セルフパブリッシングの現在に迫るべく、Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシングなどで注目の作家にメールインタビューしていくシリーズ。第9回は『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』を出版されたセルフパブリッシング作家、十市 社(とおちの やしろ)さんです。
作品紹介
『ゴースト≠ノイズ(リダクション)上』『ゴースト≠ノイズ(リダクション)下』は、Amazon Kindleで立ち読みできます。
高校入学から七ヶ月。一人の友達もなく、1-Aの幽霊として誰からも認知されない孤独な日々を送っていたぼくは、放課後、一人の女子生徒から声をかけられる。明かりが消え静まりかえった教室。五ヶ月ぶりのクラスメイトとの会話。二学期になって頻繁に欠席するようになっていた彼女は、なんの未練があって毎日学校に来ているのか、とぼくに問いかける。
「幽霊になる前だって、この学校に――この教室に、楽しいことなんかなんにもなかったはずなのに」
彼女は答えにつまるぼくをからかい、自分が休む理由を語ろうとはしなかった。そして、ほかのクラスメイトにばれないように、来月に迫った文化祭の研究発表の準備を手伝ってくれる気はないか、とぼくに持ちかけるのだった。
そうして、ぼくたちはときどき誰もいない放課後の図書室で落ち合うようになった。孤立からくる耳鳴りに苦しむぼくと、ぼくを利用し、理由を語らず欠席を繰り返す彼女。ぼくの孤独な日常は少しずつ変化しはじめる。
そんななか、校内では連続動物虐待死事件の話題が持ちあがって――
【上巻】文庫サイズ(39文字x18行)換算で157ページ
総文字数90,242文字(改訂による誤差あり)
【下巻】文庫サイズ(39文字x18行)換算で188ページ
総文字数107,150文字(改訂による誤差あり)
著者プロフィール
愛知県出身・在住。大学在学時、イチロー・Mr.Childrenなどの活躍に触発され、何をどう取り違えたか小説を書きはじめる。2013年2月、Amazon Kindleストアにて『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』上・下巻の販売を開始。今冬、東京創元社より単行本『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』を刊行予定。
メールインタビュー
Q01・性別やご年齢、お住まいの場所、ご所属やご職業とそこで何をされているかなど、お話いただける範囲で構いませんので、十市 社さんについてお教えください。
生まれてこのかた愛知県に生息しています。3月7日生まれ。
小説を書いていること自体まだ身内や知り合いに明かしていないので、これ以上は勘弁してください。
Q02・そんな十市 社さんが、なぜ『ゴースト≠ノイズ(リダクション) 』を執筆されるに至ったのか、その動機をお教えください。
今回の話の前に書いていたものがあるのですが、その当時から、次はこういう形の話が書きたいな、という漠然とした図形が頭のなかにずっとありました。
それとは別に、当時読んだなかで、中学生が命を落としたある新聞記事がとても印象に残っていて、その二つが時間とともにゆっくりと頭のなかで混ざりあって、癒着し、徐々に今回の話の核となる部分が形づくられていきました。
こうした核は完成した話において必ずしも物語の中心に位置するわけではないのですが、その場所から作品全体にしっかり血液を送ってくれる心臓のようなものなので、最初にこの核がなければ今回の話が成立することはなかったと思います。
Q03・『ゴースト≠ノイズ(リダクション) 』の執筆には、どのくらいの期間と時間がかかっていますか。
期間としては2年から2年半ほどでしょうか。ただ、書くことと構想することが厳密には切り分けられないので、いわゆる「執筆」期間としては不正確かもしれません。
Q04・『ゴースト≠ノイズ(リダクション) 』の執筆は、一日のうちのどのような時間に、どのような環境で行われましたか。
まとまった時間をとれる日にデスクトップPCに向かっていました。アウトプット作業がもたつくと頭に浮かんだものが書きとめる前に抜けていってしまうので、物理キーボードのない環境では効率が悪く、それ以上にフラストレーションが溜まってどうにもなりません。
使用したソフトは一太郎2010です。現在も使っています。横書きのテキストエディタ等で執筆される方も多いようですが、自分の場合は横書きだと読むリズムが変わって、句読点の打ち方をはじめ様々なところに悪い影響が出てしまうので使用していません。横書きの善し悪しではなく、感覚的に自分のスタイルにはそぐわないというだけですが。
Q05・『ゴースト≠ノイズ(リダクション) 』をセルフパブリッシングするにあたって、参考にされた本やサイトなどがありましたらお教えください。
巻末でも参考書籍としてあげていますが、『アマゾン、インディオからの伝言』、『鳥のように、川のように−森の哲人アユトンとの旅』などはインディオについて取りあげるうえで非常に参考になりました。
セルフパブリッシングするにあたって、という部分では、数え切れないほどのサイトを回ってファイルの作り方や表紙の作成方法、手続きの進め方について勉強しました。
すべてはとても上げられないので下記のサイトはほんの一例ですが、非常に参考になりました。
ひまつぶし雑記帖
忌川タツヤのKindleは友達さ!
