって読み直したりしてくれませんから。ブログをまとめて電子出版するときでも、欠点を挙げたらキリがないことはわかっていました。でも終わらせないといけない。処女作については、いまでも書き直したい気持ちはありますが、書き直したら次が書けないと思って、考えないことにしています。
延々と直し続けるのは、すごく贅沢なことです。稲垣足穂は、自分の作品を何年も直していたそうですね。宮沢賢治も死ぬまで直していたとか。みんな、直したいと思うんですね。
——それで書き続けられなくなる人には、「そんなに悩まないで書けよ!」と言ってくれる人が必要ですね。
佐々木:必要です。励ましつつ、書かれた原稿を取り上げて、終わりを告げてくれる人。もし宮沢賢治に編集者がいたらどうなっていたか。「もういいよ! 直すな、新しいのを書け!」(笑)。
一人目の読者とどう出会うか
——セルフパブリッシング作品のプロモーションについておうかがいします。『セルフパブリッシング狂時代』では、Twitterやブログなどのツールを勧めていますね。それ以外に必要なことはありますか。
佐々木:先日藤井太洋さんの出版記念パーティに行ったところ、『Gene Mapper』は「ブック・アサヒ・コム」の林智彦さんが書評を書いたのを契機に売れ始めたという話が出ました。藤井さんも「僕を見出してくれたのは林さんだ」とおっしゃっていました。藤井さんはTwitterもfacebookもやっているし、ホームページも作れる、Google AdWordsを使って広告も出せるという人です。ネットツールを駆使できる人でさえ、「これ面白いよ」と言ってくれる最初の紹介者がすごく重要なんだなと思いました。
著者が自分で自分の作品をPRしても、それだけではあまり読みたいと思ってもらえない。ポジショントークにならざるを得ないですから。でも他の人が勧めてくれるなら、一気に信頼度が上がりますよね。
——単純に露出を増やすだけのプロモーションではダメなんですね。
佐々木:いかにレビューを書いてもらうか、いかに支持してもらうか。本質的にはそういうことではないでしょうか。僕の作品も、最初のレビューがつくまでは時間がかかりましたが、1つつくと本も売れるようになったし、「私はこう思う」「俺もそう思った」というかたちで2つ目以降のレビューがつきやすくなります。一人目のよき読者とどう出会うかが大事です。よき読者というのは、教養の高い本読みということではありません。自分が伝えたいことと、その人の欲しているものとのマッチングなわけで、確率的には奇跡的なことだと思います。プロモーションは、そのよき読者に出会うための道具なんです。
休憩フロアのあちこちに楽しいLINEの人気キャラクターが登場する。
——ただ小説の書き手は、小説を書くことに集中したいと思っていませんか。NAVERまとめがどうとか、Twitterや最初のレビューが、ということを考えたがらない人が多いと感じます。
佐々木:そう思います。小説を書く人は書きたいから書くだけであって、ビジネスのことを考えたいわけではないですから。
——同じように、そういう表現者をビジネスでなく支えたいという気持ちを持つ人も多いのではないでしょうか。
佐々木:僕がそうですね。「ダイレクト文藝」という雑誌をやったのは、そういう気持ちです。
「第2回:佐々木大輔(LINE株式会社) 2/5」 に続く(2013/06/04公開)
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インタビュアー: 内沼晋太郎
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー。2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。
編集構成:清水勝(VOYAGER)
編集協力: 隅田由貴子
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