作家として活躍する傍ら、新たにこの夏株式会社を立ち上げ、作家と読者をつなぐSNS「CRUNCH MAGAZINE」の運営を始めた今村友紀さん。その活動の真意はどこにあるのか、作家のエージェンシー「コルク」代表の佐渡島庸平さんが探っていくうちに、話はなぜか次第に今村さんの人生相談に……!?
編集者と作家は、どのようなやりとりを経て1つの作品を作り上げていくのか。トークの中で展開されるベテラン編集者・佐渡島さん流の「打ち合わせ」の様子はまさに目からうろこです!
★2013年11月6日、本屋B&B(東京・下北沢)で行われた、今村友紀「CRUNCHERS」創始記念トークイベントのレポートです。
※以下からの続きです。
今村友紀+佐渡島庸平「今村さん、僕と打ち合わせやりましょうよ!」 1/5
作家と編集者の間にある時間感覚
佐渡島:今村さんは小説を書き始めて何年? というか今はおいくつなんですか?
今村:小説を書き始めて2年目、27歳ですね。
佐渡島:小説を書いていて楽しいですか?
今村:楽しいですね。
佐渡島:何が楽しいですか? たとえば文芸作品を書いていて1万部も売れないじゃないですか。だから、伝わってる感じとか読者からの感想とかって、正直あまりなくないですか?
今村:そうですね。伝わってる感じはないですね。
佐渡島:担当編集者から深い感想が来たりとかは?
今村:そこはなんか「正解がないんだよね……」みたいに言われることが多くて。
佐渡島:ん!? どういう意味ですか?
今村:純文学の作家と編集者のやり取りを説明させていただくと、まず6~8万字くらいの小説を書き上げ、それを編集者宛にメールで送る訳です。そうすると、僕の経験からすると3~4ヵ月経ってからソロソロとメールが返ってきて。
佐渡島:え!? そんなにメールの返事が返ってこないんですか?
今村:そうです。それで「打ち合わせをしましょう」って言われて、する訳ですが……反応がよろしくないときは、「まあこれはおもしろいとは思うんですけどね~」と言われて、どうすればおもしろくなるか聞き返せば、「う~ん……」と曖昧な回答で流され時間が過ぎるような。おそらくマンガとは対極なんですよ。
佐渡島:マンガというか、僕が知っている編集者の行動と対局ですね。
今村:う~ん。別にけなしている訳ではないのですが、こういう時間感覚が普通なんですよね。スピード感があって、読者からのフィードバックがあって、そこから学ぶというシステムには、現状なっていないことに気がついたんですよ。
早くフィードバックをもらわない限り成長もできない。読者に向けて書くときはもっとスピードを早く。今のマンガ雑誌や週刊誌よりもフィードバックの早い仕組みがあると、それが一番僕自身の成長には繋がる気がしたんです。その流れでインターネットの投稿サイトをつくって、自分の書いたものを多くの人に見てもらうためというか、まずは出して反応を見てみるというか、回すという仕組みをつくっていくのがひとつの目的でしたね。
佐渡島:うん。僕はもともとすごく小説が好きなんですよ。純文学も好きだし、普段買う本も1万部も売れてないような本はたくさんあって。別にたくさん売れている本が良い本という訳ではないと思っているんだけれども……僕が買って読んでる本っていうのは、作家の考えがしっかり“伝わってくる”んですよね。でも作家の考えがちゃんと伝わらない本も多いな~と思っていて。
今村:うん。
佐渡島:今村さん、伝えようという意志をもって書いていますか? 書いてて楽しめていますか?
今村:「伝えたいな」って思って書いている気持ちに、変わりはないです。
佐渡島:「(伝わっていることを)確認する方法がないじゃん!」みたいな虚しさを感じるときはないですか?
今村:書いたものが読んだ人に伝わるってことはあると思うし、それを信じるから書くのは当然なんですが、ただそれを確認することができない。
佐渡島:何かもどかしいですよね(笑)。
今村:そうですね(笑)。それを伝えたいって思いがなければ書かないから当然なんですが……。
ただ、伝わったかどうかは実感として返ってこない限り、誰がこれを読んで何を思ったのか不安にはなりますけどね。
メディアごとの「おもしろさ」の設計
佐渡島:ちなみに「クランチャーズ」をつくったのはいつ?
今村:今年の7月ですね。
佐渡島:構想はいつからですか?
今村:「クランチャーズ」と小説の仕事は一体に見えるのですが、もともと映画の仕事をしようと立ち上げたんです。
佐渡島:映画の仕事というのは?
今村:「クランチャーズ」の取締役の松本(准平)が映画監督でして、彼と私ともうひとり、コンピューターの統計解析が得意な弊社のCTO(長谷川崇矩)と3人で呑んでいたときに、CTOが「データを集めれば映画のヒット分析ってできると思うんだ」と言いだして、そこから話が盛り上がって始めたのがきっかけでした。
佐渡島:それは主に映画のですか? データというのは?
今村:そうですね。私たちがつくった作品に対する詳細なアンケートを、アルバイトの方に実施して、そのデータから統計を取って様々な解析をしています。
小説の場合ですと、キャラクターの造形と売上や人気はかなり相関がある。またはテーマで「どういう感情を喚起させられるか」というところの普遍性ですよね。特定の人にしか分からないニッチな感情よりも、みんなが共感するような青春とかに関連するものが特にヒットする。
映画もそうかなと思っていたのですが、そうではなくて、プロットのつくり――特にクライマックスがどう盛り上がるか、そこへ向けての感情の普遍性が大きく関係していることが分かったんです。
佐渡島:うん。
今村:最近では「テーマがこのようなときには売上もこのくらい上がる」といったような、ある程度の予測分析もできるようになりました。
クランチャーズでは、ある意味これから発売する小説や映画に対して、特徴を入力するだけでこの程度の売り上げが予測できる……そういうシステムをつくっている訳ですね。
佐渡島:つまり今村さんは、ストーリーとか内容によって売り上げがほとんど決まっていると感じてるってことなんですか?
★この続きは、DOTPLACEの書籍レーベル「DOTPLACE LABEL」から発売された
『コルクを抜く』からお読み頂けます。
[3/5に続きます](2013/11/27更新)
★「これからの編集者」佐渡島庸平さんのロングインタビューはこちら
構成:後藤知佳(numabooks)
編集協力:高橋佑佳
[2013年11月6日 B&B(東京・下北沢)にて]
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