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鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2017年6月「アマゾンが最恵国待遇(MFN)条項を撤廃」など

takano
鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

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【2017年5月30日】 昨年8月に公正取引委員会が立入検査した件の続報です。独占禁止法第19条(不公正な取引方法第12項〔拘束条件付取引〕)の規定に違反する疑いをかけられていたのですが、競合するサイトと同等の価格や品揃え出品者に保証させる「最恵国待遇(MFN)条項」をアマゾンが自発的に撤廃すると申し出て、公正取引委員会が審査を終了するというもの。
 ところで日経の今回の記事には「電子書籍など取り扱い商材の納入業者との契約を見直し」とあるのですが、公正取引委員会が発表した資料によると、今回の審査は「Amazonマーケットプレイスに出品する商品の販売価格及び販売条件」に対するもの。公正取引委員会の発表を読んでも、「Amazon マーケットプレイス参加規約(更新日:2016年5月1日)」を読んでも、これが「Kindleストア」での販売に適用されるとは読みとれません。
 どういうことなんだろう? と、公正取引委員会に問い合わせてみたところ、今回の審査で「電子書籍」は対象になっていないとのことでした。つまり、調査対象ではないけど、今後同様の疑いをかけられる可能性があるため、アマゾンが自発的に撤廃したということなのでしょう。なお、これはアマゾンに販売価格決定権のない、エージェンシーモデルの契約にだけ適用されていた条件だと思われます。関係するのは、講談社、小学館、集英社、文藝春秋、白泉社、光文社、スクエニ、岩波書店だけ。他の圧倒的多数の出版社が締結しているホールセールモデル契約の場合、販売価格を決めるのはアマゾンですから、出版社が「競合するサイトと同等の価格を保証」なんて、やりたくてもできないわけです。

【2017年6月4日】 コンビニ最大手のセブンイレブンが決算説明会で発表した、雑誌陳列スペースを狭くした新レイアウト店舗の展開を受けた解説記事。コンビニで雑誌の売り場面積が減ってる傾向は随分前からですが、セブンイレブンの資料でカテゴリー別の売上変化をみると、この10年で雑誌(コミック・書籍を含む)販売額は43%、数量は37%にまで落ち込んでおり、こういう扱いになるのも無理はない、という気がします。なお、出版物販売額(紙)のうち、コンビニエンスストアルートが占める割合は10.6%程度(出典:『出版物販売額の実態2016』)です。恐らく今後はもっと減ることでしょうから、出版物輸送危機(荷物が減っているのに配達件数が増えているため負担が大きくなっている)も考慮すると、いずれ取次が「コンビニエンスストアに雑誌を卸すのをやめる」と判断する日がくるかもしれません。

【2017年6月5日】 「強さの秘密4.チャレンジ精神」に着目。「共通本棚」の導入を検討しているようです。これは「電子書店が潰れたら読めなくなるかも」という、ユーザーの不安を払拭する方策の1つ。講談社「じぶん書店」みたいな出版社直営書店も、サービス存続という面では正直不安ですから。これまでは、例えば「BOOK☆WALKER」の「本棚連携」など、一部の企業が個別に取り組んできました。電子取次事業者が本気で取り組むなら、電子出版市場にとって画期的かつ革新的なことになるでしょう。はやく実現して欲しい。

【2017年6月6日】 「電子書店が潰れたら読めなくなるかも」という、ユーザーの不安を払拭するための別解です。ソーシャルDRMはファイルのコピーや移動に制限がないので、もし電子書店が潰れてもファイルは手元に残る仕組み。ソーシャルDRMを導入した新規電子書店は、2014年オープンのJTBパブリッシング「たびのたね」以来でしょうか。マイナビ出版単独ではなく、インプレス、かんき出版、サンマーク出版、シーアンドアール研究所、JTBパブリッシング、誠文堂新光社、三和書籍も参加しています。折しも、出版社直営でDRMフリー書籍を提供していた「ブックパブ」が利用不能になっており、代替書店としても機能しそうです。余談ですが、三和書籍とともに「ブックパブ」を運営していたシナプス[旧モバキッズ]は2月にDMM.comが買収しており、「ブックパブ」の閉鎖になにか影響しているのかもしれません。

【2017年6月6日】 Rakuten OverDrive の電子図書館システムに、新たな料金体系が追加。2013年に行われた電流協フォーラム(私が取材して記事にしています)で、アメリカの電子図書館サービスにおける貸出モデルには以下のようなものがある、という話がありました。

・Single User Model(1ライセンスで1度に1人だけが借りられる)
・Limited Number Loans Model(貸し出し回数に上限が決められている)
・Delayed Sale Model(新刊の発売から一定期間は貸し出しできない)
・In Library Check Out Model(借りるためには来館が必要)
・In Library Use Model(館内貸し出しのみ)
・“Buy it now” Botton Function(貸し出しの順番を待たずに「今すぐ購入する」ボタンへ誘導)

