作家として活躍する傍ら、新たにこの夏株式会社を立ち上げ、作家と読者をつなぐSNS「CRUNCH MAGAZINE」の運営を始めた今村友紀さん。その活動の真意はどこにあるのか、作家のエージェンシー「コルク」代表の佐渡島庸平さんが探っていくうちに、話はなぜか次第に今村さんの人生相談に……!?
編集者と作家は、どのようなやりとりを経て1つの作品を作り上げていくのか。トークの中で展開されるベテラン編集者・佐渡島さん流の「打ち合わせ」の様子はまさに目からうろこです!
★2013年11月6日、本屋B&B(東京・下北沢)で行われた、今村友紀「CRUNCHERS」創始記念トークイベントのレポートです。
※以下からの続きです。
今村友紀+佐渡島庸平「今村さん、僕と打ち合わせやりましょうよ!」 1/5
今村友紀+佐渡島庸平「今村さん、僕と打ち合わせやりましょうよ!」 2/5
今村友紀+佐渡島庸平「今村さん、僕と打ち合わせやりましょうよ!」 3/5
今村友紀+佐渡島庸平「今村さん、僕と打ち合わせやりましょうよ!」 4/5
今村さんにとって小説って何なんですか?
佐渡島:医学部から文学部に転部するとき心の動きってどんな感じだった?
今村:もともと文章を書くことが好きだったので、意外と平然としてる自分がいたというか……。文学部に行って学びたい訳じゃなく、ただ単純に文学が通り過ぎる場に身を置きたかったんだと思います。
佐渡島:好きな作家は?
今村:よく聞かれるんですが、いないですね。おもしろいと思うのは舞城王太郎、村上春樹、阿部和重さんかな。海外だと『ファイト・クラブ』を書いたチャック・パラニュークとか好きですね。小説だと『アメリカン・サイコ』が一番好き。
佐渡島:『アメリカン・サイコ』が一番好きって珍しいですよね。僕も結構好きなんですけど……どこが好きなんですか?
今村:「何もない」っていうことをずっと描いている。あれこれ過剰に描いているけれど、結局核となる中心部分は空いていて……それをどこか自嘲気味に見ている。そこがすごく自分の感覚にフィットしたんです。
佐渡島:自嘲気味に陥った主人公のニヒリズムな状態を、自己同一視したんですか?
今村:そうかもしれない。むしろ興味を持って勉強したり、なんでも一生懸命頑張ってはいるけれど、どこかで「やれちゃっている」自分がいる。
佐渡島:「なんでも簡単にできちゃうからつまらない」ってことですか? 本気で取り組む対象がないとか……
今村:簡単に言うとそういうことですよね。「やれちゃってる」けど、何か足りない。
佐渡島:なるほど。今村さんはご両親とはどんな会話をするんですか?
今村:そのときどきで、自分が興味のあることとかですかね。あるいは父親の仕事の話とか……最近気が付いたら夜が更けていたなんてこともありますね。
佐渡島:父親と話していて夜が更けることなんてあるんですね! 僕なんてずっとループですよ。「お前元気か?」「ああ」みたいなね(笑)。それは素敵な関係ですね。
今村:20代半ばになってからぐらいかな。よりその傾向が強くなった気はしますけどね。
佐渡島:今村さんは、小説家として努力し始めてから何年くらい?
今村:5年位ですかね?
佐渡島:学習塾は?
今村:システム開発の仕事も合わせて4年くらいやってました。
佐渡島:学習塾は飽きたじゃないですか。小説家は飽きていない?
今村:飽きないですね。まだまだ、本当に「ここまでやった」っていう実感がないから。
佐渡島:うん。今村さんにとって小説って何なんですか?
今村:医学部へ行って、ビジネスをやっても、それでも何か足りない。中心に空いた穴を埋めるためというか、もがきたいというか……。
佐渡島:自分が何者かを知るための道具?
今村:はい。それを通じて色々発見もあるでしょうし……。
佐渡島:それは自分自身のことを言葉で知りたいのか、それとも物語を紡ぎたいのか、それはどっち? 今村さんのさっきの話を聞いていると、「統計で出た答えだからこのままでいいじゃん」みたいな感じなのかな、とも思って。
今村:考えとしては両方ありますね。自分がどういうことをすればいいのかを抑えておいて、その上で好きなことをしたいんですよ。「ここを抑えておけば大丈夫だ」というものを、しっかり得ておきたいという感覚があるんです。そうすればその分、自由になれる気がして。
「自分の考えが分かる」ことの重要性
佐渡島:うん、なるほど。
マンガの編集者とマンガ家って、一番最初に定石に則った話を僕の場合はしちゃうんですよ。
編集者がやることって、ありふれた形の整ったそれなりにおもしろい話を用意することだと思うんです。マンガ家がそれを超えるって思ってるから。今村さんは、その過程の打ち合わせをまだ一回もしたことがないってことなんですかね?
今村:そうですね。自分自身はそうしたいですけどね。
佐渡島:この後今村さんが小説を書き続けていって、幸せになれるんですかね? 自分の中の核を見つけられるんですかね。
今村:そればっかりは分からないですけれど、それを探すためには色々動いているので……そのチャレンジはこれからやり続けたいと思っていますね。
佐渡島:自分のおもしろさや個性が早めに全面に出て、「自分はどういう作家になりたいのか」とか「人の感情をどうやったら動かせるのか」とかをとにかく考えることが重要です。何かひとつ、すごくシンプルなことを課題にして短編を書くとかね。
今村:「心が動く」ってことは、簡単に言うと「行動が変わる」っていうことですよね。僕が脳科学やデータ分析に興味があるのは、どういう時に人が心を動かされるか、それを引き起こすのは何なのか?というのを知りたかったというのが一番の理由だったんですよね。
佐渡島:コピーライターの高崎卓馬さんが書いている『表現の技術』という本の帯がすごく良くて。「人は笑うまえに必ず驚いている」。驚きがあった後に感動が必ずあるという。驚きなくして感動はないという……これは僕自身もすごく良い気付きだなぁと思ったんです。統計学で小説を語るよりも、世の先輩が書いている定石本を読んでみたほうが勉強になるんじゃないかな?
今村:そうですね。実践してみます!
佐渡島:今村さんの、この後の人生目標はどんな感じですか?
今村:そうですね……「こうでなければいけない」という目標はないので……。
なんか人生相談みたいになってきましたね(笑)。
佐渡島:いや……1時間話したぐらいから、急に「思っていたよりも超おもしろい人だな」と思って純粋に興味が湧いて(笑)。そのおもしろさを作品に生かせたら、小説家としても成功するだろうな、と。急に編集者気分が湧いた感じでしたね。
★この続きは、DOTPLACEの書籍レーベル「DOTPLACE LABEL」から発売された
『コルクを抜く』からお読み頂けます。
[今村友紀+佐渡島庸平「今村さん、僕と打ち合わせやりましょうよ!」 了]
★「これからの編集者」佐渡島庸平さんのロングインタビューはこちら
構成:後藤知佳(numabooks)
編集協力:高橋佑佳
[2013年11月6日 B&B(東京・下北沢)にて]
COMMENTSこの記事に対するコメント