紙/電子を問わず、ますます身近なものとして定着してきているインディペンデントな出版活動。その中でも、とりわけ“紙”メディアに強いこだわりを持って活動をされている方々にメールインタビューを行い、フィジカルなセルフパブリッシングの今後の可能性や、そこから派生するさまざまな事柄を探っていくシリーズ「independent publishers」。
記念すべき第1回目は、写真家・アーティストたちによるセルフパブリッシングのプラットフォーム「parapera(パラペラ)」を2009年に立ち上げ、この数年間の国内外でのzineや個人出版のうねりを肌で感じながら活動されてきた、大山光平さんにクローズアップします。
【大山光平さんプロフィール】
大山 光平(おおやま・こうへい)
2009年にparapera、2013年にBook Storageを設立し、国内外でセルフパブリッシングやインディペンデント・パブリッシングの流通を手掛ける。現代写真や写真集、セルフパブリッシングに関する展覧会、イベント、ワークショップなどの企画・キュレーションを行う。神奈川県三浦郡在住。
http://koheioyama.com/
メールインタビュー
――まずはじめに、大山さんが立ち上げられたセルフパブリッシングのレーベル「parapera」の活動について、簡単なご紹介をお願いします。
大山:「parapera」は現代美術・写真の分野のアーティストの作品、活動を発信するためのプラットフォームとして、2009年に友人の山中慎太郎と立ち上げました。セルフパブリッシングのオンライン販売を主として、展覧会やインタビュー、ワークショップなど様々な側面からアーティストの活動を紹介したり、交流の場を作ってきました。30名以上のアーティストと関わり、本は売り切れも含めて90タイトルほど扱っています。
アーティストとよく話をしてお互いの活動に納得した時点で参加してもらっていて、本は商品というより作品と捉えています。
――「parapera」を始められたきっかけや動機を教えてください。
大山:大学を卒業してしばらく写真家としての活動を模索していた時期に、自発的に作品を発表できる媒体や場所の少なさを痛感しました。
当時は貸しギャラリーというシステムがまだ残っていて、場所代を払って一週間などの期間展示をするのですが、僕も一度友人と青山のギャラリーで展示をしたことがあります。ところが、やはりというか、それぞれの知り合いにしか見に来てもらえないという結果でした。もちろんシステムのせいだけにするつもりはありませんが、こんなことを繰り返していてもだめだと感じました。
しばらくして、当時の仕事場の近くにあったハックネットという美術専門書店(2011年に代官山店は閉店)をちょくちょくのぞいていたところ、ある時期から小さくて薄い写真やイラストの本が目に付くようになったんです。それで調べたところ、スイスのNievesという出版社がアーティストとコラボレーションして作っているzineだということがわかった。分厚くて判型も大きい写真集が並ぶ中で新鮮でした。
これならコストをかけず作ることもできるし、気軽に人にあげたり、海外に送ったりもできるということで、早速自分でも作り始めました。友人や知人にzineのことを知ってもらいつつ人を集めて、ウェブで紹介、販売をしながら作品や活動を広めていくレーベルとしてスタートしました。
作品を作る以外にギャラリーのような場所を作ることにも興味があったので自然な流れでした。
――「parapera」が、“紙の本(zine)”というメディアを中心に据えて活動されている理由はなんですか。
大山:紙の本はフィジカルな経験として読み手に訴えかけます。特にセルフパブリッシングとなると、紙や製本方法の選択、編集までアーティスト自身が行うことが主で、情報以上のなにかを提供することができると思っています。
――これまでの活動で、もっとも印象深かったエピソードを教えてください。
大山:展示やイベントはいつも印象深いですが、2010年に開催したグループショー“parapera show similis”は1か月間限定公開のユーザーが編集可能なオンラインギャラリーと、24時間のみ開催の作品展示(馬喰町のギャラリー、CASHIにて開催)を併せて行いました。24時間の中には飯田橋文明というオルタナティブな場所を舞台にトークやライブパフォーマンスを行うイベントも含まれていて、変則的なイベント構成もさることながら、異なる分野の人たちとの関わり合いの中で実現できたイベントで刺激的でしたし、印象に残っています。
――自分たちの活動を、より多くの人に届けるために行っている工夫はなんですか。
