作家として活躍する傍ら、新たにこの夏株式会社を立ち上げ、作家と読者をつなぐSNS「CRUNCH MAGAZINE」の運営を始めた今村友紀さん。その活動の真意はどこにあるのか、作家のエージェンシー「コルク」代表の佐渡島庸平さんが探っていくうちに、話はなぜか次第に今村さんの人生相談に……!?
編集者と作家は、どのようなやりとりを経て1つの作品を作り上げていくのか。トークの中で展開されるベテラン編集者・佐渡島さん流の「打ち合わせ」の様子はまさに目からうろこです!
★2013年11月6日、本屋B&B(東京・下北沢)で行われた、今村友紀「CRUNCHERS」創始記念トークイベントのレポートです。
※以下からの続きです。
今村友紀+佐渡島庸平「今村さん、僕と打ち合わせやりましょうよ!」 1/5
今村友紀+佐渡島庸平「今村さん、僕と打ち合わせやりましょうよ!」 2/5
特訓メニューとしての「今日のコルク」
佐渡島:でも、クリエーターとして考えたときに、データで裏付けられている作品をもう一回つくりたいですか?
今村:そうですね。「こういう裏付けがあるから、ここは外さないようにつくろう」とか……。
佐渡島:なるほど。じゃあ、普段今村さんがつくっているものはそこを外さないようにつくっているんですか?
今村:まあ会社を作ったのが7月なんで、まだその期間内では小説は出していなくて……。
佐渡島:逆にそれをやるようになる前っていうのは、正直そういうことは考えずにつくっていた訳ですか?
今村:考えますけど……「これがいい」っていうのは分からない訳ですよ、全然。自分でこうしたらいいっていうものにはしますが、これが読者へとどう届いているのかとか、自分ひとりでやっていると分からないですし……編集者にも相談しますが、それでもなかなか見えてこないっていうもどかしさが一番大きいところだったんですよね。
佐渡島:なるほど。でも、僕が担当している新人マンガ家とは、こういう話を延々とやるんですよ。
もっと細かいレベルでの話があるんですけれど……ちょっとパソコンで「今日のコルク」っていうページを映してもらってもよいですか?
今村:これですか?
佐渡島:そうそう。この1ページのマンガは、僕が担当している新人(羽賀翔一)に描いてもらっているんですが、この規模でも打ち合わせはちゃんとするんですよ。これについてだけでもそれなりの会話をするんだけれども……。
初めはこの4コマ目の吹き出しの言葉が「愛かな~」だったんです。「トイレの電球とA4のコピー用紙と大きいクリップと、あと何か必要な物ある?」→「う~ん」→「愛かな~」ときて、「ちょっと探してくる」っていう流れで。「女子同士の会話で、こういうときの探し物が“愛”とか、すごくありきたりだから変えてほしい」って言ったら、「キュンキュン」が出てきたんです。
今村:ええ。
佐渡島:でもかえって分かりにくくなっちゃっただけで、変えるなら圧倒的に変えなきゃダメだという打ち合わせを今日していて……。
さっきから聞いていると文芸作家ってそれがなくて、なんだかすごくもったいないですね。
今村:うん。もどかしいですね。あえて私がどういう編集体制が一番嬉しいか自分の我がままを言いますと……一言一句全部、頭からこの言葉はこうだからダメとかこうすれば良いとか、一文一文全てに対してフィードバックがあるのが一番嬉しいですね。
しかも、一段落とか一行とか書いた直後に返ってくるようなスピード感のある状態が最も伸びると思うんですよ。現実ではなかなか難しいですけど……。
佐渡島:「クランチマガジン」でやったらその反応はすぐに見られはしないんですか?
