COLUMN

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ

鷹野凌 今月の出版業界気になるニュースまとめ
2016年8月「Kindle Unlimited、楽天マガジンほか読み放題サービス続々登場」など

takano
 鷹野凌が毎月お届けする、出版業界気になるニュースまとめ。10本のニュースをピックアップし、理由、経緯、感想、ツッコミ、応援などをコメントしています。なお、ピックアップは鷹野の個人的興味関心に基づくため、かなり電子出版関連に偏っています。あらかじめご了承ください。

◇ ◇ ◇

【2016年7月29日】 とうとうリアル書店側から名指しで問題提起されるようになりました。毎月1万5000円以上雑誌を購入していた美容院が「dマガジン」へ移行してしまったのが衝撃、との談です。後述しますが、今月始まった「Kindle Unlimited」や「楽天マガジン」のラインアップを調査してみて、「リアル書店はますます厳しくなるだろう」と思わざるを得ませんでした。定期刊行され基本的に読み捨て(フロー)される雑誌は、読み放題サービスと非常に相性が良いように思います。構図を単純化すると「同じ商品を扱う小売業同士の顧客の奪い合い」ですから、出版社としては「もっと危機感を」と言われても困ってしまうのではないでしょうか。

【2016年7月31日】 同人誌の電子化について、あまりに無邪気すぎてゾッとしたのでピックアップ。スクリーンショットによる不正な複製や、頒布価格に対する意識の変容などが問題点として挙げられていますが、二次創作同人誌の電子化は権利者との関係で問題が起きる可能性が高くなるという観点が抜けているところが危ういと感じました。例えばクリプトン・フューチャー・メディアは「初音ミク公式ブログ」で、以下のような声明を出しています。

    個人のクリエイターの方による、弊社キャラクターを用いた物品の、非営利目的で、原材料費を回収する目的で対価を徴収する、対面での大規模とはいえない数量の譲渡につきましては、すでに定着した「同人文化」を応援する目的、およびファンの皆様の交流を促進する目的から、弊社の申請システム「ピアプロリンク」へのご申請をしていただくよう、お願いを申し上げております。
     これに対し、個人のクリエイターの方による、デジタルデータのダウンロード販売につきましては、理論的には大規模の頒布を極めて低廉なコストで行えることから、弊社としては上記の目的に合致しないため、原則としてご許諾をいたしておりません
    デジタルデータのダウンロード販売に関しまして – 初音ミク公式ブログ(2012年2月20日/太字は編集部)

 もちろん権利者によってこのあたりの見解は異なりますが、限界費用がゼロに近いデジタルデータの頒布は、紙の頒布とわけが違うということは頭に入れておくべきでしょう。

【2016年8月2日】 先月のまとめでも取り上げた雑誌時限再販の大規模テストが、8月1日から開始されました。値引き対象の雑誌が売れたら、出版社が書店に100円バックする形とのこと。直後に「Kindle Unlimited」と「楽天マガジン」がサービス開始され、どういう運命の巡り合わせなのだろうと思ってしまいました。サービス比較のため紙の雑誌を購入しようと書店を何店か回ってみたのですが、残念ながら値引き販売している店には遭遇できませんでした。次号の発売日が近くなると棚から姿を消すため目当ての雑誌が購入できないというケースを立て続けに経験し、在庫商売であるリアル書店の不便さを改めて実感させられる結果に。辛い。

日本経済新聞電子版より(スクリーンショット)

日本経済新聞電子版より(スクリーンショット)

【2016年8月3日】 ついに日本でも開始。月額980円で、開始時のラインアップは14万点以上。10万点を超えるようならインパクトがあるだろうと思っていたので、想像以上でした。ジャンルは小説、実用書、コミック、雑誌とまんべんなく揃えており、さまざまなニーズを満たすことができそうです。ただ、出版社のスタンスによって偏りが出ており、単品販売では配信数の多い集英社とKADOKAWAがゼロ、講談社・小学館・ハーレクイン・秋田書店・新潮社・文藝春秋・幻冬舎・スクエニ・早川書房などは10%未満の対応に留まっています。アメリカ同様、大手がかなり抑制している印象です。また、雑誌のラインアップは「dマガジン」や後述の「楽天マガジン」とあまり重なっていないところが興味深いです。

Kindleストアより(スクリーンショット)

Kindleストアより(スクリーンショット)

