鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。
2015年6月26日 6月のまとめが公開された次の日のニュース。取次4位の栗田出版販売が民事再生手続きに入り、3位である大阪屋との統合を目指すそうです。債権者説明会は「返品問題」でかなり紛糾した模様。「片面的解約権(返品権)付売買契約」という言葉、恥ずかしながら私は知らなかったのですが、取次流通は本来の意味での「委託販売」ではないのですね。取次が破綻した場合、書店は別の取次へ帳合変更すれば済むのですが、出版社は債権放棄とともに返品で相殺入帳しなければならず、ダブルパンチ。このままでは出版社の連鎖倒産が相次ぐのではないか? という噂も。出版(納品)さえすれば売上になり後から返品としてのしかかってくるという、ある意味金融的なシステムが既に限界にきているということなのでしょう。詳細はEBook2.0 Magazineの『栗田倒産が起動した「業界」解体のシナリオ』が詳しいです。
2015年6月29日 インプレス総合研究所の『電子書籍ビジネス調査報告書』が今年も出ました。ちなみに2014年前後の年間売上で公開されている数字(多少期間が前後しますが、概算も含まれるため誤差の範疇ということでご勘弁を)としては、「めちゃコミック」のアムタスが10カ月で100億円突破なので概算117億円、取次メディアドゥの電子書籍売上が70億円なのでLINEマンガなどの取引先電子書店の粗利を30%とすると100億円(取引先を見る限り重複はないはず)、BookLive!が89億円、パピレスが84億円、eBookJapanが51億円で、合計441億円。つまり、公開されている数字およびその概算だけで、電子出版市場1411億円の31.3%です。さて、なかなか詳細な数字を明かさない秘密主義企業であるAmazonの、Kindleストア売上はどの程度なのでしょうか?
2015年7月1日 記事中にもありますが、国際電子出版EXPOの開催は今年が最後。来年からは東京国際ブックフェアに統合されます。昨年と比べても、楽天(Kobo)、パピレス(Renta!)、凸版印刷(BookLive!)が出展していないという、電子出版的にはちょっと寂しいEXPOだったので、もう致し方ないのかなという感じが。さらに、東京国際ブックフェアは9月に日程が変更され、全期間一般向けになります。法人向けサービスを提供している企業は、来年から出展が難しくなることでしょう。もしかするとコンテンツ東京の「制作・配信ソリューション展」辺りが受け皿になるのかもしれません。
2015年7月1日
2015年7月24日 ちょっとイレギュラーですが、2本まとめてピックアップ。「BooksV」は、大日本印刷(DNP)グループの書店で利用できるhontoポイントで購入全額を補償。「BookLive! for Toshiba」は、購入済みコンテンツやポイントはそのまま「BookLive!」で利用できる形。どちらもなるべくユーザーに不満が出ず、「電子書籍」に対する不安や不信を与えない幕引きになっています。
2015年7月6日 マニアックなニュースですが、あえてピックアップ。去年の東京国際ブックフェア凸版印刷ブースには、プロトタイプが出ていました。6月のまとめで取り上げた講談社×NECの「スマート・ソース・エディター(SSE)」と同じようにレイアウトソフト(InDesign)から脱却し、ワンソースから紙と電子を同時に、しかもローコストで制作することを目的としたクラウドサービスです。「2020年度までに関連受注を含めて100億円の売上を目指す」というのは、かなり強気だなという気もしますが。
2015年7月14日 コンテンツは「FeBe」のオトバンクが提供しています。日本オーディオブック協議会によると、日本のオーディオブック市場は約50億円ですが、アメリカは1600億円。日本も900億程度まで成長する余地があるという予測をしていました。AudibleはAmazon傘下ということもあり、日経は「アマゾンの参入で市場が大きく成長する可能性」という取り上げ方をしていますが、いきなりサブスクリプション型で月額1500円というのはどうなんでしょう? なお、ソニーの定額制音楽配信サービス「Music Unlimited」が、当初月額1480円でした。後に値下げして980円になりましたが、結局うまくいかずに3年で撤退しています。
2015年7月16日 残念なニュース。ほとんどの電子書店がクラウド本棚型になっており、購入済みのコンテンツは配信停止後も閲覧可能なのは救いですが。今年の1月に『週刊少年マガジン』が電子化された際、『はじめの一歩』は掲載が見送られていますが、作者の森川ジョージ氏がその直前にFacebookで「単行本の電子配信も契約満了をもって終了する」旨を投稿してたことを、後から知りました。紙を前提とした見開き表現が電子化で活かされないのと、電子の印税率が低い点を理由として挙げています。うーん、残念。『ナニワ金融道』は青木雄二プロダクションが著作権管理をしているので、恐らく版元が変わるだけだと思うのですが。
2015年7月16日 受賞者の方々、おめでとうございます。『文學界』は電子化されていないので『スクラップ・アンド・ビルド』は紙でしか読めませんが、『火花』と『流』は電子化されているので各電子書店が「すぐ読めます!」とアピールしていたのが印象的でした。『火花』の紙は発行部数144万部、電子は実売ベースで7万5000ダウンロードとのこと。実売ベースですぐに情報が分かるのは一部の電子書店だけなので、実際は電子ももっと売れていると思われます。
2015年7月23日 日本国内で電子ペーパーの新機種を出し続けているのはAmazonと楽天Koboだけという状況なので、ピックアップせざるを得ません。販売価格的には12800円+電子書籍クーポン2000円分なので、新型「Kindle Paperwhite」広告付きプライム会員向け価格1万280円とガチンコ勝負。発売中3モデルがきっちり松竹梅になっているのも同じ。「microSDカードスロットがないのが残念」という声がチラホラ。いわゆる「自炊」リーダー用途に使いづらくなってしまった、ということでしょう。
2015年7月28日 ニューヨークで文芸エージェントとしてご活躍中の、大原ケイ氏によるコラム。『複数の米作家団体+書店組合が司法省に陳情「独禁法違反の疑いでAmazon社を調査してほしい」』という記事を受けての内容です。米司法省が5年前にAppleと大手出版社5社を反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴したとき調査依頼をしたのがAmazonだったということで、今回の件を「当然のしっぺ返し」と見ている方もいる様子。なお、Appleは控訴審でも敗訴しましたが、恐らく上告するものと思われます。
7月もいろいろ興味深い動きがありました。さて8月はどんなことが起こるでしょうか。
ではまた来月(=゚ω゚)ノ
[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2015年7月 了]
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