今村:サイト内だと、そもそも長編って読まれないんですよ。パッと手を開いたくらいの文量でなら、反応がすぐに帰ってくるみたいな。それはそれでおもしろいかとは思いますけど……ただ長編をつくるときはそれだけやっていても仕方ないんで、本当は構造から全部やらないといけないって思うんですけど。
佐渡島:コルクって以前からFacebookページはあったんですけど、忙しくて宣伝とかもしていなくて、ちょうど新人も育てたいなって思っていた頃で、20~30ページの短編だとあっちも完成させるまでに時間が掛かるから毎日打ち合わせした方がよいな~と思って、「今日のコルク」をつくって原稿料を払って食えるようにしようと思ったのね。
今村:はい。
佐渡島:そうすると、まだ始めて1ヵ月も経っていないけど徐々にいいね!が増えていって、今1500ぐらいまでいったんですよ。でも見ていると、ネタによっていいね!の数が違って……ネタのおもしろさに対して超シビアに反応が出ていてさ。たった5コマ位で、マンガ家のアイデアがどれくらいおもしろいかっていうのが見事に分かっちゃうんだよね。サイトに掲載してから5分くらいの伸び率で、「これは1000越えるな~」とかね。すごくおもしろい。
今村:まさに私がやっているサイトもそれなんですよ。新着の情報に採点やいいね!ができるので、掲載してから5分後くらいの数字の伸びを見てある程度の結果が予測できてしまう。ある程度フィードバックの早さによる共通項はあると思うんですよね。
佐渡島:それはクランチャーズをやり出して気付いたことですか?
今村:そうですね。サイトを立ち上げて自分でも投稿するようになって、もともとフィードバックは早いほうがいいと思ってたんですけど、ネットだと秒とか分なんですよね。編集者に何ヶ月という単位で待たされていた私自身、このギャップはひどいなって余計に感じるようになって(笑)。
現実世界もランキング主義
佐渡島:少し意地悪な質問に聞こえるかもしれないけど、フィードバックばかりを気にして書いたものはよいものだと思いますか?
今村:それについては、実はそうは思っていないですね。自分にとっては(フィードバックも自分の感覚も)どっちも大事だし、どっちもないとそもそも書くエネルギーも沸かないというか。他の人がどう言おうと自分の書きたいものを書くのがよいのかって言われると違うし、だからといって周りの反応ばかりを気にして書けばいいのかって言われると分からない。あえて言うならば今は、その二つの間の宙吊り状態で、でもそれが自分にとってはむしろ心地よいなと……。
佐渡島:これ(クランチマガジン)と似たようなサイトが他にもあると思うけど、差別化はどうしてるんですか?
今村:あえて人気ランキングをやらないサイトをつくったところですかね。
佐渡島:じゃあ、サイトに来た人は何を頼りに作品を読むんですか?
今村:本を買うときって、作家名で選んで買うって人が結構多いと僕は思うんです。人気ランキングとは何か別のことをやりたいと思って考えたのは、サイト内でユーザーが持っている“権威”を数値化すること。“偉い”人が選んだ作品が上位に来るようになるような形にしようとしたんです。
佐渡島:その“偉い”人はどうやって決めるんですか?
今村:レビューを書くことで、得た評価のポイントを割り振ったりして……
佐渡島:でもさ、小説だと「何が偉いか」の基準が人によって違ってきませんか?
ネット社会を批判するときにみんなランキングを批判するけど、僕は全然そうは思わなくて……だって現実社会もすごいランキング主義ですよね。たとえば書店なんて非常に分かりやすいランキング主義だと思っていて。今日は(この本屋B&Bにも)今村さんの本がレジ横に置いてありますけど、レジ横なんて最も推しているというわかりやすいランキングの場所じゃないですか。
★この続きは、DOTPLACEの書籍レーベル「DOTPLACE LABEL」から発売された
『コルクを抜く』からお読み頂けます。
[4/5に続きます](2013/11/28更新)
★「これからの編集者」佐渡島庸平さんのロングインタビューはこちら
構成:後藤知佳(numabooks)
編集協力:高橋佑佳
[2013年11月6日 B&B(東京・下北沢)にて]
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