COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2017年7月「書店の在庫を取り置きできるアプリ」など

takano
鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

◇ ◇ ◇

【2017年6月26日】 自分が書いた記事ですがピックアップ。発売前の本の“ゲラ(galley:校正紙)”データを読んでその本を評価できるサービスです。主に紙の本の販促に活用できるという意味で応援したいところ。今後の鍵を握るのは、まずはコンテンツ数です(断言)。読める本が少なければ、レビューを書く人が寄ってきません。「ベータ版なので、まだ参加出版社が7社に限定されている」とは伺っているのですが、本稿執筆時点で各社数点ずつというのは寂しい。「出版社一覧」に名前が出ているのに、まだ1冊も出していない出版社もあります。どうなっているんだ……。

【2017年6月26日】 出版関係ではない方々からの「まだなかったのか!」という声を複数見かけました。はい、なかったんです。というか、「出版VAN」という出版社と取次と倉庫を繋ぐ受発注&在庫管理システムはあるのですが、取次の反対によってこれまで書店は利用できなかったそうで。次の問題は、出版社の申告による在庫ステータスがどこまで信用できるか? という点になってくるでしょう。これはそのまま、5月のまとめでピックアップした、アマゾンが日販へのバックオーダーをやめる話とも関連してきます。

【2017年6月29日】 アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長インタビュー。冒頭の「現段階で私が発表できることは何もありません」は、もはや様式美と言っていいでしょう。問題は、タイトルにもある「顧客にはショッピングの舞台裏で何が起きているか心配しないで欲しいんです。それは私たちの責任ですから。」という発言。スタンスの問題ではあるのですが、コーヒーなどで「フェアトレード」がアピールされるのとは、真逆のことを言っているように聞こえます。また、誰もがコンテンツの供給者側にもなれる時代において、そのままのスタンスでいいのか? という問題も。

【2017年6月30日】 普通株式取得と新株予約権付社債あわせて計6億円。メディバン社長の高島秀行氏(GMOクリック証券会長)の資金調達が巧みすぎます。しかしこれで、メディアドゥが投稿プラットフォーム方面にも興味があることがわかりました。私が理事長をやっているNPO法人日本独立作家同盟にも協賛してくれると嬉しいのですが(アピール)。

【2017年7月11日】 MLAとは Museum(博物館)、Library(図書館)、Archives(文書館)などのこと。MLA関係者が、著作権法第1条に掲げられた「文化の発展に寄与」という目的を忘れてしまうと、社会の発展を阻害するといった厳しい意見と、「ウィキペディアタウン」にMLA関係者はコミットしよう、という呼びかけです。例えば、パブリックドメイン資料のデジタルデータに、なぜか無意味な「All rights reserved」が表記されていたりする事例は、まだまだたくさんあります。ウィキペディアタウンのようなプロジェクトに関わることで、従来とは違った視点を持つことができるようになるかもしれません。

【2017年7月12日】 店内在庫検索までは従来もありましたが、アプリ上からそのまま「取り置き」や「取り寄せ」の依頼ができるようになったことが大きな違い。とくに「取り置き」は、近所に対応丸善・ジュンク堂書店があれば重宝することでしょう。他の書店も対応するといいんですが。

【2017年7月13日】 内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が『ネットワークビギナーのための情報セキュリティハンドブック』を電書で無料配信。記事には「アマゾンジャパンのKindleストアなど」とありますが、数えてみたら27カ所ありました。せっかくなので、『電子書籍ビジネス調査報告書2016』の「半年以内に購入したことのある電子書籍ストア(PC調査)」のランキング上位だけピックアップしてみました。それぞれのリンク先からダウンロードできます。

1位 楽天Kobo
2位 Kindleストア
3位 Reader Store
4位 honto
5位 dブック
7位 eBookJapan
8位 BookLive!
9位 BOOK☆WALKER

6位 dマガジンと10位 電子貸本Renta!には、本稿執筆時点で配信がありません。なお、スマートフォン調査だと少し順位が入れ替わり、以下の電子書店がランクインします。

4位 コミックシーモア
5位 Google Play ブックス
7位 ブックパス

【2017年7月15日】 無料公開する理由が「キャッチコピーを代わりに書いてください!」というのは、なかなかうまいプロモーションだと思います。読んだ人の感想は、視界の範囲では賛否両論。さて、売上に繋がるでしょうか? なお、無料で読める期間は7月27日までだったので、この記事が公開されるタイミングではもう読めなくなっています。興味がある方は、買って読みましょう。

【2017年7月20日】 インプレスR&Dの「著者向けPOD出版サービス」で、賞金総額100万円のコンテスト。このサービスを利用して期間中に出版した本は、自動でエントリーされます。PODはまだ競合が少ないから、いまがチャンスかも

【2017年7月21日】 岩波書店の小説作品で初の直木賞受賞。発表直後に「岩波は買い切り制度だから書店員が頭を悩ませている」といった趣旨の記事が出ていましたが、返本条件付き出荷だから頭を悩ませる必要はなかった、ことに。ただ、本稿執筆時点で電子版が存在していないのは、機会損失しているのではないかと思います。

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 7月もいろいろ興味深い動きがありました。さて8月はどんなことが起こるでしょうか。

 ではまた来月 ٩( ‘ω’ )و

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2017年7月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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出版業界気になるニュースまとめ2016

鷹野 凌 (著)
フォーマット: Kindle版
ファイルサイズ: 3334 KB
紙の本の長さ: 305 ページ
同時に利用できる端末数: 無制限
出版社: 見て歩く者 (2017/1/20)