【2016年8月3日】 インターネット上では蛇蝎のごとく嫌われているJASRACが、音楽以外の分野にも意欲を示しているということで、やはり反発する声が多く散見されます。ただ、デジタル・ネットワーク時代において、誰が権利者かわからない“オーファンワークス(孤児著作物)”問題は早期の対策が求められています。例えば「権利者による権利者不明作品問題を考える勉強会」が3月に文化庁へ提言した「拡大集中処理」と「拡大裁定制度」では著作権管理団体が重要な役割を担っており、JASRACのような集中管理をうまく行っている団体が業容の拡大を図ろうとするのはある意味自然な流れだと言えるでしょう。

【2016年8月8日】 「Kindle Unlimited」開始直後にこのニュース。当初は何を対象とした立ち入り調査なのか不明だったのですが、日経新聞から後追いでズバリ「電子書籍」が対象だという報道が出ました。「ライバル社に有利な条件を提供する時はアマゾンに通知する」などの条件が、独占禁止法上の「拘束条件付き取引」にあたる可能性があるとされたようです。弁護士の福井健策氏による解説が、過去の経緯や海外の動向を踏まえており非常にわかりやすいです。

【2016年8月9日】 こちらは雑誌限定の読み放題。料金・ラインアップ的に「dマガジン」とほぼ正面からぶつかり、「Kindle Unlimited」とは斜めにぶつかる感じです。他サービスと比べると、「楽天マガジン」は現時点でPC非対応なのが痛いところ。ラインアップは「dマガジン」が約160誌、「楽天マガジン」が約200誌、「Kindle Unlimited」が約300誌。私が調査した時点では、3サービスとも配信されているのは60誌だけで、「dマガジン」と「楽天マガジン」の重複が109誌、「dマガジン」と「Kindle Unlimited」の重複が69誌、「楽天マガジン」と「Kindle Unlimited」の重複が106誌、「dマガジン」単独が43誌、「楽天マガジン」単独が36誌、「Kindle Unlimited」単独が170誌(ただし雑誌カテゴリーに出てこない雑誌が存在するため正確なところは不明)でした。ただ、「Kindle Unlimited」には出版社向けに設定された期間限定特別条件の前倒し終了という噂があり、近々にラインアップの大きな変動が起こるかもしれません。

「dマガジン」「楽天マガジン」「Kindle Unlimited」3サービスにおける配信雑誌の重複状況(2016年8月9日時点/作成:筆者)

「dマガジン」「楽天マガジン」「Kindle Unlimited」3サービスにおける配信雑誌の重複状況(2016年8月9日時点/作成:筆者)

【2016年8月16日】 国立国会図書館のインターネット資料保存事業「WARP」の紹介。アメリカでは非営利団体の「Internet Archive」が行っている取り組みです。NHK NEWS WEBは過去記事をどんどん消してしまうので「お前のところこそ過去のページをちゃんと保存しろよ」というツッコミが多数入っています。この記事も、本稿執筆時点ではまだ残っていますが、いつ消えてしまうかわからないので「Internet Archive」へのリンクも貼っておきます。

NHK NEWS WEBより(スクリーンショット)

NHK NEWS WEBより(スクリーンショット)

【2016年8月17日】 「ポケモンGO」フィーバーに対する自治体の対照的な対応。国立国会図書館が運営する「カレントアウェアネス・ポータル」がこの2つの記事を連続して配信したことに何か意図があるかどうかはわかりませんが、あまりに対照的で面白いのでここでも並べてピックアップします。

「Pokémon GO」公式サイトより(スクリーンショット)

「Pokémon GO」公式サイトより(スクリーンショット)

【2016年8月19日】 まず前提として、アメリカのほとんどの公共図書館には、既に「OverDrive」などの電子図書館サービスが導入済みです。その上で、中間業者を介在すると本の仕入が高くなってしまうため、著者・出版社との直接取引へ移行していきたい意向があるようです。中間業者が排除されていくのは、物理・デジタル関係なくどこでも起きる現象ですね。

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 8月もいろいろ興味深い動きがありました。さて9月はどんなことが起こるでしょうか。

 ではまた来月(=゚ω゚)ノ

[今月の出版業界気になるニュースまとめ:2016年8月 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

鷹野凌(たかの・りょう)

フリーライター。NPO法人日本独立作家同盟理事長。『月刊群雛』『群雛ポータル』編集長。ブログ『見て歩く者』で電子出版、ソーシャルメディア、著作権などの分野について執筆中。ITmedia eBook USER、ダ・ヴィンチニュース、INTERNET Watch、マガジン航などに寄稿。アイコンは(C)樫津りんご。近著は『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(インプレス)。


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