COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2016年12月「出版業界気になるニュース2016年回顧」

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。今回は年末ということもあり、2016年の出版業界を振り返ってみます。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、著しく電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

今年9月に行われた第23回東京国際ブックフェア 会場風景(撮影:筆者)

今年9月に行われた第23回東京国際ブックフェア 会場風景(撮影:筆者)

年初にはこんな予測をしていた

 まず、私が年初に予測していた2016年の動きについて。簡単にまとめると、以下の5つです。

(1)雑誌のウェブ化が進む
(2)新書・文庫がデジタルファーストに
(3)サブスクリプションが急速に伸びる
(4)電子書店の吸収合併が相次ぐ
(5)投稿型プラットフォームがさらに増える

(1)雑誌のウェブ化は進んだ?

  簡単に言えば、「稼げるほうへ移行するしかない」という予測です。実際、講談社「クーリエ・ジャポン」のように紙媒体を休刊し、ウェブマガジンへ移行するところも増えています。電通が2月に発表した「2015年 日本の広告費」によると、雑誌広告費が2443億円(前年比97.7%)なのに対し、インターネット広告媒体費は9194億円(同111.5%)です。
 雑誌には、販売による売上もあります。出版科学研究所による2015年の雑誌推定販売額は、7801億円(同91.8%)でした。調査母体が異なるので少し荒っぽいですが、単純に合計すると雑誌広告費+販売額は1兆244億円。2015年の時点で既にインターネット広告媒体費は、雑誌が稼ぎ出す売上にかなり近づいていたのです。
 出版科学研究所による2016年の雑誌推定販売額は約7200億円(同92.3%)。とうとう書籍の約7300億円を下回ることになりました。本稿執筆時点ではまだ広告費の推計は出ていませんが、インターネット広告媒体費の増加率と、雑誌広告費と販売額の減少率を考えると、逆転する可能性が高いです。つまり、今後は名実ともに「雑誌よりインターネットのほうが稼げる時代」になるのです。ただし、ウェブメディアが「儲かる」かどうかは、意見の分かれるところでしょう。

 2016年のウェブメディアのトレンドを振り返ると、Facebookの「Instant Articles(インスタント記事)」やGoogleの「Accelerated Mobile Pages(AMP)」など、スマートフォンの普及に対応するモバイル高速化施策が相次ぎました。
 インターネットの利用状況をモニタする専門企業 StatCounter が発表したレポートによると、モバイルからのインターネット利用は2016年10月にとうとうデスクトップを追い越しています。Googleは、モバイルでの検索結果にAMP対応ページを優先表示したり、「モバイルファーストインデックス」を行っていく計画も発表されています。今後ますます、モバイルが重要になっていくことは間違いないでしょう。モバイルに対応していないメディアは、多くのユーザーを失っていると認識すべきです。

 一方、こういったトレンドに水を差すような事件も起きています。アメリカ大統領選挙における捏造ニュース問題や、DeNAの医療情報サイト「WELQ」に端を発したキュレーション・サービスによる不適切な記事の大量生産と検索結果汚染問題、電通がトヨタにインターネット広告で過剰請求していた問題、同じく電通のインターネット広告を担当し自殺した元社員が過労死認定された事件などです。もっとも、ニュースの捏造や剽窃といった問題は、既存の出版業界でも以前から頻発していること。他山の石どころか、我がこととして捉えるべき問題でしょう。

(2)新書・文庫はデジタルファーストになった?

撮影:d'n'c[CC BY-SA 2.0]

撮影:d’n’cCC BY-SA 2.0

 新書の粗製濫造傾向と、単行本の発行後に普及用の廉価版として文庫を出すモデルが、そろそろ限界にきているだろう、というところからの予測でした。「束を確保するために無理矢理内容を薄めて話を引き延ばしている」といった話もあります。発行点数の増加は、書店の棚を圧迫し返品率を増やすだけです。「読み捨て」でいい読者は電子版へ誘導し、コレクターには上質な装丁版を、という形に切り分けが進むと考えたのです。
 ワンソース・マルチユースな書籍制作支援クラウドサービス「TOPPAN Editorial Navi」や、出版デジタル機構のコンテンツ製作支援ソリューション「Picassol」など、ツールはいろいろ登場しました。しかし、2016年の段階ではまだ、デジタルファーストが浸透しているとは言えそうにありません。紙と電子を同時に発行するサイマル配信は、マンガではかなり拡大しました。しかし、書籍に関してはまだ、紙を作ってから電子を作る制作が主流のようです。
 取次中堅の太洋社が破産するなど、取次のビジネスモデルもかなり厳しくなっています。太洋社の「もはや万策が尽きた」というリリースは、非常に印象的でした。大手取次のトーハンと日販による帳合書店の争奪戦もますます激しくなっています。刷部数で入金する取次の金融機能を利用した自転車操業はそろそろ限界でしょう。2017年は、否が応でもデジタルファーストに取り組まざるを得ない状況になっていくものと思われます。

(3)サブスクリプションは急速に伸びた?

