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鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2017年3月「出版デジタル機構がメディアドゥの傘下に」など

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

◇ ◇ ◇

【2017年2月28日】 ビットウェイの取次事業を出版デジタル機構が吸収したとき以来の衝撃M&A。電子取次業界1位を2位が飲み込む形です。昨年7月の東洋経済には、こんな記事がありました。

    電子書籍市場全体に対し、電子書籍取次の市場規模は6割程度の1200億円程度と推測される。メディアドゥは電子書籍取次で「3強」といわれる大手3社の一角を占めており、約1割のシェアを握り、業界2位。最大手は出版デジタル機構(2016年3月期の売上高146億円、営業利益6.2億円)

    電子書籍取次「メディアドゥ」、急成長の秘密」(2016年07月31日、東洋経済オンライン)より

 改めて考えてみると、この「電子書籍取次の市場規模は6割程度の1200億円程度と推測」というのは、大手出版社が電子書店と直接取引しているケースが多いことを考えると疑問符を付けたいところ。1位146億円、2位112億円。それ以外で約900億円? 3位はモバイルブックジェーピーだと思いますが、他の電子取次の売上をかき集めてもそんなにあるとは思えないのですが……。
 なお、産業革新機構の出資額は「最大150億円」と発表されていましたが、実際の出資額は公開されていません。官報によると第1期決算公告(2013年3月期)の株主資本は71億2000万円(資本金39億2800万円、資本剰余金36億0400万円、利益剰余金マイナス4億1100万円)。2015年9月には、発行済み株式の39.4%を出版デジタル機構自身に売却しています。第4期決算公告(2016年3月期)では当期純利益7.75億円と黒字転換。今回、80億円でメディアドゥに売却。産業革新機構としてもいい出資だし、メディアドゥとしてもいい買い物だったのではないでしょうか。

【2017年3月1日】 2016年に一般ユーザー向けイベントに変わった「東京国際ブックフェア」が、今年は休止。ちなみに、主に企業向けイベントの「コンテンツ東京」は6月28日~30日開催です。今年は東ホール。電子出版系は「コンテンツ 配信・管理ソリューション展」に。「クリエイターEXPO」には、今年も知人友人が何人か出展するみたいです。

【2017年3月1日】 ちゃんと権利処理されたマンガのコマをブログなどに貼れるサービス。マウスオーバーで作品購入へと誘導を図り、著者や出版社にしっかりメリットが返せるようにしたというところが素晴らしい。対応するマンガがもっと多くなるといいのですが。

【2017年3月7日】 宅配便の9割が、基本契約から割引されている法人契約というのは知らなかった。値上げ交渉は、取引停止も辞さない覚悟じゃないと難しいでしょう。アマゾンは昨年4月に全品送料無料を廃止していますが、プライム会員になれば引き続き無料でした。ただ、一般会員でも書籍の送料は無料でしたが、今後はどうなることか。アマゾンが値上げを飲む代わりに、プライム会員の料金を値上げする、ということもあり得そう。アメリカに比べると、日本のプライムは安すぎるんですよね。

【2017年3月9日】 これは期待。開発・運営は、講談社とメディアドゥの共同。「Amazonインスタントストア」との類似性を挙げる人がいますが、これは実質出版社直営というのが大きな違い。同じくKADOKAWA直営のBOOK☆WALKERにも「紹介プログラム」というのがあります(3%だけど)。いまKindle本のアフィリエイトが8%なので、10%アフィリエイトというのは狙ってる感。メディアドゥには集英社や小学館も出資しているので、横展開もあり得る気がします

【2017年3月16日】 結論は「著作物」ではないので保護対象ではない、です。人が直接関わっていないなら、どれだけ優れた創作物であっても、現行の著作権法第2条1項「思想又は感情を創作的に表現したもの」に相当しないのです。このままだと、パブリックドメインの優れた創作物が全自動で量産される未来が。

【2017年3月15日】 DeNAが3月13日に発表した第三者委員会報告書(PDF)を受けての、かなり踏み込んだ批判記事。執行役員の村田マリ氏とペロリ代表の中川綾太郎氏が役員を引責辞任し、恐らく退職せざるを得ないと言われている中、本来すべての責を負うべき守安功社長は減給だけ。

【2017年3月18日】 「MERY」の中の人による生々しい匿名独白。むしろ被害者意識を持っているというのがすごい。仕事がなく自宅待機を命じられ、お昼ごろ起きるような生活をしながら、給料はまだしっかり払ってもらっていることへの感謝もなく、むしろDeNAへの恨み節。転職活動中だというのに、こんな記事が出たらマイナス評価になるとは思わなかったのか。むしろこういう意識の集団だから、ああいう結果になったのか。

【2017年3月21日】 徳間書店がCCC傘下に。これまで子会社のカルチュア・エンタテインメントが株式の15%を持っていたのが97%に。残り3%が気になります。なお、カルチュア・エンタテインメントはCCCグループ内で出版・コンテンツ事業を手掛けており、傘下にはトップ・パートナーズ、CCCメディアハウス(旧阪急コミュニケーションズ)、ネコ・パブリッシング、復刊ドットコム、美術出版社などがあります。

【2017年3月22日】 直接取引している出版社の倉庫に、今後はアマゾンが直接集荷に行くとのこと。所沢に新設された「アマゾン納品センター」の機能です。業界関係者の「むかしはトーハンや日販も、出版社まで集荷に来てくれたんだけどね……」という述懐が印象的でした。リスク軽減のため初版部数を抑えることで、地方都市の書店までなかなか本が行き届かない問題が如実になっており、通販シェアの拡大と、取次飛ばし、書店の淘汰が加速しそうです。

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 3月もいろいろ興味深い動きがありました。さて4月はどんなことが起こるでしょうか。

 ではまた来月 ٩( ‘ω’ )و

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2017年3月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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紙の本の長さ: 305 ページ
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出版社: 見て歩く者 (2017/1/20)