COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2016年11月「権利者団体が“柔軟な権利制限規定”に反対」など

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などのコメントをしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

◇ ◇ ◇

【2016年10月24日】 日本新聞協会以外に、日本映画製作者連盟、日本書籍出版協会、日本音楽事業者協会、日本雑誌協会、日本民間放送連盟、日本レコード協会が同時に反対声明を出しています。内閣に設置された機関である知的財産戦略本部が今年の5月に発表した「知的財産推進計画2016」に対する反対意見ということになるのでしょう。「個別の権利制限規定」は、積み重ね過ぎて複雑怪奇な状態になっています。理解できない、守られない条文には意味がありません。著作権法を、誰もが理解できる法律に、そろそろリビルドする必要があるように思います。詳細はシミルボンで解説記事を書きましたので参考にしてください。

【2016年10月26日】 ついにAmazon PODが誰でも利用できるようになりました。Amazon規格のPDFさえ用意できればOK。1年前にインプレスR&Dを取材したときには『できない言い訳』を並べる出版社に対する苛立ちすら感じるようなコメントもあったので、いずれこうなるだろうなという予想はしていましたが。

インプレスR&D 著者向けPOD出版サービス トップページより(スクリーンショット)

インプレスR&D 著者向けPOD出版サービス トップページより(スクリーンショット)

【2016年10月29日】 2013年にKADOKAWA、講談社、紀伊國屋書店が出資して設立された日本電子図書館サービス(JDLS)に、大日本印刷も出資することになったそうです。大日本印刷グループの図書館流通センター(TRC)が展開している電子図書館「TRC-DL」は、日本の公共図書館ではもっとも導入数が多いサービス。コンテンツホルダーとの提携でラインアップを拡充し、サービスの魅力を増し、更なる普及拡大を図ることが狙いでしょう。記事でやたらと強調されている「ラノベ」は角川つばさ文庫や講談社青い鳥文庫のことかな? と思っていたのですが、図書館総合展の展示でラインアップを確認したら『Re: ゼロから始める異世界生活』などメディアファクトリーのラノベが結構たくさん入っていて驚きました。詳細はシミルボンで解説記事を書きましたので参考にしてください。

JDLSが提供する電子図書館サービス「LibrariE(ライブラリエ)」トップページ(撮影:筆者)

JDLSが提供する電子図書館サービス「LibrariE(ライブラリエ)」トップページ(撮影:筆者)

【2016年10月31日】 ドリームネッツ → キングジム → 学研ブックビヨンドと渡り歩いた「wook」をリニューアルするのではなく、新サービス立ち上げです。「wook」はEPUB 2までの対応で、EPUB 3には非対応でした。お知らせには「wook」の年内終了と、「Beyond Publishing」が受け皿になる旨が記載されています。月額9500円というのは「wook」の料金体系を継承していますが、料率75%といえどちょっと個人で利用するのは難しい額。読み放題プランが作れるなど機能的にはいろいろ優れているので、主なターゲットは営利企業(出版社)ということになると思われます。

「Beyond Publishing」のウェブサイトより(スクリーンショット)

Beyond Publishing」のウェブサイトより(スクリーンショット)

【2016年10月31日】 いろいろモヤッとする対談。「週刊文春」が読み放題なのは現時点で「dマガジン」だけなので、「たとえば雑誌読み放題サービスなんかは、うちも一刻も早くやめるべきだと思っているんです」という発言は、実質「dマガジン」を名指ししているわけです。docomoとの関係は大丈夫? と心配になってしまいます。まあ、「週刊文春デジタル」ですら「ニコニコチャンネル」というプラットフォームに依存しているわけで、そういう意味ではタイトルの「流通を制する者がメディアを制す」というのは正しい認識とは思うのですが。

ニコニコチャンネル「週刊文春デジタル」トップページより(スクリーンショット)

ニコニコチャンネル「週刊文春デジタル」トップページより(スクリーンショット)

【2016年11月2日】 Amazon社員のミッションは「世の中にあるリアルショップをすべて無くすこと」だというのですから(真偽は不明ですが)、どうやって共存するの? と興味を惹かれた記事。アメリカでは、独立系書店が推薦した本が売れて話題になると、「売れる本」を仕入れるAmazonまで波及するから、出版社は独立系書店に多くのプロモーションコストを払う、とのこと。つまり、独立系書店の役割はまだ売れていない本に火をつけること、Amazonや大型書店の役割は売れている本をもっと売れるようにすること、という役割分担ができているということなのでしょう。ソースは『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(西日本新聞社)に収録された、文化通信社取締役編集長の星野渉氏の発言です。詳細はシミルボンで解説記事を書きましたので参考にしてください。

【2016年11月8日】 EPUBの国際標準化推進団体であるIDPFが、ウェブの国際標準化団体W3Cとの統合へ向けて動いています。両団体には年会費で10倍の差があるそうで、IDPF会員が辞めてしまうことによるEPUBの弱体化を懸念する声もあったのですが、計画は承認されました。HTML+CSSという共通の技術を用いているわけで、自然な流れといえるでしょう。

【2016年11月22日】 本稿執筆時点で、日本ではTPP承認議案が衆院で可決、参院で議論中という段階。しかし、改めて就任初日に離脱通告とトランプ氏が明言したことで、TPPの命運は尽きたように思えます。著作権保護期間延長や非親告罪化に反対していた方々は、ホッと胸をなで下ろしていることでしょう。ところが、トランプ氏は「日米自由貿易協定(FTA)など2国間での通商協定を目指す」方針のようで、今後の交渉次第では日本にとってTPPより悪い条件になる可能性もあります。

【2016年11月22日】 思わず「キタ━(゚∀゚)━!」と叫んでしまいました。2017年前半に予定されているWindows 10のメジャーアップデートで、標準ウェブブラウザ「Edge」にEPUBビューワ機能が追加される見込みに。これまでWindowsには標準のEPUBビューワが存在せず、非常に不便な思いをしていました。現時点でのバージョン別普及率では4割近くにまで達しており、これでEPUBが一気に一般ユーザーにも身近なフォーマットになることでしょう。やった! 縦書き日本語がちゃんと表示されることを祈りつつ……。

Windows Experience Blogより(スクリーンショット)

Windows Experience Blogより(スクリーンショット)

【2016年11月24日】 日本書籍出版協会の文芸書小委員会から、全国約2600館の公共図書館館長宛に、文芸書の取り扱いについて配慮を求める異例の要望書を送ったとのこと。日本書籍出版協会が2003年に日本図書館協会と一緒に調べた「公立図書館貸出実態調査(PDF)」では、人口比で過度な複本購入があるとはいえないという結論になっていたはずなのに、今回また「過度な購入」というのはなぜなのか。印象論ではなく、正しい実態が知りたいです。まずは、調査をやるのが先決では。詳細はシミルボンで解説記事を書きましたので参考にしてください。

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 11月もいろいろ興味深い動きがありました。さて12月はどんなことが起こるでしょうか。

 ではまた来月 (๑•̀ㅂ•́)و✧

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年11月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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