Amazon「Kindle Unlimited」(スクリーンショット)

Amazon「Kindle Unlimited」(スクリーンショット)

 2015年6月に「dマガジン」がサービス開始から1年で会員200万人を突破し、出版社から「儲かるようになってきた」という声が聞かれるようになっていました。Amazonの読み放題サービス「Kindle Unlimited」がそろそろ日本でも始まるという噂もあり、急激に普及が進むであろうという予測をしました。
 実際、3月には「dマガジン」が会員300万人を突破。10月には法人向けプラン「dマガジン for Biz」も発表されました。危機感を覚えた書店側から名指しで問題提起されるほどの勢いです。8月には「Kindle Unlimited」と「楽天マガジン」が相次いでスタート。10月には子供向けの「学研図書ライブラリー」が、12月には KADOKAWA のマンガ誌を中心にラインアップした「マガジン☆WALKER」が始まるなど、ジャンルを絞った読み放題サービスも次々登場しています。この傾向は今後もしばらく続くでしょう。
 しかし、「週刊文春」の編集長が「雑誌読み放題サービスなんかは、うちも一刻も早くやめるべきだと思っているんです」と発言するなどの状況を見るに、読み放題サービスの隆盛をよく思っていない出版業界関係者も少なくないように思います。また、講談社が「Kindle Unlimited」から一方的に排除され、Amazon に抗議したような事例もありました。「景品表示法や不正競争防止法に違反する疑いもある」という指摘もあります。今後は、学研やKADOKAWAのように、自社で直接やる形が増えていくかもしれません。

(4)電子書店の吸収合併は相次いだ?

電子書籍作成・販売プラットフォーム「パブー」トップページ(スクリーンショット)

電子書籍作成・販売プラットフォーム「パブー」トップページ(スクリーンショット)

 電子書店の数はどう考えても多すぎるため、私は以前から、今後淘汰が進むであろうと思っています。ただし、単純に閉鎖するのではなく、2015年に起きた「BookLive! for Toshiba」が「BookLive!」に統合された事例や、東芝の「BookPlace」がU-NEXTへ事業継承された事例のように、ちゃんとユーザーを救済する形での吸収合併が進むであろうと予測をしました。
 2016年に起きた事例としては、ヤフーが「eBookjapan」のイーブックイニシアティブジャパンを子会社化したことと、大日本印刷グループで「honto」を運営しているトゥ・ディファクトがセルフパブリッシングの「パブー」をブクログから事業継承したことなどが挙げられます。吸収合併や事業継承の動きは思っていたより少なかった、というのが正直なところです。

(5)投稿型プラットフォームは増えた?

「カクヨム」トップページ(スクリーンショット)

カクヨム」トップページ(スクリーンショット)

 「E★エブリスタ」「小説家になろう」「アルファポリス」「comico」などの成功事例を踏襲し、ウェブやアプリで人気の出た作品を紙で売るやり方がスタンダードになっていくだろうという予測。IT企業と出版社による「売れる作家」の争奪戦です。
 目立った動きとしては、2月にKADOKAWAの「カクヨム」が正式オープン、10月に幻冬舎がpixivと組んで始めた文芸小説の投稿サイト「ピクシブ文芸」などが挙げられます。集英社「少年ジャンプ+」の連載グランプリのような継続的な活動が、なかなかニュースにならないもどかしさも感じます。
 そういう意味で、「トキワ荘プロジェクト」を運営するNPO法人NEWVERYが始めた、マンガの持ち込み・投稿・新人賞ポータルサイト「マンナビ」のような、情報を集約・提供する動きが見られたことは喜ばしいことだと思います。

その他大きな動き

 その他、2016年の重要なトピックスとして、以下のニュースを挙げておきます。

電子書籍(デバイス/コンテンツ)
 ▶米最高裁、アップルの上訴退ける–電子書籍の価格操作めぐる訴訟 – CNET Japan ※3月8日
 ▶“西尾維新デジタルプロジェクト”始動 一挙電子書籍化、30週以上連続で次々配信 – アニメ!アニメ! ※5月6日
 ▶W3C、EPUBの開発組織IDPFとの統合を検討 – INTERNET Watch ※5月11日
 ▶電子コミック「11円」セールで売り上げ3億円超 トップ作家に印税1億3000万円 「常識打ち破る数字」 – ITmedia ニュース ※5月27日
 ▶Edgeが電子書籍ファイルのEPUBに対応。Paint 3Dプレビューも搭載 ~Windows 10プレビュー版「Build 14971」公開 – PC Watch ※11月18日

図書館
 ▶図書館流通センターやボイジャーなど4社、視覚障がい者向け電子図書館システムを開発 – INTERNET Watch ※5月16日
 ▶電子図書館、ラノベ・新刊充実か 大日本や講談社提携へ – 朝日新聞デジタル ※10月29日

著作権
 ▶「自炊」代行は著作権侵害 最高裁で確定 – ITmedia ニュース ※3月17日
 ▶新聞協会:柔軟な著作権制限「反対」 米国型規定 – 毎日新聞 ※10月25日
 ▶トランプ氏、TPP「大統領就任初日に離脱通告」 – 日本経済新聞 ※11月22日

書店
 ▶アマゾンに立ち入り検査 公取委、独禁法違反の疑いで – 朝日新聞デジタル ※8月8日
 ▶ブックオフ、止まらぬ「中古本離れ」でピンチ – 東洋経済オンライン ※8月30日

その他出版社の動きなど
 ▶日本マンガの英語出版事業買収 KADOKAWA、米大手から – 日本経済新聞 ※4月11日
 ▶Amazon.co.jpで誰もが無料で紙の書籍を出版できる「著者向けPOD出版サービス」、インプレスR&Dが開始、5000円でISBN付与も可能 – INTERNET Watch ※10月26日

  2016年もいろいろ興味深い動きがありました。さて2017年はどんなことが起こるでしょうか。

 ではまた来年٩( ‘ω’ )و

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年12月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


PRODUCT関連商品

クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本

鷹野 凌 (著), 福井 健策 (監修)
単行本(ソフトカバー): 144ページ
出版社: インプレス
発売日: 2015/4/24