電書ちゃんねる
epub cafe
Q06・十市 社さんが作家として、影響を受けていると感じる作家や作品がありましたら、お教えください。
影響という意味では、生まれてから今までに触れてきた本すべての影響を受けていると思います。『あかんべノンタン』や『エルマーのぼうけん』にはじまり、『それいけズッコケ三人組』から『ドリトル先生ものがたり』、西村京太郎さんや赤川次郎さんの小説…小学生までに読んだものだけでも数え上げればきりがありませんが、小説を書くことを少なからず意識してから触れたものでいえば、おそらくロバート・ゴダードの初期〜中期の作品やサラ・ウォーターズの『荊[いばら]の城 上』、『荊[いばら]の城 下』、それからこれは漫画ですが、浦沢直樹さんの『MONSTER』やいがらしみきおさんの『ぼのぼの』などにも大いに刺激を受けた記憶があります。
『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』ではできるだけ話の中心付近から書きだすことを心がけたのですが、あとになって冒頭を読み返してみると、『荊の城』が意識のどこかにあったのかなと感じました。比べても似ているわけではないですし、当時は意識していたつもりもないのですが、なんとなく。真っ白な紙に向かって最初にペン先を落としたポイントが近いかな、という感じがします。
Q07・十市 社さんが、最近注目されているものやことをお教えください。
特定のジャンルに絞って何かに注目している、ということはありません。どちらかというと、普段何気なくすごしているなかで触れたり耳にしたりすることへの皮膚感覚を保つことを心がけています。
そうしているなかで感覚に引っかかってきたことが創作のヒントになったり、ときには題材そのものになったりするので、それをふまえて関連する資料なり情報なりにあたる、という順番でしょうか。
創作とまったく関係ないところでは、最近始めたことでもないのですが、オリックス時代からイチロー選手の動向は常に追いかけています。イチロー選手の発言だけを集めた書籍が出ているのですが、それは一時期自分にとってバイブルも同然でした。
あ、あとホークスファンなのですが、最近の失速ぶりはどうにかしてほしいです。
Q08・当サイトでは「これからの編集者」という連載を通じて、セルフパブリッシング時代の編集者の役割について考えています。作家としての十市 社さんにもし、新たにサポートしたいという編集者が現れたとしたら、その人に期待したい役割は何ですか。
編集者さんとの関わりというのはまだまったく未知の領域なので、何を求めるべきか、または求めるべきでないか、想像もつかないのですが、創作の刺激や手助けとなる何かを提供してもらえる存在であればありがたいだろうな、と思います。放っておくとどこまでも怠けていられる人間なので。
というか、この設問に関しては第3回の藤井太洋さんがすでにパーフェクトな回答をされているので、どうぞそちらをご覧くださいと白旗を揚げたい気持ちでいっぱいです。
Q09・『ゴースト≠ノイズ(リダクション) 』が、今後、紙の本として書店に並ぶ予定ですが、この本の隣に並べて欲しいというような本を、3冊挙げてください。
そのような想像をしたことがないので考えてみても特に思い浮かびません。すいません。
あえてあげるなら、藤井太洋さんの『Gene Mapper−full build−』と並んでいるところを一度眺めてみたいという気はします。
ただやはり、ある本があって、そこに別の本を有機的に結びつけてくれる存在が書店員さんということになると思いますので、書店員さんの経験とセンスでそれぞれの書店にあった関連づけや並べ方をしてくださるのならそれが一番だと思います。
Q10・次の作品の構想がありましたら、お話いただける範囲でお教えください。
今は小学校のあるクラスを舞台にして、ごっこ遊びを題材にした話を書いています。『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』よりはシンプルな形になる予定ですが、書き終わるまでどうなるかわかりません。
Q11・十市 社さんが注目していて、このコーナーで取り上げて欲しい、ほかのセルフパブリッシングをされている作者がいらっしゃいましたら、教えてください。
吉野茉莉さん。
Q12・最後に、このインタビューの読者の方に、メッセージをお願い致します。
今年の2月にセルフパブリッシングをはじめて、おかげさまでこのたび東京創元社より商業出版させていただけることになりました。このスピード感をあらためて振り返ると、何やら空恐ろしさも感じますが、これもひとえにどこの馬の骨ともわからない人間の作品を手に取り、感想をお寄せいただいた方々のおかげです。本当にありがとうございます。これからも温かく見守っていただければ幸いです。これからもよろしくお願いします。
また、初見の方も多くいらっしゃることと思います。ここで出会ったのも何かのご縁と諦めていただき、末長くお付き合いいただければと思います。よろしくお願いします。
どうもありがとうございました。
(了)
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