 今回追加された新たな料金体系はこれらとは異なり、Cost Per Circulation(CPC)。すなわち、実際に貸出されたときはじめて課金されるというもの。新興企業がこのモデルで急激に契約数を増やしており、Rakuten OverDrive も対応せざるを得なかった模様。図書館予算に優しいモデルではありますが、“Buy it now”とは相性が悪そうです。ただ、対象読者が少なくて貸出が発生するかどうかわからないような本は、いきなりライセンスを購入するのはハードルが高いわけで、CPCモデルでラインアップできるというのは出版社にとってもむしろチャンスとも考えられそうです。日本にもいずれ波及してきそう。

【2017年6月12日】 よく似たタイトル・デザインの類似本。「WiLL」と「Hanada」を思い出しました。当初、販売停止を求められていた新星出版社は「判型も含めて内容やコンセプトはまったく異なるもの」というリリースを出していたのですが、結局出荷停止に。出版業界には2匹目のドジョウを狙った類似企画がとても多いのですが、ユーザーの誤認を誘うような表紙は不正競争防止法に引っかかる可能性がありそうです。

【2017年6月14日】 初報の毎日新聞と、後追い解説の弁護士ドットコムを2本セットで。強制わいせつの疑いで逮捕された男が、違法アップロードされた成人向け同人誌(マンガ)の影響を受けたと供述し、埼玉県警が作者の元へ訪問して「作品内容が模倣されないような配慮」を求めたという話。作者曰く「穏やかな話し合い」だったようで、どうも警察発表に基づく報道と実態には若干乖離があるようです。性犯罪被害、違法アップロード、表現の自由と、さまざまな問題が絡んだ事件です。私見ですが、仮に作品から何かしらの影響を受けたとしても、犯罪を実行した輩が100%悪いと考えます。

【2017年6月16日】 「dマガジン」と「dマガジン for Biz」をリアル書店が販売促進する実証実験。私は「dマガジン for Biz」が登場したときに「書店に必要な、新たな商材」という記事で、リアル書店は読み放題サービスを敵視するのではなく商材の1つにすべきだと提案しましたが、実際にそういう方向へ進みつつあるようです。ただ、個人向けの販促も同時に行うのは予想外でした(個人向けは月額400円+税なのでマージン単価が割に合わないと思っていました)。この記事からはマージンの支払いルールが読みとれないのですが、雑誌は毎週・毎月発行され、読み放題の契約も毎月継続していくわけですから、マージンも入会時のみではなく毎月支払われる形が自然かなと思うのですが、実際のところはどうなんでしょうか?

【2017年6月19日】 私の周辺では、主に著者側がザワザワしていた記事。もし、出版社や取次・書店が売上数字を誤魔化していたとしても、著者が把握する術がないという心配によるものです。昭和40年代ごろまでは、誤魔化せないよう著者が1冊1冊「検印紙」を貼っていました(「印税」の語源)。紙は取次が公共インフラ的になっていて信頼性を担保していますが、新興市場である電書はどうなのか。著者の不安を解消するには、アマゾンの「Kindleダイレクト・パブリッシング」の販売レポートや「著者センター」みたいな、著者がほぼリアルタイムで販売状況を把握できる仕組みを、メディアドゥみたいな電子取次に提供してもらうのがいいのでは、と思うのですが。不安解消だけではなく、販売促進策に対しどれだけ成果が得られたかをすぐ把握してさらなる販売促進に繋げる、という意味でも。

【2017年6月22日】 ファクトチェックの推進と普及を目的とした団体「ファクトチェック・イニシアティブ」の設立に関する記事を2本まとめてピックアップ。スマートニュースは「ファクトチェック情報のオープンデータ化とシステム間連携を提供」するものの、団体そのものは「ファクトチェッカーにはならない」とのこと。あくまでプラットフォームだ、というわけです。
 ジャーナリスト亀松太郎さんは設立会見で、ファクトチェックを推進している企業(スマートニュース)が「まとめ」タブを提供しているのは問題ではないのか? という趣旨の質問をして記事にまとめています。スマートニュース執行役員の藤村厚夫さんの回答を要約すると「3段階の内容チェックを行っている(ただし完璧ではない)」というもの。日本報道検証機構代表の楊井人文さんも「まとめサイトがすべてダメというわけではない」という趣旨の擁護姿勢。この質問は非常に良いと思うのですが、例示している「ぶる速-VIP」の記事の場合は、東京スポーツの記事の「全文を転載する形で作られている」わけで、それって著作権侵害じゃないの? という強い疑義があります。そこも突いて欲しかった。いわゆる「まとめ」サイトの問題は、剽窃のほうが大きいのではないでしょうか。

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 6月もいろいろ興味深い動きがありました。さて7月はどんなことが起こるでしょうか。

 ではまた来月 ٩( ‘ω’ )و

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2017年6月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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出版業界気になるニュースまとめ2016

鷹野 凌 (著)
フォーマット: Kindle版
ファイルサイズ: 3334 KB
紙の本の長さ: 305 ページ
同時に利用できる端末数: 無制限
出版社: 見て歩く者 (2017/1/20)