大山:実物の本を手に取る機会として、東京アートブックフェアは毎年参加しています。アーティストにもブースに立ってもらっていて、直接会話することができる機会にもなっています。
それと当初から海外での販売は視野に入れていて、バイリンガルでの表記やPaypalでの決済を導入しています。
海外展開という点では、今年から「Book Storage」というプロジェクトをヨーロッパ在住の友人と始めています。「parapera」への国外からのオーダーが去年あたりから急増したこともあり、オンラインでの販売だけでなく、できるだけ現物を手にとって見て欲しいと考えて始まりました。
「parapera」だけでなく、個人的に好きな日本のインディペンデントな出版社や個人のアーティストに声を掛け、ドイツのライプツィヒで開催されたアートブックフェアに参加したことを皮切りに、今年の秋には“ヨーロッパツアー”と題して、ベルリン、フランクフルト、アムステルダム、パリの4つのアートブックフェアと2つのエキシビジョンを巡回しました。
――「parapera」の参加作家には、どのような基準で声を掛けていますか。
大山:僕の興味の対象として大きなウェイトを占めるのが写真なので必然的に写真家が多いのですが、特定の文脈に依存したり内輪的な活動にしたくないという思いもあって、色んな分野の人と関わりたいと思っています。
最近は自然な出会いに任せていて、会ったことがない方に声掛けすることはほとんどありません。
――「parapera」の本の流通ルートとして、現在の形態を選んでいる理由はなんですか。
大山:今はビジネスにはなっていないという点で共感ベースで動いています。そういった点でオンラインが適しているし、またそれが限界であるとも感じます。発信していく拠点をひとつ持つことができれば、また可能性が広がると最近は思っています。
――「parapera」の本を、どのような人たちに届けたいと思いますか。
大山:「parapera」がきっかけで作ったzineが話題になり海外で注目を集め、美術館やギャラリーでの展示を予定している友人がいます。ちょっと前にはzineドリームなんて言って笑っていたのですが、あながち夢物語でもありませんでした。作家の目線で考えれば、ひとつにはそういうことにつながるような影響力のある人たちと、もうひとつは活動を継続的に見てくれるファンの方たち。これまでのファンにはコレクションとして、新しいファンには入口として、少部数で比較的安価なzineは適していると思います。
写真や美術を目指す学生などこれからを担う人たちへも届けていきたいと思っています。
――“紙の本(zine)”というメディアや、セルフパブリッシングという活動形態の一番の弱みはなんだと思いますか。
大山:“紙の本”ということでいえばコストに尽きます。制作、流通、保管、全ての局面でコストがかかってくる。セルフパブリッシングはその点制作コストを低く抑えられるし、大抵は部数も少なく、発送や管理も比較的楽ではあります。
発信力、信頼性という点では既存の出版社が優れているでしょうね。
――“セルフパブリッシング”という土俵で活動されている、「parapera」以外での気になる団体や人がいれば教えてください。
大山:ひとつは「Booklet」。自主出版を手掛ける「Booklet press」と、国内外のセルフパブリッシングをコレクションして一般公開する「Booklet library」と二通りの活動をしています。開けた場を作っている貴重な活動だと思います。
もうひとつは「MMGGZZNN(メガジン)」。1.7×1.2メートルというやばいzineを作っています。主宰の小林健太くんは以前彼の在籍する大学で開催したワークショップを受講してくれて、それから付き合いができました。
――最後に、「parapera」の今後の展開について、可能な範囲で教えてください。
大山:出版レーベルを始めようと思い準備をしています。第一弾は「parapera」にも参加していくれている写真家の横田大輔くんの本で、来年頭のリリース予定です。
電子書籍の可能性も探っています。アートブックでいえばイギリスの出版社MACKが手掛ける電子書籍のプロジェクト「MAPP」などがあります。アートブックと電子書籍のコラボレーションに関心のある方がいらっしゃれば、ご一報いただけると嬉しいですね。
――ありがとうございました!
[independent publishers #001: parapera 了]
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